はじめて即売会に参加した時の話

 最近話題になっている『同人女の感情』シリーズを知っているだろうか。あれは女性向けジャンル、女オタクの感情を実によく表していると思う。若干百合っぽいテイストが入っていなければ(あれが好きだという人もいれば苦手だという人もいるので否定はしないけど)、きっと誰もが一度は感じたことがあるのではないだろうか。わたしも覚えがあるから、分かる。

 わたしが初めて即売会に参加したのは、一年半くらい前のことだ。5年くらい同じジャンルに居続けたわたしは、ジャンル内での争い(登場キャラクターの不遇優遇が露骨で、わたしと同じグループを応援していたオタクが皆離れて行った時期だった。本当につらかった)やジャンル外者との闘い(わたしのジャンルは当時革命的な大ヒットだったから模倣ジャンルが多く出た。……のは仕方ないとしても、自ジャンルよりもよっぽど大きな会社が作った丸パクリコンテンツにデカい顔をされるのは恐れ入った。今でも某ジャンルとそれのオタクのことは大嫌いだ)に疲れ果て、わたしはオタクを辞めようと思っていた。そんなわたしの前に突然現れて、心を奪い去っていったのが、今ハマっているジャンルである。

 当時、そのジャンルはひとつの大きな祭りともいえる山を越えたところで、新規と離脱組と残留組が入り混じるカオスな状況だった。ジャンルの創成期ではなく、どちらかといえば最盛期を少し過ぎたところといった感じだったのだろうか。マイナーなカップリングで気まぐれに小説を一本書いたはずが、どうしようもなく楽しくて仕方がなかった。どんどんと筆が進む感覚は、自分にとって新しいジャンルならではだ。書けば沢山の人が見てくれるし、見て貰えれば新しい話が湧く。

 わたしはそのジャンルに夢中になり、毎日のように小説を書いた。わたしは中学生の頃から小説を書きまくり、サイトを毎日2回更新するというマイルールを己に課すほど腐女子としての活動に精力的だったこともあり、やたらと筆が早い。手癖がある、という言い方が相応しいかもしれない。更新頻度が高かったこと、過去の手癖で腐女子にウケやすい話を書けたこともあってか、ほぼ顔カプ(接点がほぼないの意)だったにも拘らず、デイリー/ウイークリーランキングに入るのが当たり前のようになっていった。完全に同人バブルである。

 いい気になったわたしは、小説の同人誌を作ることにした。ただ単にサイトが分かりやすかったという理由でちょっとお高い印刷所を使ってしまったことと、字数が多くページ数がかさんだこともあり、値段は高めに設定せざるを得なかった。ただ、わたしは利益は出さずとも、イベントで赤字が出るような値段設定にはしないという考えの持ち主だ。そうしなければ『次』に繋がらない。サンタクロースではないのだから、自分を犠牲にして本を配っても仕方ない。趣味は、互いに楽しくなければいけないと思っている。これは各人考え方があると思うので、それぞれが考えるようにすればいいのだけれど。

 だが小心者なのでそれなりに心配はある。売れなかったらどうしよう、誰も来てくれなかったらどうしよう、「小説本なんかいらねえよ」と面と向かって言われたらどうしよう──。5chやTwitterでネガティブな情報を調べまくり、部数に頭を悩ませた。初めて参加するのにお誕生席だった(これはただ単にカップリングの境目として使われただけだったけど)ことに恐怖し、釣銭などで誰かに迷惑をかけないように徹底的に準備をした。そうしてびくびくしながら向かったビックサイトでは、幸いにしてとても幸せな世界が待っていた。

 大量の列が出来ている大手絵師さんの本ではなく、わたしのスペースに真っ先に来て、100ページ、200ページを超える本を手に取ってくれた方。震える手で差し入れのお菓子とお手紙を差し出してくれた方。大好きです、と真っ直ぐに目を見て伝えてくれた方。沢山の方がわたしのスペースに来て、わたしの本を手に取ってくれた。あの経験は忘れられるものではないと思う。

 わたしは、友人の売り子としてイベントに出た経験が何度かある。だけど、大抵の時間はじいっと座っているだけだ。周りが売れていくのに、自分のスペースにだけ寄って貰えないさみしさのようなものは自分で書いていなくても分かる。だから「なんでわざわざお金かけて、赤字が出るかもしれないのにイベントなんか出るの?」といつも聞いていた。すると友人は次のイベントに向けた原稿をしながら「だって楽しいんだもん!」と言う。一切理解出来ない感覚だったが、自分がイベントの場に出て、座って、手に取って貰って、はじめてその気持ちが分かった。それから、わたしは2回ほどイベントに出た。当日中に完売して何度再販をかけてもなくなってしまうものもあれば、1年経っても未だに在庫を抱えているものもある。だけど、あんまり気にならない。それは自分の本が大切だ、と思えるからなのかもしれない。

 そしてわたしは、イベントってみんなと会えて、みんなに手に取って貰えて楽しい!と思うようになった。感想は貰っても貰えなくてもあんまり気にしないタイプ(だけど勿論貰ったら、頂いた以上の字数で返信してしまう)だし、通販でお手紙をつけて発送したりするのも楽しい。楽しい!楽しい!とひたすらに思い続けていられる活動だった。だが、Twitterで先述した『同人女の感情』シリーズの最新話の感想に「こんな風に最初から売れるなんてシンデレラストーリーすぎる、現実味がない、実際は小説本なんて一冊か二冊しか売れないし、売れないことだってある」というツイートが多くみられるようになった。その瞬間、わたしの同人活動というものはとても幸せだったのだと気付いた。人に、時期に、ジャンルに恵まれたからそう思っただけなのかもしれない、と。

 だけどわたしは敢えて言いたい。大言壮語出来るような大手ではないけれど、独りごとだと思って聞いて欲しい。

 イベントに出て楽しい、本を作ってよかった~で終わり!……というのでよければ、原稿を一生懸命するだけでいいと思う。けれど、一冊でも多くの方にお手に取ってもらいたいと思ったら、まずはTwitterかpixivに沢山投稿し、そのカップリングの布教活動に貢献することだ。それが知名度を上げる、ということにつながる。(ちなみに、比較的長編が得意なわたしはpixivをお勧めする)pixivを見て下さる方というのは大概ちゃんと投稿者の名前を見ているし、気に入った投稿者のことは覚えている。そこでしっかりと本当の意味での『フォロワー』をつけてからイベントに参加することをおすすめしたい。下手に馴れ合って友達同士でリプを送り合うよりも、ちゃんと自分の小説を読んでくれる人を大切にした方がいい、とわたしは思う。のだけど、どうでしょう。

 何が言いたいのか分からなくなっちゃったな、ごめんなさい。イベントは楽しいよ! ということ。また、同人誌が売れない、手に取って貰えないと嘆く前にまずはカップリングの布教活動をして貢献しましょうね、という話でした。

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