見出し画像

3spoons vol.10ー吹くーthe 3rd spoon_かとうひろみ

文芸ユニットるるるるんによるツイッター400字小説 3spoons

米粒

 私はブスを生きている。それもかなりのブスだ。ブス。それは呪いだ。メイクでは修正しきれないブスを抱えて、今日も私は生きる。お金がないから整形は無理だ。ブスで貧乏だ。
 世間の態度はもちろん冷ややかだが、みんな善人ぶりたいので正面切って私のブスを糾弾する人はいない。私の顔を見た人はみんな、こらえきれず笑ってしまったり、目を逸らしてため息をついてみたり、そんな程度だ。
 でもたまに、ファンファーレのように「ブス!」という言葉が轟いて、言ってはいけない真実を耳にした人々はみな凍りつき、私はその中をモーゼみたいに歩く。酔っ払いや小学生や、顔を突き合せるのにうんざりしたうちの母親や、それまでこれほどのブスを見たことがない初対面の人なんかが、このファンファーレをときどき鳴らす。もちろんその言葉は鋭くて、ナイフというより電動ノコギリの残酷さで私の精神を砕く。
 今日も曲がり角を曲がったとき、予告なしに私のブスに直面した気の毒な男の人がいた。
「ブス!」と叫びたかったらしいけど優しい人らしく、「ブ」の形で口を止め、ごまかすためにそのまま口笛を吹いた。それがおかしくて、私は「ふふふ」と笑いながら、その口の形でそのまま口笛を吹いた。
 二人でしばらく口笛を吹き合って、別れた。
 私だけそのまましばらく口笛を吹き続けたが、そのうち何かの拍子に、さっき食べたおにぎりの米粒がぷっと吹き出てしまい、地面に落ちた。それを見つめていたら、涙がじわりとにじんだ。

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?