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ドナドナを歌いたくて #忘れられない先生

小学校1年生、音楽の時間。
K先生は、毎週1曲ずつ、クラスのみんなのリクエスト曲を全員で歌おう、って企画を立ち上げた。

出席番号順で、「あ」の秋山くん(仮)からリクエストしていく。
世界に一つだけの花、グリーングリーン、ドンマイ、とかが大人気で、前回習った曲歌いたい!って子がちらほら。
苗字が後ろの方だった私に順番が回ってきたのは、夏休みが明けてすぐだった。


その夏休み、私は人生で初めて飛行機に乗り、人生で初めて北海道に行って、人生で初めて夕張メロンを食べた。それから母と、「ドナドナ」を歌った。

ある晴れた昼下がり 市場へ続く道 
荷馬車がゴトゴト 子牛を乗せて行く 
かわいい子牛 売られてゆくよ
悲しそうな瞳で 見ているよ
ドナ ドナ ドナ ドナ 子牛を乗せて
ドナ ドナ ドナ ドナ 荷馬車が揺れる

本当に悲しくて胸がギュッと詰まる歌詞。
だけどメロディが好きで好きで、母に何度もハモってとせがんだ。


その日、私はリクエスト曲にドナドナを選んだ。一応歌集には載っていた。でも、学校で一回もやったことがない。
音楽室に??って空気が流れる。ざわざわ。

それでもK先生は、目の前の席の私に微笑んで、「それでは歌いましょう」って弾き始めた。
私と先生以外、誰も知らないドナドナ。遅れないように、歌い出しで目配せしてくれた。
クラスでも地味な私、目立ちに目立ってしまっているぞ…と、内心震えながら歌い始めた。

結局、終始独唱だった。

でも。
歌が決して上手い方ではない隣の席の岩崎くん(仮)が、最後の方、小声で一生懸命音を取ってくれていた。
クラスメイトも、茶化さず騒がず、聞いてくれていた。
歌い終わった後、K先生が、「最後まで歌い切った宮本さん(私)に拍手!」と言った。
岩崎くんも、他のクラスメイトも、パラパラと拍手してくれた。

安心した。そして、全てが嬉しかった。

私の浮いたリクエストを否定せずに尊重し、伴奏を弾き切ってくれたK先生のことは忘れない。
それから、馬鹿にせずに聞いてくれて、授業後も何も文句を言わなかったクラスメイトのことも忘れない。


ちなみに冬ごろに回ってきた2週目には、私は忖度して()、先週習いたての「ふじの山」をリクエストした。
クラス全員で合唱できて良かったな。


K先生、お元気ですか??
あのときは本当に、ありがとうございました。
私は今でもたまに、大通りから斜め45°外れた小道を、大手を振って元気よく歩いております。

#忘れられない先生
#音楽

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