暗闇から愛してる 上
寂しい道だな、とは思ってたんです
新倉咲耶は私の顔を見ずに話し出した
街灯もあるにはあるけど、木が鬱蒼としてて光を隠しちゃうし
だから…嫌な道だなって思ってはいたの
咲耶は自嘲気味に口端を上げた
まるで笑っているかのように
いや、本人は笑っているつもりなのかもしれない
そうして、隣にワゴン車が止まって…そこから先は真っ暗な部屋に入れられたことしか覚えてない…です
彼女が保護された時の部屋だ
窓一つなく、密閉された息苦しいような小部屋
ここまではいつも穏やかと言っていいくらいに話してくれる
問題はここからだ
病室の開け放たれた窓から、冷たい風が吹き込む
どれだけ冷たい風でも、彼女は窓を閉めさせない
掛け布団のシーツを指でひねくるのを止め、両手の細い指が固く絡まる
ゆび先から勇気が沸いてくるように祈っているのかもしれない
無理はしないで、ゆっくり話してほしい、と告げると
幼児のように首をコクリとさせた
とにかく暗くて…目に何かが被せられてるのがわかりました
あと耳にも何か入れられてて
だから音も良く聞こえなくて
反射的に覆いを外そうとして、手が自由じゃないことに気づいたの
そうだ
彼女が発見されたとき、両手の指は雁字搦めにガムテープで巻かれていて、さらに上から結束バンドで固定されていた
耳には高性能な耳栓、それを覆うビニールテープ
あれでは何も掴めないし、微かな音は聞き取れない
それで…感覚的なものだけど自分が全裸だって初めて意識しました
え?いえ、乱暴はされてません…はい、たぶん…痛いとこはなかったし、あ、手首は締め付けられてて痛かったんですけど
真っ暗で音もぼんやりしてて怖かった…凄く怖くて、泣きました…でもどれくらい座って泣いていたかわかりません
長く感じたけど、短かった気もするし
16歳にもなって、声をあげて泣くなんて経験はじめてでした
でも泣いても泣いても誰もこなくて
だから
だから…?
咲耶はひと息ついて、震える声で囁いた
立ち上がったんです
たかが16の少女が、いきなり暗闇に閉じ込められ全裸にさせられ
…泣いて泣いて、立ち上がった
それは、産まれたての、外界がわからない小鹿が震える足で踏ん張るような、果てしない勇気だったに違いない
咲耶は恥ずかしげに微笑んだ
今度は疑いようのない「笑み」だ
咲耶の震える供述は、まだ続く
残酷なカウントダウンのように
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