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第14回 これまでの10年と、これからの10年と。(丸山→大澤)

大澤さん、こんにちは。博物ふぇすてぃばる!おつかれさまでした。東京的にはそれほど暑い週末ではなく(その前の週までが38℃を超えた日もあり、あまりにも辛かった…)、比較的イベント日和で良かったですね。普段が北海道の大澤さんはあまり過ごしやすく感じていなかった様子でしたが…。

さて、また僕の回で1週間ほど空いてしまいました。失礼しました。
博物ふぇすてぃばるの後にも相談した通り、やる気はあれども実技のついていっていない私が、色々と考えすぎて先に進めないという状況でした。たくさんのお話をさせてもらって、すごく楽しかったですし、またとても勉強になりました!もともとモチベーションが低いわけではなかったのですが、いまの自分にテキストとしてまとめていくのはとても重要な作業なので、変わらず温かい目で見守ってください。


「10年前になにをしていた?」

さて、先日の博物ふぇすの後にご飯を食べながら色々な話をした際に、「10年前になにをしていた?」みたいな話が出たと思うのですが、決算を終えたこのタイミングもあって書きやすいテーマなのと、この7月という月に振り返ると大きなイベントがあったので、今回はそのことを書いてみようと思います。

2009年7月、会社を退職してフリーランスに

10年前からさらに遡り2009年に勤めていた制作会社を辞めてフリーランスになりました。僕は会社員の時から少しずつ自分で仕事を受けるようになっていて、大きな仕事は会社を通して、小さな仕事は夜中にコソコソ隠れてデザインしていました。ここではコソコソ隠れてとは言っていますが、普通にバレていたと思います。考えると隠れてやる必要もなかった気がするのですが、当時は副業というものは社会的にも認知されていなかったので、しょうがないのかもしれません。
元々なぜか独立願望は強くあり、今思えばただの幻想なのですが何故か独立したらアガリみたいなものだと思っていた気がします。当たり前ですが、独立はスタートでしかなく、むしろそこからがまた色々な創意工夫も必要で本当の勝負(何との?)です。しかし当時はそんなことまで頭は回っておらず、とにかく独立すればなんとかなるくらいのイメージだったのかも。かなり考え甘いですね。

2013年7月19日、ギャラリー&ショップcircle [gallery & books]の運営を始める

話を進めるためにいきなり飛んでしまいますが、2013年に個人として始めてお店の運営にチャレンジします。それがこの小見出しにあるcircle  [gallery & books]です。
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もちろんこの間にも色々とあり、2010年から「国立本店」というスペースの店長をやったり、建築家・カフェ事業者・大工さんなどと廃墟となっていた民家をリノベーションした「やぼろじ」というコミュニティスペースを立ち上げたり、この間にたくさんのプロジェクトがあるのですが、それはまたいずれどこかで紹介できればということで割愛します。
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1Fはショップスペース。アートブック・写真集・ZINEなどを販売していた
右の階段から上にあがると2Fはギャラリースペース。月に1回の企画展を開催

独立した時にお店を始めるイメージはなかったのですが、色々と活動しているうちに自分のスペースを持とうと何故か決心。大きな理由は2010年にそれまでに住んでいた世田谷区から国立市に居を移したことが大きかったはず。
というのも当時は今のように自分たちの地域をベースに活動するデザイナーは極端に少なく、デザイン活動の中心地は23区、特に中でも港区や渋谷区や中央区など、自分たちの暮らしとは繋がっていないのが普通でした。
僕は国立市に事務所を移転してから多摩地域の仕事が増えていき(現在はまた異なる)、特に用事がない限りは国立市から出ることのない生活になっていきました。しかし市内にはギャラリーやアートブックを販売するような場所が少ないので、それなら自分で始めるかとなったのです。僕はギャラリーや書店での勤務経験などは一度もなかったので、あんまりよくわからない中で手探りでとりあえず始めることにしました。
なんだかわかないけど異様に高揚していたような気もしていて、今後始まるであろう何かわからないものへの期待が大きかったのかもしれません。それが、2013年7月19日。少しすぎてしまいましたが、約10年前です。

使われなくなっていた、旧い蔵を改装してショップにリノベーションしました

お店の場所は谷保駅というとてもローカルな場所で、旧い蔵を使ったオルタナティブ・スペースでした。何もない場所でしたがスペースができることで様々な人が訪れるようになって、いまにつながるような人の縁ができたのも、このショップを始めたことが大きな始まりです。スペースの名前もcircleというお店だったのですが、これも自分の身の回りの縁を大きくしていくということと、非営利ではなかったものの完全な営利のみということではなく、アーティストやそこで繋がっていく人とのサークル活動のようなイメージを持っておりました。この辺りも今に続く考え方がすでに出ているのかと、自分で振り返っても改めて思います。ここは初めてのお店だったので、めっちゃ紆余曲折があって140字では語れないのですが、その辺りも今回は割愛します。やはり運営も手探りで組み立てるところからで金銭的にもとても厳しかったですし、とにかく試行錯誤の連続でした。けれどもそれ以上に楽しかったこともたくさんありました。

2017年11月、地域と文化と本のあるお店「museum shop T」を始める

どんどん長くなってしまうので、すんごい飛ばします。ということで、前述のcircle [gallery & books]を2017年の11月にリニューアルし、同年の同月に「museum shop T」の運営をスタートしました。お店としては規模大きくなってもちろん大変なことも多くあったのですが、それでも最初のお店の方が大変でした。やはり2回目というのが大きかったのでしょうか。

創業時のショップスペース。今見るとかなり商品が少ない
2023年6月10日[土]- 6月25日[日]に行われた、Asyl 「cook together」

書籍とプロダクトの販売、そして月に一回の企画展と、基本の運営はcircle [gallery & books]を拡大し大きな変更はしませんでした。
ただし、お店の名前はすごく考えました。というのもそれまでのお店にはギャラリーという言葉を使っていたのですが、この「ギャラリー」という言葉、一定数の人にとってはかなりハードルがある言葉ということを日々運営する中で実感しました。僕の感覚にはなかったので見落としていたのですが、ギャラリーは自分の人生には無縁であると考える人がそう少ない数いる気がします。
上記のような理由もあり展示することは基本としたいのですが、もっと本を選ぶように気軽にお店に来てもらってたまたま作品と出会うような、そんな紹介の仕方はないものだろうかと思い、「ギャラリー」という言葉を使うことをやめて、「ミューアムショップ」という言葉を使い始めました。
とは言えミュージアムというのに美術館がないわけです。かなり変な言い切りで、そこに違和感があるのもよくわかります。
これは多摩地域に美術館が少なく、しかしその地域には作家が多く住んでいることをわかっていたので、その作家が住んでいるこの場所と、ベッドタウンとして栄えてきた地域の文化全体の生態系をミュージアムとして捉え、その文化を紹介していくお店として始めることにしたのです。
この時からなんとなくミュージアムという言葉を使うものの、箱そのものだけに価値があるのではなく、その文化を発信することを念頭においての活動に興味が湧いてきたようです。
このお店ももちろん全てが順風満帆に進んでいったのではなく、さまざまなハードルがあり、そしてそのハードルを乗り越え、また、今現在も多くの悩みを持ちながら運営しています。まぁでも一つの悩みがなくなると、次に大きな悩みが出てくるのが当然なので、なくなることはないのかもしません。

2020年7月、千葉美術館ミュージアムショップ「BATICA」を始める

さて、今回はここのお店について細かく話をする回ではないので、その曲折不沈はまたも省きます。
上記のような経緯で美術館も併設していないのに、勝手にミュージアムショップを語る弊社に、あろうことか千葉市美術館のミュージアムショップの相談が舞い込みます。最初は相手がどこまで本気なのかわからなかったのですが、「ミュージアムショップの運営ってできますか?」という質問に対して、なぜかできる自信はあったので、「はい。できますね」って感じで答えていました。
もちろんお店をつくることを周りに相談してみると、もちろん賛成してくれる方もいましたが反対する人もいました。そして社内でも当初は反対の空気もありました。
ただ、その反対も「できないと思う」とかのざっくりとした理由でした。もちろんミュージアムショップの運営の経験はないものの、お店の運営は7年近くやっているわけで、知識がゼロなわけではありません。しかし様々違うことはあると思うが、試行錯誤して工夫していけばできるはずという確信はありました。できない理由を語る人は多いのですが、どうすればできるのかを考える方が前向きですし、デザインって本来そういうものなのではないと。

千葉市美術館ミュージアムショップBATICAの店内。これも始まって間もない2020年9月の記録なので、かなり商品数が少なめ

そして2020年の7月、千葉市美術館のリニューアルに合わせてミュージアムショップ「BATICA」をオープンしました。
当時のことを思い返すと2020年の3月からCOVID-19の流行が始まり、正直に言って新規で事業を立ち上げるのはかなり無謀な気もしていました。僕はかなり前向きだと思うのですが、そんな僕もなんというか今後どうなるんだろう…という、ちょっと自分自身でなんとかできる限界を超えている社会状況に対し、大きな不安はありました。こればっかりは計画も予測もできなかったので、みなさんもそうだったと思います。
とは言えできる限りのことをして、最低のラインからスタートすると考えれば、これもまたプラスに捉えることもできるだろうと割り切って始めました。さすがにこれ以上社会状況が悪くなることがないと考えれば、もうよくなるしかないわけですよね。そこにのみ一縷の希望はありました。
オープンしてからは自分たちのお店だけでなくミュージアムショップとしてできることや、また美術館と協働してできること、たくさんの学びがあり、そして今も弊社にできること、自分にできることはなんだろう? と自問自答しながら日々仕事を進めています(細かい内容を書くとひたすら長くなるので、その辺りは別の機会に)。

千葉市美術館と協働して開催したエントランスギャラリーで作家の清水裕貴さんに店内で展示をしてもらう

勢いだけでお店を始めて早10年、これから何をしていこうか?

で、ふと気がついたらお店を始めてからちょうど10年が経っていました。リニューアルもしていますし、新しいお店を作ったりもしていますし、それほど節目ということは感じていなかったので、こうして振り返ってはじめて気がつきました。
キャリアを俯瞰してみると、最初のお店「circle [gallery & books]」を始め、その中で生まれた疑問に対する形で「museum shop T」をオープンさせたことになります。そして勝手にミュージアムショップを名乗ったことで、本当に公共の美術館のミュージアムショップの運営をすりことになりました。なんか本当に言葉にすることで行動や結果が変わっていくので、とりあえず言ってみるもんですね。

計画と実践。小さく始めて小さく失敗しながら大きくしていくこと

さて、ここまで弊社で千葉市美術館ミュージアムショップBATICAを運営するに至る経緯を書きました。どれもほとんどが偶然でしかなく、行動した結果がたまたま次に繋がってきたようなものです。いまもし最初のお店の経験からスタートせずに突然今の規模のお店の運営をしろと言われても到底できません。そう考えるとこれまでの全ての経験が今につながっており、小さく始めたことで小さな失敗を繰り返しながら、少しずつ少しずつ事業を成長させていきました。
理想の形は常に変化し、現実は想像を超えて自分の人生や仕事に刺激を与え、さらに面白いものに変えていってくれます。まだまだこの10年後、自分がどうなっているかは想像もつかないのですが、まだまだ成長できる余地はある…というか、その余地しか無いような気がします。

そういえば、大澤さんとの出会いもミュージアムショップの運営を始めたからで、また、店名にミュージアムショップと付けていたからですね。それがきっかけでこうして一緒にnote.をやっているのだからわからないものですね。
これからも楽しく仕事と遊びを続けていきましょう。長くなりましたがそれでは!

また暑さが帰ってきて37℃の東京で死にそうな 丸山より

このnote.だけ読むと全然デザインの仕事はしていない完全にお店の人に見えますが、実は(?)ちゃんとアートディレクションやグラフィックデザインの仕事もたくさんしています。誰が読んでいるのかわかりませんが、デザインの仕事もいつでも歓迎です(誰へのアピール??)!


丸山晶崇(株式会社と)
東京都生まれ。デザインディレクター/グラフィックデザイナー。2017年に株式会社と を設立。地域の文化と本のあるお店『museum shop T』や、千葉市美術館ミュージアムショップ『BATICA』など、ショップの企画・運営もしている。アート関係の仕事や地域の仕事を進めると共に、公開制作・展示・アーティストとの共同企画など幅広い活動を続ける。「デザイナーとは職業ではなく生き方である」をモットーに、デザインを軸にしたその周りの仕事を進めている。長岡造形大学非常勤講師。

大澤夏美(ミュージアムグッズ愛好家)
1987年生まれ。札幌市立大学でメディアデザインを学ぶ。在学中に博物館学に興味を持ち、卒業制作もミュージアムグッズがテーマ。北海道大学大学院文学研究科(当時)に進学し、博物館経営論の観点からミュージアムグッズを研究し修士課程を修了。会社員を経てミュージアムグッズ愛好家としての活動を始める。現在も「博物館体験」「博物館活動」の観点から、ミュージアムグッズの役割を広めている。

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