今注目の電源に共通するパワエレ制御の基本技術 ~パワーコンディショナからモータドライブ・ワイヤレス給電まで~
はじめに
第34回 電源システム技術シンポジウム(テクノフロンティア 2019)にて
「今注目の電源に共通するパワエレ制御の基本技術」
~パワーコンディショナからモータドライブ・ワイヤレス給電まで~
というテーマで講演させていただきました。この講演では、様々なパワエレ装置(電力変換システム)の1つとして「ワイヤレス給電システム」についても解説しました。
このノートでは、私が電源システム技術シンポジウムでワイヤレス給電をどのように解説したのか、その概要についてまとめます。
ワイヤレス給電は系統連系インバータと同じ
このような図を使って「ワイヤレス給電は系統連系インバータと同じ」と初めて説明したのは、2015年11月に開催されたPSIMユーザ会 2015なのですが、系統連系に詳しい人はすぐに理解できるのに対して、ワイヤレス給電が専門という技術者には中々理解が広がりません。
そこで、今回の講演では、できるだけシンプルに解説してみました。
●1次側のインバータは発電所(発電機)
1次側のインバータは、特別な制御をせずにデューティ比が50%の一定電圧、一定周波数の電圧を出力します。つまり、配電系統では発電所に相当します。
●送電コイルと受電コイルは変電所(トランス)
送電側と受電側の2つのコイルはトランスです。配電系統では変電所に相当します。
●ワイヤレス給電は系統と同じ交流線路
配電系統の電圧は50Hzまたは60Hzの正弦波ですが、ワイヤレス給電ではもっと高い周波数の矩形波が用いられます。
また、通常のトランスは鉄心を使いますが、ワイヤレス給電の2つのコイルは空心のトランスであるため磁気結合が非常に弱くなります。
これが系統とワイヤレス給電との差異ですが、逆に言うとこれ以外は同じ交流線路と考えて良いということです。
●2次側インバータは系統連系インバータ
以上のように、ワイヤレス給電が系統と同じ交流線路であることが理解できれば、2次側のインバータは系統連系インバータと同じように制御することができます。
特許庁も特許審査で配電系統の技術を引用
私は2013年に、無効電力補償というパワエレ技術を使ってワイヤレス給電の受電電圧を一定に制御する方法を特許出願しましたが、特許庁はワイヤレス給電も交流線路であるとして、配電系統の発明を引用して拒絶査定としました。
また、この拒絶査定に対して拒絶査定不服審判を請求しましたが、特許庁は交流回路における共振コンデンサは無効電力源に相当するとして、共振コンデンサを用いたワイヤレス給電を引用して拒絶査定を維持すると審決しました。
ワイヤレス給電を考える場合には、非接触であることばかりに注目せず、特許庁のように交流理論で扱える交流回路であるという視点から捉えることで、開発課題を解決できる可能性が高まります。
コイルの位置ずれ補償は2次側からの励磁制御で実現できる
ワイヤレス給電の回路が交流回路であり、系統連系インバータと同じように制御できると、どのようなことが実現できるのでしょうか?
そこ答えの一つが「2次励磁制御ワイヤレス充電システム」です。
ワイヤレス給電と通常の電源装置(電力変換システム)との最も大きな違いは、ワイヤレス給電では通常よりもトランス(送受電コイル)の結合係数が著しく小さく、またコイル間距離によって結合係数が変化することです。
つまり、このようなトランスを使って、どのように負荷へ安定した電力を給電するのか、これがワイヤレス給電の重要な開発課題の1つです。
ここで紹介した「2次励磁制御ワイヤレス充電システム」は、系統連系インバータと同じように有効電力と無効電力を自在に制御することができ、2次側から充電(有効電力)と励磁(無効電力)を同時に制御しています。このようにして、結合係数が小さく、またコイルの位置がずれによって結合係数が変化しても安定した給電を実現しています。
このように、ワイヤレス給電へ系統連系技術を適用することは重要かつ有効であることは系統連系の技術者はすぐに理解してくれます。
その一方で、ワイヤレス給電分野の技術者は、すぐには理解ができないようなので、わかりやすく説明できるようにこれからを工夫していきたいと思います。