“人の身になる”って、なぜこんなに難しいの?
“俺の部下は気が利かない”
“お客さんの気持ちを先回りすれば、やるべきことは必然的に見えるはずだ”
たまに、そんなふうに部下を叱責する人がいます。
もっともそういう人は、“特定の仲良しの” お客さんが理解できているだけで、先回りスキルそのものが高いわけではなかったりします。
このような人々を例に出すまでもなく、人の気持ちとは察するのが難しいものです。
ですがよくよく考えてみれば、人間は群で暮らす生き物だったはず。。。
家族・学校・地域・会社などなど、人は様々な形態の “群” を作ります。
そしてそれが “群” であるからには、互いの気持ちをある程度察しあえることが前提のはずなんです。
にもかかわらず、その前提がなぜこんなにも難しいのでしょうか――。
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私は、エンジニアとして開発事業に携わっております、中島と申します。
この 絶対バグらないシステム作ろうぜの会 では、バグの出ないシステム・問題を起こさないチーム運営のやり方などを、なるだけ面白く・分かりやすくお伝えする主旨で記事を配信しております。
1. 人の気持ちの先読みはできない方が普通
部下に対して、「なんでオレの気持ちに立って先回りができないんだ!」と怒る人には2通りいますね。
1つは、その人本人は自分のことだから自分が分かっているだけで、人の気持ちの先回りなんてできてない人。
この系統の人は、自分のことを棚に上げてしまう原因として、実は “他人” という概念それ自体を正しく理解できていない可能性が考えられます。
『他人とは何か』を正しく理解できていないゆえに、他人と自分との境界が曖昧になり、そのため部下を “自分の一部” であるかのように操ろうとしてしまうんです。
そして部下が自分を理解してくれない状態を、自身の手足が思い通りに動かないことと似たように捉えてしまいます。
これは、我が子を思い通り操ろうとする親も似たイメージです。
それに対してもう1つのパターンは、比較的高い 《察する力》 を、比較的若いうちに獲得している人。
人間は自分自身の能力を「社会の平均値くらい」と思いたがるものです。
それゆえに、察する力を獲得するのにたまたま苦労しなかった人は、「普通みんなできるもの」と考えてしまいがち。
ですがこういう系統の人も、部下の気持ちを現に理解できていないわけですから、本人が自分で思っているほどには能力は高くないのです。
2. 気持ちを察するとは、共感するということ
俗に、人の気持ちを正しく察する力を 《共感力》 などと呼びます。
この共感力については、悩んでいる人達向けのビジネス本・自己啓発本が本当にたくさんたくさん出版されています。
その事実自体が、同様の悩みを抱えている人の多さを体現しています。
なぜ人は自身の共感力のなさにこんなに悩むのか。
それは、共感力が高い人が世の中にそもそも少ないうえに、共感力の鍛え方を人に教えることができる人はさらに少ないからです。
共感力は、比較的 “親の背を見て学ぶ” 系統のスキルといえます。
それゆえ共感力が高い人達の、基礎能力の獲得時期は小中学校時代と比較的若い段階となり、「なにもしてないけど自然にできるようになった」と認識している人も多いです。
そのため、能力獲得の際に自分がどんな苦労・どんな努力をしたかなんて覚えてもいないし、ともすれば当時苦労したこと自体を覚えていなかったりします。
その結果、共感力を高めるためのステップを具体的に語れる人は少なくなります。
ですがそれらの人々も、当然ながら自然にできるようになるなんて絶対にありえないわけで、成長のステップは必ずあるはずです。
そうでなければ、日本の義務教育で 《道徳》 の授業がこんなにも重要視されるはずがありません。
3. 共感力を高めるためのステップ
ここでは、私自身が共感力の低さで悩んでいた頃の経験をもとに、訓練ステップを作ってみようと思います。
STEP1. その人が置かれている状況を想像する練習
他人の気持ちを推しはかる練習の際、よく学校の道徳の授業では「自分だったらどう思うか考えましょう」「自分の身に置き換えて考えましょう」といった教え方をすることが多いですよね。
で、授業の場合は、「私だったらこう考えます」「私ならこうします」みたいな討論をしていくわけです。
ですがこのとき多くの児童は、この授業を、前提知識が欠けたまま受けていることが多いんです。
その前提とは、
人間とは、
『一部の狂いもなく完全完璧に全く同じ状況』に置かれたら、
誰でも常に必ず同じ行動をとる生き物である
ということです。
ですから「同じ状況におちいても、考え方は人それぞれでしょう?」と考えている人は、“その人と同じ状況” と呼んでいるものを正確に認識できていなのです。
そういう人はその人と同じトラブルを、自分だったら乗り越えられるかを想像しているだけで、その人がなぜ、トラブルを乗り越えられなかったのかは全く考えていないことが多いです。
その発想法だと、いつまでたっても共感力は伸びません。
特に、若い段階でのトラブル対応能力が比較的高い場合、このジレンマに陥りがちです。
じゃなくて、「自分だったらどう思う?」という質問は、
その人と同じ経験・同じ前提知識・同じ体質・同じ立場 を持っていて
その人が持っていないものを、自分も同じように持っていない状況で
そのうえで同じ状況に陥ったら?
ということです。
無論、それがありえないことくらい承知の上での質問であり、ありえないことを理解したうえで、それでも想像するのが “共感” というものです。
ですから道徳の授業では、「あなただったらどう思う?」と問われて様々な子達が全く方向性の違う答えを雑多に言ったら、それはおかしいわけです。
人間とは、前提が完全に同じであれば、万人が常に必ず同じ答えにたどり着く生き物です。
前提が同じはずなのに複数の人が違う答えにたどり着いたら、それは前提が本当は同じになっていないことを示します。
(その差が有意なものかミスで生じたものかは別として)
人間はその人と同じものを自分も持っていたらという想像は得意でも、その人が持っていないものを、自分も持っていなかったらと想像することはあまり得意ではありません。
ですから共感力を鍛えるためには、その人の状況を思い起こすだけでなく、自分が持っている物の中で、その人が持っていないものを想像することが重要なのです。
STEP2. 自分ならどう行動するかをさらに細かくする訓練をする
道徳の授業で「あなたならどうしますか?」と聞かれたとき、その問いがあまり現実的でない場合、多くの人が中途半端なところで考えることをやめてしまいます。
たとえばこんな質問。
通常多くの人は、「手を振る」「宇宙服の金属部品を鏡にしてモールス信号を送る」「一か八かウサギの国を探してそこで暮らす」などの方法を考えるでしょう。
ですが、その答えを、実際の行動計画に起こし、発生しうる問題をリストアップし、その対策案を出すところまで突き詰めて考える人は多くありません。
言うまでもなく、そんなことする意味はないからです。
この記事を読んでいる読者さんの99.99%は、月へ行くご予定など特におありではないでしょう。
現実味のない計画を現実的にとらえきれないのは、人として自然なことではあります。
ですが、共感力を鍛える観点では、いつまでもそんな考えでいるのは悪手です。
「非現実的な質問だ」と感じた瞬間に思考停止する人は、
誰かから相談を受けたときにも、相談内容を非現実的に感じた瞬間に同じように思考停止してしまうからです。
たとえば、とある女性から「彼氏が “付き合って半年記念” を忘れて何も祝ってくれなかった、どうしよう!」なんて、どう考えたってどうでもいい悩みを聞かされたとき、相手の気持ちに立って具体的な解決策を見出すのは至難の業かもしれません。
ですが、そのような場合に “考えることを途中で止めるクセ” がついてしまうと、ビジネスの場でお客さんから相談を受けているときも、考えることをつい止めてしまいがちになります。
ですので他人との共感力を高めていくためには、考えるに値しない相談や、自分にとって難しすぎる問題であっても、
実際に行動を起こすとしたら、どんな手順で何をするか
問題が必ず起こるとしたら、それはどんな問題か
といったことを考えていくことが重要なのです。
4. 共感力が本能なのに鍛えないと伸びない理由
実をいうと、人間は “人の気持ちに共感する” ための脳内回路を生まれつき持っています。
ミラーニューロンといって、これは誰にでもあるものです。
だとすると、『ミラーニューロンが正常に働けば他人と正しく共感できる。共感性に欠ける人はミラーニューロンが正常動作していない』という理屈にはならないのでしょうか。
残念ながらこれはならないんです。。。
ミラーニューロンは、主に挨拶のときなどに、相手の行動を模倣しようとする本能といったものと結びついています。
ですが、この回路はあくまで “今の自分が仮に” “その人の立場に置かれたら” ということくらいしかシミュレーションできません。
“変えようがない過去の状況なども全て含め、ありとあらゆる条件がその人と完全に同一だったら” というシミュレーションはやってくれないし、ミラーニューロンはそんなに複雑な演算はできないのです。
ですから、人間は生まれついて最初から共感力を持っていながら、それでもやっぱり鍛えない、とまともなコミュニケーションすらできないんです。
これはもはや、人間の業ともいえるものかもしれないなと、私なんかは思ったりするわけです。
ではまた。
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