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第5章〜病舎看護係編 第1犯〜なにここちょっと楽しいんすけど(前編)

受刑者だった身分でこの不謹慎なタイトルは如何なものかと思いましたが、ご愛嬌ということでお許しください。
今回は病舎看護係としてお務めさせて頂くことになりましたので、その業務だったり新人の仕事(以降は「サラ仕事」という)なんかに関して書いていきたいと思います。
★ちょっと長文になりますので、前半と後半に分けてアップします。

さて、前回工場の言い渡しを受け、めでたく経理作業の一つである「病舎看護係」としてお務めさせて頂くことが正式に決定した。
これでなにも問題を起こさなければ、普通よりも多くの仮釈放を頂ける。(仮釈放に関しては後述します)
言い渡し後に俺は一人だけみんなと違う方向に連行されて行った。
場所的に言うと一番最初に過ごしていたセンター工場の裏あたりだ。
文字で書いても全然イメージができないと思うから、今必死に川越刑務所見取り図を書き直しています
病舎にいた時に書いてたんだけど、見返したら「ん?」って感じだったから書き直してます笑

話を元に戻そう。
センター工場の裏手にある「病舎」と呼ばれる2階建ての建物、その中に連行されて行った。
「おお!入所時に来たことのある医務室があるぞ。」
「ん?こっちの区画は囚人が入院してるのか?」
「あ、あれここのオヤジっぽいぞ。けっこう優しそうだ。」

みたいなことを考えながら歩いていた。

連行のオヤジが病舎の担当が鎮座している担当台まで俺を連行し、
「本日より配役の1434番ムショ君、連行しました」
と絶叫し、俺の書類らしきものを渡していた。
これで俺は正式にここに配属となったわけだ。緊張する。

連行のオヤジが足早に撤収すると、俺は書類と睨めっこしているオヤジと二人きりになった。そして書類から目を離したオヤジがただ一言
「7年か、なげ〜なw」
と言った。
ぶっちゃけユーモアのあるオヤジに見えたので一気に緊張がほぐれた。
そしてこの時一人だけ残っていた看護係仲間(先輩)を紹介された。
以後はこの先輩を含め、今ここにいない2人を合わせた3人の先輩に仕事を教えてもらうことになる。
そう、俺を含めてここには4人しかいない。

ここで刑務所知識をひとつ
刑務作業は「生産」と「経理」に分かれますが、基本的に生産工場は大人数です。昭和の工場みたいな感じでみんな作業しています。冗談抜きであんな感じです。
反対に経理は少人数システムです。分類時における狭き門なので、経理作業に就けること自体がレアです。そんな少人数のエリートは他の受刑者のお世話をするので、生産工場みたいに大人数でなくてもいいのです。
ただ、炊場工場に関しては結構な人数がいます。ここは全受刑者の食事を作っている工場ですので、それなりの人数がいないと作業が回りません。

と、言うことで、少人数の場所なので4人のみということです。
他の二人は各工場を巡回している医務オヤジの付き添いで刑務所内を縦横無尽に回っているのだとか。
んで本日巡回のない居残りのHセンパイに作業を教えて頂く。
Hさんは今は亡き神の子山本キッドさん瓜二つと言って差し支えないイケメンだ。
中日本のとある県で強盗をして捕まったらしい。5年とか言ってた。

この時神の子は「凍傷膏(とうしょうこう)」なる紫の軟膏を練ったりラップで包んだりしていた。
神の子はこれを一個一個小分けして、イムカイシンなる仕事の時に受刑者に配るのだと説明してくれた。
神の子はイムカイシンとは「医務回診」といい、薬を大量に入れたオカモチを持って医務の刑務官についていく仕事だということも教えてくれた。
神の子だけあって、この人が出所するまで腹立つ所のないいい人だった。

受刑者の先輩は例外なく怖い存在だと吹き込まれてきたので、オレは神の子の優しさに触れ、刑務所の人間関係も捨てたもんじゃないと思った。

てか思ったんだけどここの工場結構ユルい。
刑務所って一言も喋らずに黙々と何かを作って、トイレに行くのも落とした物拾うのもオヤジの許可がいるのに、ここはカッター平気で使ってるわストーブあるわ普通に喋ってるわトイレは一応断るけど行き放題だしお茶も飲み放題。
イッパツで刑務所を舐めました。

そんなこんなで神の子と楽しく凍傷膏を作っていたら、昼前くらいに医務回診を終えた二人が戻ってきた
一人はNさんといい、中部地方でシャブで3年のいい人だ。
もう一人はU。都内で窃盗で2年半の嫌な奴だ。

この時の病舎看護係はちょっとイレギュラーな編成だったので一応書いておく。
通常何もなければ人不足なんて起こりえないんだが、刑務所って罰則の基準が異常すぎて問題が起こって当たり前みたいな感じだから、優秀な工場でもたまに問題が起こって人員不足になる
元々いた4人が何かしたらしく取り調べとなり、Uだけがすぐに戻ってこれたんだと。でも他の3人は真っ黒で戻れないから他の経理工場にヘルプ要請を出したようだ。
そこで「舎内掃」という建物内の清掃をしている工場にいたNと神の子に白羽の矢が立ったのだった。
二人は選択の余地なしにここへと配属されて1週間くらい経ったらしい。
ちなみにヘルプで飛ばされるやつを何人も見てきたが、そのほとんどがべらぼうに優秀な人材だった。ここで言うNと神の子も優秀な人材だった。

Nに関してはシャブ中なのに優秀だったし人柄も良かった。
シャブ中は脳機能がイカれるというのが定説っぽくなっているが、これは大きな間違いだ。純度の問題もあるし人それぞれ細胞なんかも違うので、悪影響が一切出ない人もいる。Nさんに関してはただの優しい優秀なお兄さんだ。会いたいだけで震えてしまう女性アーティストもいるが、Nさんは寒さ以外で震えなかった。
エロ本も貸してくれたし本当にいい人だった。
きっと今も楽しく注射しているのではないかと思う。

そしてUには凍傷膏の作り方でソッコーでダメ出しされた。
「こんなもん渡したらクレーム来るだろ?全部作り直せ」
との事。神の子は黙っていた。どうやら刑務所では神の地位は低めらしい。まあこんな軽い嫌がらせは慣れていたので黙って従うのみだ。

そんなこんなでよく分からない編成の4人がここの全人員だということだ。

ダメ出しが終わった頃合いで3人の動きが変化した。
どうやら昼食の支度を開始したらしい。炊場から届いた病舎全体の人数分の昼食と食器。Uはオレに「見ていろ」と指示を出し、大きめなスノコを腰の高さに何台も並べた。スノコの上に人数分の食器をズラッと並べ、オカズを一種類だけ取り分けていく。全て均等にならして立会いのオヤジのチェックを受ける。
これをオカズの種類だけ行う。
オカズはだいたい小分けになってるヨーグルトやフルーツなども含めて3〜4品だ。栄養士が考えたバランスメニュー。正直言うとシャバで真似て作った料理もあるくらい美味しいものもあった。

オカズを全部取り分けたら各部屋に配りやすいように台車の上に並べる。2階にも病室があるので、階段で2階の分を運び、同じように台車にセットする。
米は一人分を計量して人数分が来るのだが、いくつか種類があって、病状や身長によって違うから配る際には注意が必要だ。
ちなみに工場によっても米の量は違う。
あと病舎にいるやつはだいたい食事制限だから減塩だったり流動食だったりいろんな食事の奴がいる。
これら食事の違いを全受刑者分分かっているのってうちら看護係と炊場だけだ。
元受刑者などと話す際にこの知識とか案外知らない人がいるから一目置かれるよ。

そんな面倒な食事の配当はまだできないから、オレは大量の茶が入ったヤカンを持って、各舎房にお茶を注いで回る係になった。
まずはチャイムの前に各舎房の食器口なるものを開けに行く。何か用がない限り閉じている縦20cm×横30cmくらいの扉だ。腰の高さに付いている。
んで開け終わったら
「お茶配当〜!」
って叫ぶ。すると入院患者は全員食器口に空のヤカンを置く。俺はそのヤカンにお茶を入れて回るってスンポーだ。
受刑者は気が短いので怒らせないように注意深く注いでいるとUが走ってきてとりあえず蹴られた。どうやら遅いという表現らしい。とりあえず謝った。
んでUがオレからヤカンを強奪し、バッシャバッシャこぼしながらお茶を注いで行った。
「えwこれケンカになるっしょw」
と思ったのだが、どうやら掃夫というのは一段上のヒエラルキーに位置しているので案外大丈夫なんだとか。
もちろん人を見てやっているってUは言っていた。クソヤローだ。
そんなに急ぐ理由もないはずなのに蹴られたので、今後は人を見てバッシャバッシャやっていこうと思った。
(頑張ってスピードアップしたけど丁寧に注いでいたのでノークレームでした)

そんなこんなで配り終わったら自分らの食事を楽しむ番だ。


今回も最後までお読み頂き本当にありがとうございます。
そう言えば「川越少年刑務所 懲役用語集」が完成したので近々アップさせて頂きます。
もちろん無料ですのでお楽しみください。

それではまた次回も宜しくお願い致します。

川越少年刑務所 病舎看護係 1434番 ムショくん

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