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1997年映画『2/デュオ』感想

1997年映画『2/デュオ』(監督/諏訪敦彦)観賞。
西島さんは俳優を目指しているがなかなか上手く行っておらず、恋人、優(柳愛里さん)の元でヒモのように暮らしている圭役。俳優業が上手く行っていないことは隠している。始まりは穏やかと不穏が同居している。そんな状況なのに圭は突然優に「結婚しよう」と切り出す。

ここでの西島さんは笑顔なんだけど目が笑っておらず、段々追い詰められ行き場がなくなっていくに従い、狂気じみた言動や行動で自分だけでなく優をも追い詰めて行く。余計な音楽もない。要所要所でふたりが個別に誰かからインタビューをされる場面が挟まれ、その誰かには本音を語る。どこかドキュメンタリーのような映し方だ。

最初は洋服店に勤めていた優だが、圭に振り回され、仕事が続かなくなり、やがてそれは優の心身を阻んで行く。圭が優にぶつける「甘え」は怖かった。最初は一緒に取り込んでいた洗濯物を意図的に優にぶつけるところから始まる。どうしてそんなことをするのか圭自身も判らなくなっている。判らないまま、大声を出したり、優自身の体は傷つけないけれど物を破壊したり行動はエスカレートを増す。遂に優は圭の元を去ってしまう。
そんな圭がひとりになると、きちんと髭を剃り、髪も整えて仕事に就く。優は今までとは全く違う工場のような場所で働いていた。離れ離れになったふたりが、ある日圭は自分が運転する車の中から、優は自転車に乗っているところで、偶然交差する。追いかける圭だが優は止まらない。とにかく止まらない。ひたすら自転車を漕ぐ。圧倒的なシーンだった。それでも圭も優も生きている。やがて圭はふたりで住んでいた部屋を引き払うことにする。その部屋に、優がふらりとやって来る。そこで映画は終わる。どうなっていくのだろう。

映画の冒頭、圭が見た夢を優にひたすら話すシーンがある。何の脈絡もない不思議なシーンだ。それはその通りで、実は台本にはないと言う。西島さんに好きなように話して欲しい、と監督からの指示で実現したシーンだ。だからこそ自然だった。けれどその自然さがこの映画ではとても恐ろしい。97年は現在と違い、DVと言う言葉も浸透していなかった。映像として観ると作為的でないと言うのは魅力的だ。けれどどうしようもなく辛いから演技をして欲しいとまで思った。キャッチコピーの言葉が美し過ぎて騙されたようにも思えた。鑑賞できて良かったけれど、観ている間は怖くて辛くて息が詰まるような思いだった。ただそんな辛い遍歴を経てもう一度「デュオ」になるかのようなラスト。どうか「ふたり」に幸あれ……。

映画ポスター
こちらのポスターの方が内容を表しているように思う。

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