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1話完結 電撃的な出会い 怖い話シリーズ

私は怪談が大好きだ
実話怪談も、ヒトコワも、フィクションも、小説も、映画も、漫画も、どんな媒体であっても恐怖を求めてしまう
YouTubeで怖い動画があると聞けば探し、話題の恐怖モキュメンタリーがあればワクワクしながら見てしまう

そんな私だから、当然友達や家族、果ては知り合い程度の人にまで「怖い話なにかあります?」と聞いてしまう

すると世間の人はわりと「自分だけが知っている怖い話」を引き出しに溜め込んでいたりするのだ
もちろん「トイレの花子さん」といった超メジャー級の有名な怪談などもあるが、些細な……聞かれでもしなければ忘れていたような恐怖譚もある
そんな話が聞けた時はラッキー!と喜びつつも1人布団で思い出し、不安に苛まれることになる……まぁ、完全に自己責任なんですが

しかし今まで貯めるだけ貯めてきて、まったくこれらの話をアウトプット出来ていなかった
そろそろnoteも始めたことだし、書いてみっか、と思った次第です

名前や地名なんかは全て適当にして(正確な時もあるけど)、とりあえず始めてみたい
記念すべき最初の話は我が六歳年の離れた姉から聞いた話だ

姉が高校生だったころ
妹ながら姉は呆れるほど粗忽者だった
出さねばならないプリントは出さず、鍵は落とし、バイクを走らせればトラックに跳ねられ母と焦って警察署に行ったこともある

それは一重に、姉が白昼夢を嗜む女だったからにほかならない
兎にも角にも、四六時中ぼうっとしては虚ろな目をしてさ迷っていた
近くの薬局では姉があんまりにも財布を忘れるので、財布の落し物があると迷わずうちに電話をするくらいだった
いったいなぜそんなに起きながら夢を見ているのか本人に聞いてもわかるはずも無い

ある時、姉は案の定財布を落とした
余りにもいつものことすぎて、いまさら?母も私も驚かない
姉も嘆きつつも焦ってはいない
用心の為に免許やカードは入れてないからだ

しばらく日数が過ぎると、電話が掛かってきた

「あの、Rさんですか?」

姉の名を呼ぶその男はどうやら財布を拾ってくれた人らしい
電話番号はたくさん入っていたポイントカードに記されていたようだ
姉はもちろん喜び、F沢駅で待ち合わせた
当時はスマホどころか携帯もないので、電話のやり取りで終わりである

当日     日曜日の昼
姉は駅から少し出た所にある噴水で待ち合わせた
デートなわけでもないので、シャツにジーンズという色気も素っ気もない格好

かたや驚いたことに相手の男性はカッチリしたスーツを着て来ていた
みた所、30代くらいのようだ
明らかに間違えたカップリングだが、姉は仕事帰りに来てくれたのだ……とまずお礼を言った
すると
「いや、仕事ではないです
これでもブランド物のスーツで50000はしますんで」
と、爽やかな口調で掴みどころのない返事を返された
姉は「はあ、そうですか」と返事をしつつ
(ブランド物で50000のスーツは高いのか?)という失礼な疑問を胸に渦任せていた
とりあえず、この人はあまり会話にならなそうだとぼんやりした姉でさえ素早く察し
「では、ありがとうございました」
と手を差し出した
男は差し出された手に、財布ではなく手を差し出した
「いきましょうか」
姉は固まった
そりゃそうだ、あったばかりの男と手に手を重ね何処に行くと言うのか
「貴女の財布はロッカーにあるのです
行きましょう」
と、グイグイ姉を引っ張る
ここでようやく姉は我に返って
「手を離してください!」と要求した
男は不満げに手を離すと
「Rさんは随分若いから奥手なんですね」
と頷いた
その顔はニヤニヤと笑っていた
さらに繋いでいた手を躊躇なくペロリと舐めてみせた
姉の心臓は跳ね上がり、これは【ヤバい奴】だ、と認識した

財布は惜しい
だが命はもーっと惜しい

どこぞのCMにも似たフレーズが駆け巡るのと同時に
姉は駅のなかへと走っていた
帰りの切符を買っていたことが幸いし、止まることなく駅のホームへと突っ走っていた
遠くから微かに自分の名前を叫んでいる男が居たような気もするが
一瞥もなく走り続け、ちょうど来ていた電車に滑り込んだ
荒い息をつく女をギョッとした面持ちで見つめる乗客に背を向け、いまあった出来事を揺れる車内で反芻していた……

結局、財布は帰ってきた
小包に入れられたその財布の金は全てなかった(姉いわく5000円くらいあったらしい)
さらに財布の他に、姉に対する常軌を逸した愛の手紙と
男の真正面から写した同じような写真が50枚近くも入っていた
姉は財布に免許証は入れてなかったが、住所が書かれたポイントカードを入れていて
おそらくそれを見て送り付けてきたのだろう

このあと警察に行ったりなんかはした様だけど、幸いにもその後はなにがあるわけでもなかった

見も知らなかった姉に対する熱烈な手紙の内容は
小学生の私にも恐怖を与えた出来事になった




貴方は運命の女性です 
あの日に結婚するはずでしたが……



この先は覚えていない


私が姉って凄い、と思うのは
それから何年もその財布を使っていたことだ
そう、またしても何処かで無くすまでは……









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