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寡黙な父、暴走す


割とうちは、仲の良い家族だと思う。


私の6倍は喋り散らかすファンキーな母に、すっとぼけている天然で心優しい弟。言葉数の多くない父と、どんなことも斜に構えて笑う私。

この4人で食卓を囲めば、ありがたいことに会話が尽きることがない。むしろ尽きてほしい。そのくせ言葉のキャッチボールができないから、ほぼ一方的なボールばかりだ。さながら言葉のドッジボールである。そしてそれを誰も気に留めない。


中1の時に母が再婚して、今の家族構成になった。
私と弟は、母の連れ子である。

当時の私は思春期&反抗期真っ只中で、ジャックナイフも引け目をとるほどの切れ味だったから、両親には大変な気苦労をかけたような気がする。すまん。

赤の他人が途中から家族になったもんだから、当初はすり合わせという名のケンカが絶えなかった。幾度となくぶつかって、その度に「ふーん、君はそう思うんや」と擦り合わせながら、親子としての微妙な距離感を紡いできた。



父は182cmある大柄な人で、理容師。「イタリア人になりたい」と豪語する彼は、職業柄か娘から見ても同年代の男性よりはかなり身綺麗だと思う。先ほども言った通り口数は少ないし、どちらかというと考え方は「昭和の男」。でも、こんな生き方をしている娘を認めて応援してくれる柔軟性も持っている。


とはいえ、笑うことが大好きな一家の長である。
ポーカーフェイスのまま、これまた幾度となく家族を爆笑の海に叩き落としてきた。



高校生の頃、リビングでテレビを見ていた母・私・弟。ほどなくして、先にお風呂に向かった父が上がってきた。その姿を見て私たちは爆笑した。

なぜか着ているTシャツがビリビリなのである。

母「ちょ、何があったの(笑)」
父「あー、これか?さっき大変だったんだよなあ」
弟「大変って何が(笑)」
父「風呂入ってただろ?」
皆「うん」
父「熊が出たんだよ」
私「ごめんどういう状況」
父「それで戦ってたわけ。強かったわー」

こんなアホみたいなやり取りを、さも本当に戦ってきたかのような顔で言い放つのである。ヤバい奴だ。ちなみにこの件は、たまたま寝巻きにしていたTシャツに穴が空いていたから「お、穴広げちゃお」と思ったのがきっかけらしい。やっぱりヤバい奴だ。イカれてやがる。


そんな父がまた面白いことをした、と母からLINEが送られてきた。
添付されていた動画が1本。

ウイイイイイィィン!という機械音と共に、ポーカーフェイスでキッチンに立つ父。手には工具の電動ドリル。どうしてキッチンに工具が必要なんだ。


その数秒後、彼はそっと電動ドリルに装着した。


3分の1にカットされた大根を。


これは当たり前の作業ですよ、と言わんばかりに電動ドリルの電源をONにする。激しく回る大根。羽生結弦も驚きを隠せない芸術的な回り方だ。おそらく次の金メダル候補はこいつだろう。

そしてそれをまた当たり前のように、おろし金に当てた。見る見るうちに大根がすりおろされていく。撮影者である母の大爆笑がスマホのスピーカーから漏れる。父の顔はいたって変わらず、ポーカーフェイスのままだ。


「なんかおろしづらいな」


彼のその一言で動画は締めくくられた。いやそこまでやったのに使いづらいんかい!!!何してん!!!!!無駄やろ!!!!!


こんなひょうきんで愉快な家族と、暮らしている幸せ。
父、母、そして弟。いつもありがとう。
たまにむかつくこともあるけど、できる限り4人でアホみたいなことで笑えると良いなと思っている。







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