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2017年映画『ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~』観賞

『ラストレシピ~麒麟の舌の記憶~』2017年、滝田洋二郎監督作品。
大きくて強い才能を持った者は、その能力を守り、受け継いで行かなければならない宿命があるのだろうか。それはとても重く、凡人には耐え難い試練のように思える。

あらすじ
佐々木充(二宮和也さん)は幼少期に両親を亡くして施設で育った。
「麒麟の舌」と呼ばれる絶対味覚の持ち主で、全ての味を記憶・再現することができる。その才能で起業するも失敗し、借金返済のためその能力で依頼人が「最期に食べたい料理」を再現して報酬を得ると言う毎日を送っている。幼少期から兄弟同然に育った健(綾野剛さん)は荒んだ様子の充を心配している。やがて次の依頼が来る。その主は中国人。充に「大日本帝国食菜全席」の再現を依頼する。その品数は112品。
もちろん破格の金額が提示されるが、レシピの行方も判らなくなっている。充はレシピを探すため、あらゆる人物にあたり、日本中を渡り歩き、やがてハルビンに辿り着く。そこから料理によって受け継がれる、充にとって苦くもやるせない、深い関わりのある人物との運命を知るのだった。

参照:Wikipedia

鮮やかな料理の手付きが際立つ冒頭、充(二宮さん)の登場シーンが素晴らしい。しかし料理に向かう彼の表情は冴えない。その目の色は暗かった。荒んだ道を生きる彼は世話になった、いわば、親代わりだった施設長の葬儀にすら顔を出さない。

時が代わり、1930年代。
もうひとりの料理人が登場する。この男こそ西島さん演じる山形直太朗。
天皇の料理番をしており、112品の「大日本帝国食菜全席」を作るよう任命された張本人だ。その奮闘が、献身的な妻、千鶴(宮崎あおいさん)や一緒に作り上げて行く仲間とのふれあいを通じ、物語の中枢を担う。
気が遠くなるほどの数の料理を編み出して行く直太朗。少しづつ形を成して行く料理。そこには一見たおやかだが実は直太朗の性格を良く知る千鶴の提案が功を奏していた。常に微笑みを絶やさず、柔和に、けれどはっきりと直太朗に意見を出す千鶴の存在は、確実に異国で言葉も通じにくいその場を助けていた。

1930年代は日本で言うと昭和初期であり、満州事変や第二次世界大戦が勃発した年だが、映画内ではほんの少し前の設定なので、建築物は美麗で登場人物の装いも仕立てが良く、千鶴が持つカメラなど当時高価であった物も登場し、華やかだ。もちろん、綺麗ごとで進行する訳はなく、後半、充が幻のレシピに行き着く際に知ることになる痛ましい事件の連続はさながら戦争のように辛い。この映画は、直太朗が存在する1930年の物語と充が生きる現代が交互に語られて進行して行く。

やがて、直太朗が完成させたレシピを巡り、最初は金目当てで投げやりに聴いていた充だが、実は彼にとって一番身近な存在だったことが判明した時、これまで暗かった彼の目に再び光が宿る。
ここで、幻の微笑む直太朗と対峙する充は驚くほど面差しが似ている。激動の人生を歩んだ直太朗の想いを、充は新たに紡ぎ、充の手によって直太朗のレシピは現代版へとリニューアルされる。

この映画の西島さんの存在感は何より彼自身の品にある。
料理の矜持を語る声の清涼さ、一緒に料理を作り上げた仲間への想いを貫く最期に至るまで、すべて凛とし、品格に溢れ、説得力がある。その彼の孫、と言う難しい役柄を、二宮さんは若い容姿ながら少し傷ついたような表情を携えて演じ、最後に謎がすべて明かされた時、やっと本来の姿である青年の明るい表情が見えた。
また、健を演じた綾野剛さんの粗野で野性的な雰囲気も、司令官を演じた竹野内豊さんの怜悧さも、充と直太朗との見事な対比になっている。
作品全体を通して具体的な暴力シーンは極力省かれているが、最後まで残っていた大切なレシピを包んでいた風呂敷の傷み具合で、その激動が露わになっていた。その静かな見せ方がタイトルにもある「記憶」と結びついているようで、とても好きだ。

余談だが、ここでは西島さんの流暢なロシア語が聞けます。彼は以前フランス語や韓国語なども話す役があったが、またしても発音の素晴らしさに唸った。もちろん俳優としての努力なのでしょうが、それでもアクセントが素晴らしいので、西島さん自身が生来、とても耳が良いのだと思う。

山形直太朗を演じた西島秀俊さん

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