見出し画像

梅田の初期作品

梅田宏明のダンスソロ作品『while going to a condition』が来月(2021年2月)、横浜ダンスコレクションのプログラムの一つとして上演されます。これは梅田の振付家としての最初の作品というだけではなく、2002年の横浜ダンスコレクションにて上演し、そこでフランスのプロデューサーに見出されて世界に出ていくきっかけとなった、重要な作品です。

横浜ダンスコレクション  ダンスクロス
梅田宏明 『while going to a condition』 岡本 優 『チルドレン 2021』
2/13(土) 18:00 | 2/14(日) 15:00
横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール

振付家としての最初の作品、2002年の作品、現在世界で活躍するきっかけとなった作品、そのきっかけとなった場所での再演、など、外から見たらただの昔の作品の再演なのですが、梅田のアーティストとしての活動を考えるとなかなか話題性のある公演だと思っています。

数字的ファクト

2002年に発表された『while going to a condition』ですが、2020年までの間に世界で100回以上上演されています。これまでに上演した作品や場所などがリスト化されている資料があるので数えてみたら、この作品が上演された場所は39ヵ国・100都市でした!100都市ピッタリ。もちろんこれは『while going to a condition』だけの話です。”世界中”という言葉は使い過ぎると胡散臭いと思ってなんとなく気をつけてはいるのですが、これはさすがに世界中と言っていいのではないでしょうか…

2002年に制作された作品ですが、現段階で、最後に上演されたのは2019年。今は新しい作品もいろいろあるので機会は以前ほどではないにしても、近年もしっかり上演されています。その度に、2002年の作品が今でもできるって本当にすごいことではないだろうかと思っています。

画像2

作品について勝手に語る

現在でも上演している梅田のソロ作品は一通りライブで見ていますが、私の個人的ナンバーワンの作品がこの『while going to a condition』です。近年の作品の方が映像たっぷりで、恐らくそれが世界で梅田の作品として認知されているであろう形で、それはそれで迫力がありとても気に入っています。ですがこの作品はそれらの根本、梅田の作品の根っこの部分が見える作品だと思っています。

映像や音は最近の作品よりもずっとシンプル、梅田の踊りだけがよく見えるスタイルなのですが、その比較的少ない要素で、観ている側をしっかり揺さぶります。作品を観ている間、無抵抗なまま作品に自分のテンションがコントロールされ、作品の構成に沿ってそのまま気持ちが上がったり下がったり、揺さぶられていくといった感覚です。テンションとか気持ちとか、曖昧な表現になっている部分が、梅田が言う

感情になる前の「情動」

なのではないかと思います。すごく楽しくなる、悲しくなる、という言語化できる感情より、なんか気持ちが上げられてる…といった曖昧な部分に影響する、謎の体験です。

この感覚・体験は、梅田のどの作品にもあるのですが、それが梅田の作品のすごさであり根本だと私は感じています。踊り、映像、音、照明など様々な要素を組み合わせて上記のような感覚を引き起こすことができること、またそれらの観客の体感・感覚を追求するために構成された作品であることが梅田の作品を唯一無二にしていて、各要素がシンプルであるからこそそれらがよく見えるのがこの『while going to a condition』です。私はいつも心の中で梅田作品のスッピンと呼んでいます。

ちなみにこのインタビュー記事の2ページ目に作品のことが書いてあります。テンションという言葉がここでも使われていて安心。

画像2

現在のwhile going to a condition

近年でもまだ色褪せずにこの作品が上演されている理由の一つでもあるのですが、梅田の作品は8割がインプロ(即興)であるため、作品の枠に沿った中で、今そのときの本人の感覚と身体の状態に基づいて踊っています。そのため(ここからは私の理解ですが)、約20年前の作品でありながらも、今だったらもっとこういうことができるのに、といった感じで過去の自分の振付に縛られたり、過去と比較した上での現在である必要がなく、毎回新鮮な状態でそのときのその作品が観られるのだと思います。

そんなわけで、過去作品、それも約20年前に制作された作品の再演ではありますが、現在の『while going to a condition』を、そして梅田の作品の根源的な部分を、ぜひ多くの方に観てもらえたら嬉しいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?