第4章〜川越少刑新入訓練編 第1犯〜軍事パレードの大会があるってホント?
めでたくA施設に落ちた囚人は、Bに行った人に比べて多くの仮釈放を頂けることになる。まあ、その分結構厳しいんだが。
そして今後出所か他施設に移送されるまでここで過ごすことになる。
新訓工場も前期と後期に分かれていて、それぞれ1週間ずつだ。
ちなみに前期生と後期生の絡みは皆無である。
部屋に関しても前期生と後期生は別の部屋が用意されている。
で、うちらはここで初めて独居房から雑居房へと生活が変わっていった。
俺は10人部屋に入れられた。全員川越のセンター工場出身者だった。
他の部屋には仙台と名古屋の分類センターから来た奴がいた。
あと20歳未満の少年受刑者も一人だけいた。
こいつだけは「少年工場」と呼ばれる工場に配属が決定している。
とある県で女子高生強盗殺人をやった奴だった。
大々的にメディアを賑わせていた事件だ。
刑期は14年って言ってたな。おそらくもう出所していると思うが。
この件で無礼な同囚が事件の詳細を質問していて、それに礼儀正しく答えてる場面に出くわしたが、本人の人柄を見てみるととても信じられない気持ちになった。
それだけ物静かな好青年って感じだったし、そんな好青年がやった事件内容とのギャップに唖然としたのを今でも覚えている。
さて、川越にお務めさせて頂くにあたって新人受刑者は「新入訓練工場」と呼ばれる新人指導の工場に2週間行かされる。
ここで基本的な行動訓練や生活指導なんかを身に付ける。
この行動訓練が本気で軍隊。某北の国家で行なっている軍事パレードに似た動きをイメージして頂ければと思う。
流石にあそこまで大げさな行進はしないが、一糸乱れぬ統率の取れた動きを50人以上で完璧に行うことを初っ端から要求される。
クソ寒い刑務所のグラウンドで汗だくになるまで軍事パレードの練習を行う毎日。
ちなみにここで行進などの団体行動における基本動作を身に付けていないと、工場に行ったら先輩受刑者に死ぬほどイジメられる。
あとこの2週間で、川越のどこの工場に配属させられるか面接などによって審査される。
みんなそれぞれの留置場・拘置所で先輩などから情報を仕入れていただけあって一定水準の刑務所知識を持っていた。なのでみんなどこの工場に行きたいかある程度の狙いは決まっていた。
後述するが、主に「生産工場」と「経理工場」に分かれていて、みんな経理工場の方に行きたがっていた。てか生産希望は一人もいなかった。まあ当然だが。
前置きが長くなったが、そんなこんなで我々の川越生活が今まさに始まろうとしていた。
そんな新生活の第一歩の担当が新訓工場担当刑務官は囚人達から「メスカブト」と呼ばれている刑務官である。
メスのカブトムシが刑務官の制服を着ているイメージで差し支えない。
軍事パレードを監督するオヤジの姿は、まさに北の将軍様そのものだ。メガネが足りていないけどとりあえず太っていらっしゃる。
オヤジはまず最初に行進と掛け声を教えてくれた。
「その場足踏み〜、はじめ!」の号令と共に、直立不動だった囚人が息を吹き返したように行進を開始する。
オヤジが即座に「いっち に!」と叫ぶ。続いて囚人が「いっち に!」と叫ぶ。これを1時間くらいやったと思う。なんせ時計がないから時間が分からない。でも終わりが見えない分疲労感がエグかった。
ただ一個だけ良い点としては、普段大声を出すことを禁止されているので、ここで合法的に大声で叫ぶというのは結構いいストレス発散になった。
やっと(川越基準で)まともな足踏みになった頃合いでグラウンドに放り出される。今度は移動を伴う訓練だ。
まずまっすぐ歩く、そこから「回れ右前え〜 進め!」と言われる。
前期生は一人の例外もなく「?????」となってしまう。
後期生はかなりのドヤ顔でこちらを見ている。
人生でこの単語を習ったことのある奴はレアケースだと思う。
きっと防衛大学出身者か、親族に刑務官がいる奴じゃないと知らんと思う。
してこの「回れ右前え〜 進め!」ができない奴が大半を占める。
全員がこの技を習得するまでに何十回も繰り返し練習させられる。
ただまっすぐ歩いて切り返して戻ってくる、こう書くと簡単に聞こえるが、オヤジの号令の最後のタイミングで出す足が決まっており、その一歩からなん歩か歩いて体を180度向きを変える。
ここでもまた最初に出す足が決まっていて、これを一連の流れでやるとできない奴がほとんどだ。
俺は昔ダンスなどをしていたこともあってすぐに習得できたが、運動音痴な奴にとっては地獄だっただろうな。
この頃は今の法律ではなく「監獄法」だったからこんなパレードを訓練させられていた。
なんとこのパレードは工場対抗の大会まであって、囚人たちは死ぬ気で優勝を狙っている。
そんな環境だからモタはイジメられる。ここでの自然の摂理なので諦める他ない。
他にも多くの軍事行動を習得させられ、後期生が工場へと旅立っていった。
今度は我々が後期生としてわずかな余命を過ごすことになる。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!
次回は後ちょっとで工場に行っちゃう囚人の心理なんかも書いていきますので、是非またお読み頂ければと思います。
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