リソグラフィエンジニアの戯言

半導体前工程のイエロールームに10年余。ものすごく狭いのに果てしなく広大な生産技術のあ…

リソグラフィエンジニアの戯言

半導体前工程のイエロールームに10年余。ものすごく狭いのに果てしなく広大な生産技術のあるあるを言語化してみるテスト。

最近の記事

出会いを形に。露光機のマッチング

"ミックス アンド マッチ" という言葉があります。ググってみると、ファッションにおいて様々な種類のデザインを組み合わせて着こなすこと、らしいです。 この言葉、ものづくりでは装置性能の組み合わせを指し、特に半導体工場における露光機の組み合わせという特化した意味合いを持ちます。(どうも他の業界ではあまり使われていないっぽい) このNoteは工場立ち上げ・運営における露光機マッチングの重要性についてのお話です。広告サイトではありません。 ■ 露光機のマッチング特性半導体工場

    • 白黒はっきりしようじゃないか

      ガラスマスクの、白ヤギさん🐐と、黒ヤギさん🐐の話です。 会社によりけりで定義が違うと思うのです、一つのオーソドックスな考え方としてご容赦ください。 マスクレイアウト種類として「正転マスク」と「反転マスク」、そしてその描き方そのものとして「白」と「黒」があります。 こんな使い方をします。例えば「正転マスク」では、 黒部分 =CADデータが描かれている所 =マスク上は不透明 白部分 =CADデータが描かれてない所 =マスク上は透明 例えばアルミ配線のように「残す」パタ

      • リソグラフィ再生とマルチパターニング

        リソグラフィ工程の再生(リワーク)について、からの、マルチパターニングのお話です。 半導体工程の種類多しと言えど「やり直し」ができる工程は限られます。その稀有な存在が不動のボトルネック、リソグラフィ工程だったりします。 ■ そもリソ再生とは 「リソ工程中のレジストを剥がして再処理する」ことです。 ウェーハに塗布されたレジストは言わば溶媒を飛ばした樹脂膜です。これは下地影響なく綺麗に剥がすことが可能です。 この絵のマスク(レジスト)部分を、エッチングやイオン注入前に剥

        • Stitch露光について

          大チップ製品の話題とともに時々取り上げられつつある、Stitch露光の概要と、ほんのわずかに深掘りです。 半導体露光の特徴的な制約の1つが、露光エリアサイズです。半導体前工程で製造されるチップは、このサイズ以下であるのが通例です。 一般的な縮小投影露光では世代により(ウェーハ上mm換算で)20x20、22x22、26x33などがあります。 また主に後工程に用いる等倍露光では 52x52、52x68、78x66、場合によってはウェーハ全面(このあたりの装置はアライナーと呼

        出会いを形に。露光機のマッチング

          そこのけそこのけダミーが通る

          半導体工場の、ダミーウェーハってなに?のお話です。 まず、半導体工場で使用される製品グレードのウェーハ(プライムウェーハといいます)は、平坦性、欠陥、エッジ形状、Epi厚、シート抵抗など諸々のデバイスライン要件に達したものを指します。 それとは別にダミーウェーハというものがあります。エンジニアはこれらに囲まれた仕事といって良い。SEMI用語としてNPW(Non-Product Wafer)と呼びますが、ここでは簡易的にダミーと表現します。 囲まれているというのは、製品は

          そこのけそこのけダミーが通る

          レガシーマインドに魂を吹き込めるか

          少し人間臭いことをつらつら書く。 工程保証のインライン検査での不具合、例えば表面検査ムラ、寸法外れ、ウェハーエッジ形状、いつもと違う色合い.. 何れかが一定以上の基準を超えて見つかったとする。 検査員は検査NGとして通報をし、エンジニア対応に渡される。ここからがお手並み拝見になる。 判断は大きく3つ。 ①これは工程実力であると判断し流動を続ける(様子見、ともいう) ②このロット単体での異常と推察、前後ロットを確認して適宜の判断をする ③ライン異常と判断、原因と推察

          レガシーマインドに魂を吹き込めるか

          新技術に「ピンと来る」

          半導体技術、特にリソグラフィ界隈でのこの20年ちょっとの思い出を語ってみます。 ハードワークが収益につながった1990年代 半導体リソグラフィにおいて、1990年代のDUV(エキシマレーザープロセス)普及と平坦化プロセスへの移行は、gi線が担った旧ラインと地続きでした。目新しい装置群は増えたもののライン構成がドラスティックに変化したわけではなく、1990年代に叩き上げられた生産技術者・設備技術者は持ち前のハードワークで安定化に漕ぎ着け、その後もいわゆる「すり合わせ」で強み

          マーキングについて少し深掘る

          ウェーハのマーキング(刻印)について。 業界の方々にはお馴染みのマーキング。レーザーマーカーなど装置的・技術的なお話はスキップして、生産現場での運用についておさらいしておくのもいつか役に立つかも。 ■ ちょっと概要 ウェーハマーキングの目的は、トレーサビリティ確保、および製造・検査装置での自動読み取りによるウェハ―識別です。裏面、または外周の無効エリア(製品として品質担保しないエリア、3mmとか4mmとか)にユニークな文字列を刻印します。 刻印タイミングは主に投入時点

          マーキングについて少し深掘る

          EUVペリクルの話題をざっくり解説

          EUVネタで主役とはならないまでも、それなりの頻度で現れる「EUVペリクル」に関する話題。難しいところに深入りせず、記事トピックスを見て「ああ、このことを言ってるんだな」とざっくり把握できるくらいにトピックスまとめてみました。ご拝受ください。 ※随時アップデートするかもしれません。 EUVマスク用ペリクルのトピックス■ そもそもEUVマスクにペリクルいるんか?問題 EUV黎明期からの基本的なトピックです。まずはおさらい。 DUVまで、マスクとペリクルは「ワンセット」で

          EUVペリクルの話題をざっくり解説

          クリス・マック博士について

          どの業界にも、指導者やグルと呼ばれる人たちがいて、半導体だとアナロググル(リニアテクノロジー社の創始者たち)が有名ですが、 半導体リソグラフィにも誇るべきグルがいます。クリス・マックという科学者です。いつも以上にマニアックですがとても魅力的なので紹介させてください。 Chris A. Mackは1960年生まれ。高校でテキサスに移住後、Tシャツプリントのビジネスを立ち上げます。シルクスクリーン(孔版)印刷で4色の絵柄をプリントして売るビジネスです。ここですでにリソ職人なの

          クリス・マック博士について

          美しき塗布の世界

          レジスト塗布プロセスに関しての単発ネタです。 何をなくともハードセッティング 結構捨ててる 音無し条件はいい条件 芳香族 冷えピタ 美しき塗布の世界 レジスト塗布のハイスピードカメラ映像。 自らで組んだレシピ挙動を現場で眺めるのも大事ですが、こういったテクノロジーの目で観察するのも色々な考察に繋がってとても良い。→ https://t.co/W8aNRatT7U — リソグラフィエンジニアの戯言 (@ProbablyClass1) April 8, 202

          露光装置のステッピングの話

          露光装置の肝のひとつ、ステッピングについてのお話です。 露光の教本などには、一番最初に「コンタクト露光」と「縮小投影露光」の説明があるかと思います。ここでのお話は後者です。マスクを透過した光がレンズにより1/4または1/5に縮小され、ウェハに露光されるタイプのものです。その現場寄りなお話し。 ステップ&リピート = ステッパ ステップ&スキャン = スキャナ、今回は双方に共通で使える考え方です。 ※ 上記のASMLさんの動画、正確に言うと露光しているのは右上で動いている

          露光装置のステッピングの話

          露光解像の直観的な説明をしてみるよ

          リソグラフィの露光解像性 〜 NAと焦点深度について、数式を使わず、直感的な理解の一助になるよう解説してみます。自分ならざっくりこう説明するかな??という書き口になっています。 解説する小項目としては レンズNAって実際なんなの 焦点深度とどう関係あんの じゃあ解像性を上げるには何すりゃいいの です。いわゆるレイリーの式やフーリエ変換、具体的な定数・変数などは一旦お忘れください(暴挙)。 ■ レンズのNA(開口数・絞り)って? ある透明/不透明のシマシマのマスク

          露光解像の直観的な説明をしてみるよ

          工場ボトルネックについての私考

          工場における生産ボトルネック、についての私考です。「ボトルネックは動くのだ」という言葉に惑わされないで、というお話です。 ここでのお話の前提 仮の話として半導体前工程ラインのキャパ設計をしてみる。話を思いっきりシンプルにするために 単一製品(全30層) 20ロット(x25枚)/日 を作るラインがほしいとする キャパ設計はリソグラフィ工程をボトルネックにするのが一般的。理由は主に高価かつ機台追加(コンパチ化)が難しいため。 30層のうち5層は特定ハイエンド露光機が必

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