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「ギリック能力」をジェンダー的に見る

今日は病まないように生きることができたので比較的元気。

私は文系学部の人間なのだが、医学と倫理に関する授業を受ける機会があって、これが中々面白かった。

その中から、今回は「ギリック能力」という概念について、少しだけお話ししたい。私はあくまで医学やその倫理については門外漢であるが、少しでも正しい説明になるよう努める。


「ギリック能力」とは、未成年者の医療行為において、当該未成年者に同意できるだけの「十分な能力」があると判断されれば、その親の同意を得ることなく、当該未成年者の同意のみで治療行為が行える、というその時の「十分な能力」のことを指す。

この考え方が最初に示されたのは1985年にイギリスでなされた事件の判決においてだった。以下、その事件の説明をする。

13歳の少女が14歳の少年との間に子供を妊娠した際、その少女に対して妊娠中絶や避妊用のピルの処方などの措置が取られるべきかが問題となった。こうした措置は、例外的に16歳未満の少女(当時は法的に16歳以上であれば医療行為の同意が可能であった)に対しても、親への連絡や同意なく行えることができることが、保健省の通知によって示されていた。

この時、少女の母親(ギリック夫人)は敬虔なカトリック教徒としての立場から、こうした措置をしないことを要求していた。

この事件における裁判において示されたのが、後に「ギリック能力」と呼ばれるようになる考え方だった。

つまり、法的に定められた16歳という年齢に達しているかどうかではなく、実際問題としてその未成年者が判断能力を有するか、という点に着目したのである。

なお、この事件の裁判では当該少女にはギリック能力が認められなかったが、少女の承服や受容を理由に医師が処置を行うことが少女にとっての最善の利益になるとして、医療行為を適法としている。


さて、なぜこの出来事を取り上げたかというと、このギリック事件やギリック能力という考え方が、ジェンダーの文脈で見て興味深いと思われたからである。

まず、ギリック事件においては、最終的に少女の妊娠中絶などにかかる行為が適法とされている。

リプロダクティヴ・ヘルス/ライツという考え方が国際社会で提示されたのは、1968年の第1回国際人権会議、テヘラン会議であったとされる。それから徐々に女性の権利が主張されるようになったが、事件判決がなされた1985年は、国際婦人の10年の最終年であり、第3回世界女性会議、ナイロビ会議が行われた年でもある。

なお、子供の権利に関しては、1959年に国連で児童の人権に関する宣言がなされるなど、子供自身の権利についての意識は高まりつつあった。1989年には児童の権利に関する条約が採択されている。

ギリック事件はこうした流れの中において、社会的に児童でもあり、家族関係の中で子供でもあり、しかし妊娠した女性でもある少女について、様々な権利意識の集約の結果、上記の判決が下されている。

私レベルの知識ではその価値について中々判断しきれないので、是非見識ある方の意見を聞いてみたい。


また、ギリック能力については、何となく思い出すことがある。「未成年者」と「成年者」の交際についてである。

今年(2020年)2月にAbemaTVの番組で、未成年者と成年者の交際について取り上げられていた。そこでは高校1年生の時に出会った2歳年上の男性と真剣交際し、妊娠を機に結婚、現在は現役高校生でもあり、モデルでもあり、母親でもあるという女性も取り上げられていた。

私は、未だにこのケースの見方が分からない。彼女が高校1年生のときに2歳年上の男性に対して恋愛感情を持ったということ、男性が恋愛関係に踏み切ったこと、18歳未満とのわいせつ行為と、結婚が現在は女性は16歳からできることの関係、などなど。

こうした「未成年者の成年者の交際」は成年者の男性と未成年者の女性という組み合わせが多いイメージはあるし、18歳未満とのわいせつ行為で摘発されるのは男性が多いイメージもある。ただ、それ以外の組み合わせの場合は、何かが変わるのだろうか。

18歳や、16歳という数値の意味は何だろうか。上記の「現役高校生ママモデル」の彼女は、いわば「恋愛的ギリック能力」が適用されるのだろうか。彼女自身の承服や受容は、どれほど制限されるべきなのだろうか。

もちろん、こうした未成年者と成年者との間に明確に生じると考えられる権力差などを見過ごしたり、あるいは未成年者にわいせつ行為をしようとする成年者の実際の加害からは目を背けるわけにはいかない。

ただ、それだけで語れないことも、考える価値はあると思うのだ。

もし、ジェンダーの視点から「ギリック能力」などについて考えている文章があったら、是非教えていただきたい。

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