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【プリズンライターズ】眠れない夜の向こうに

皆様こんにちは。A352です。
これから始まる駄文と愚詩を読んで頂けたら幸いです。
そして誰かの心の中に、私の言葉が残ってくれると知れば、それ程嬉しいことはありません。

誰もが皆、眠れない夜を過ごしたことがあるでしょう。
それは恋の悩みだったり、誰かへの怒りだったり、それは千差万別。
同じようなことはあっても、同じではない。
刑務所という所では、考えることが尽きるということはない。
何度も同じことを考え、答えが出ず、そしてまた考える。
過去のこと、現在のこと、そして未来のこと。
日々の対人関係や自らの罪のこと。
家族に友人、被害者と遺族のこと。
他にもたくさん私は考えて今に至り、これからも考える。
それは何故か?
考えて苦しむことが、自らで自らに科せる罰であり、
この中で可能な償いへの1歩だからです。

しかし、その苦しみばかりを自らに科し過ぎれば、大切なことが見えなくなります。
それは私たち受刑者が罪人でありながらも生きて行かねばならないということです。
人並みに生きる、生き直す為に私たちはここに居る。
誰もが必ず、誰かと共に生きています。その人の為に笑い、泣き、怒り、悲しむ。そして共に喜べたら、それこそ人らしいと私は思います。
罪を忘れず、与えられたものに感謝し、苦しみと後悔を抱えつつも、隣り合う人と日常の些細なことに笑い合えたら、人並みに生きれている気がします。
けれど苦しいことは必ず多くやって来ます。
私は無期ですから、先が見えないことはもちろん、家族や友人とも縁が切れたり、所内での生活も不自由しかありません。
しかし、この苦しみを最後まで苦しんでやれるのは私だけです。
私の為の苦しみですから。。。他の誰でもなく
私に与えられた苦しみ。
それと向き合うことが、今を生きる私にとっては人への道なのです。
「眠れない夜の向こうに」という詩は、私が単独室で生活していた頃に作った物です。
タイトルにあるように、眠れない夜に頭の中に浮かんだ言葉を書きました。
正直、自分では良いと思えず、コンクールの締め切りに追われて1日で仕上げた作品です。
一応、2位という結果にはなりましたが、今回少し加筆修正したものを皆様に読んで頂きたい。そして感じたことを教えて下されば、とても嬉しく思います。
教養の無い素人の愚詩ではありますが、御笑覧頂けたら幸いです。

眠れない夜の向こうに


眠れないそんな夜は
天井を見つめる時間が長くなる
少し明るい常夜灯が照らすのは
カビで染み付いて汚れた
白かったはずの天井だ
仄かに揺れる光と影が
通り過ぎたあの日を静かに映す
忘れそうな思い出を朧(おぼろげ)に映し出す
それは追憶への旅路
思索への遥かな誘い

いつからだろう
夢を持たなくなってしまったのは
いつからだろう
何かに期待しなくなってしまったのは
いつからだろう
諦めることばかり多くなってしまったのは
もう思い出すことさえ出来ない

生まれた時は誰もが
心に穢(けが)れの無いキャンバスを持つ
息苦しさが生き苦しさに変わり始め
時が経つごとに浸食されて黒くなってゆく
それは真っ白いキャンバスを
細い筆で少しずつ黒く塗り潰すような
そんな感じだったりする
目に映る物がモノクロになり始め
新鮮さと色彩を欠き始める
そして少しずつ少しずつ気づかない内に
心は黒く凝ってゆく

苦しいとか悲しいとかっていう感情は
いつも先回りばかりして
僕たちを待ち受けているようだ
それならそれもいいだろう
ただ出来ることならば
嬉しいとか楽しいっていう感情も
同じ頻度で待ち受けていて
同じ強さで僕たちを襲ってくれないだろうか
もしそうしてくれたなら
何も言うことはないのだけれど
いつも心のベクトルは
苦しいとか悲しいの方ばかりへと
大きく傾き そしてそれに囚われる
それはまるでコンパスの針が
必ず北を指し示すように
僕たちを捕えて離さない

どんな事にも終わりがあって
いつかはその日が訪れることを
誰もが理解っているはずなのに
今日も知らない振りをして
明日も忘れた振りをして
怠惰な日々は暮れてゆき
僕たちは無為という名の
甘い花の蜜を吸い続けてしまう

自然に四季があるように
人生にも四季があるようだ
僕は今 長い長い冬の中に居る
冷たい向かい風に曝(さら)されて
前を向いて進めない日もあるけれど
そんな時は立ち止まり
素直に後ろを向いてしまえばいいと思う
そしてそのまま後退ればいいではないか
前進したことになるのだから

変わってゆくことの大切さ
変わってはいけないことの大切さ
純粋さを失うことなく
濁世(じょくせ)を渡る強かさを持ちたい
大器でなくていい 平凡でさえなくていい
ちっぽけな人ぐらいが丁度いい
その方が足下に転がり散らばる
小さな小さな幸せたちを
見つけ易いはずだから

今ここに在ることに感謝しよう
当たり前のようで 当たり前ではないことに
隣り合う人と出会えたことに
日常の中に埋もれていて
気づかなかった些細な幸せに
笑えることに 涙することに
楽しいことに 悲しいことに
嬉しいことに 悩めることに
苦しいことにさえ感謝しよう
恨み言の多い人生も
明日にしか見えない景色がある
艱難(かんなん)を糧とした蕾の方が
時を掛けて大きく綺麗な花が咲くだろう

感謝しながら生きてゆこう
「ありがとう」の一言で
生まれる笑顔もたくさんあるはずだから
そんな細やかな毎日こそが
人生を豊かに彩ってゆくだろう
そして心に枯れない花を咲かせよう
小さくとも朽ちない真っ白い花を

僕は咲かせていたいと願う


濁世 / にごった世の中。 道徳や政治の乱れた世の中
艱難 / 困難にあって苦しみなやむこと。つらいこと

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