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ソファーの上でロマンスを

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2004~2006 Novels Archive 大澤誉志幸さんの音楽から想起した物語。
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Welcome

こんにちは。幸坂かゆりと申します。 こちらは更新、案内ページです。このマガジンは2004年頃から同タイトル『ソファーの上でロマンスを』という拙ブログにて書いていた短篇を纏めています。当初、敬愛するアーティスト、大澤誉志幸さんの曲名を小説化して書くという目的を持っていたのですが、あまりにも曲が膨大なのと自分で聴き込んでいないもの、難しいと感じるもの等が多くなり、当時は毎日のように更新していましたが書けないまま放り出した形になってしまいました。 けれど、大澤誉志幸さんのタイト

Dance With Me

 ひどく臆病だから、あたしはこの先一生ひとりのままで過ごすのかも知れない……。  ゆき子は内向的で、ずっとこんなふうに思いながら過ごしていた。  そんな彼女の気持ちが揺れているのは、この間行われた高校での学園祭の時からだった。ゆき子はため息をついてベッドに転がる。枕をぎゅっと抱きしめて目を瞑った。とあることを迷っていた。  迷いは学園祭のその日、無事終えた打ち上げのダンスパーティーが行われたことがきっかけだった。学園祭とは別なので参加は自由だったが、活発なゆき子の友人に誘

柔らかな麻酔

「マイって女を捜しているんだ」  その日突然、大柄な男がバーのドアを乱暴に開けて訊ねて来た。  深夜まで営業している海沿いにあるこの小さなバーには、時折、漁師たちも訪れ、たまに潮に乗って荒くれ者もやって来る。この男もその一人だろう。 「……どんな方ですか?」  若いバーテンダーがグラスを磨きながら切り返す。 「凄く美人でプロポーションが抜群なんだ。長くてツヤツヤした真っすぐな黒髪で」 「今日は黒髪のお客様はいらしていませんね」  バーテンダーは慣れた口ぶりで間髪入れずに答える

幸せな歩き方

「つきあっている人がいるんだ」  彼は彼女に向かってこう言った。好きです、と告げられた返事だ。 「そう、残念だわ」  彼女は淡く微笑んで答えたものの、一瞬だけ意気消沈した面持ちを彼に見せた。彼と彼女は同じ職場にいたが彼女が退職するという今日、会社を出てから外で声をかけられ、彼は突然、上記のような愛の告白を受けたのだ。  彼女を嫌いな訳ではなかった。快活で嘘のない笑顔がきれいで。ただ彼には恋人がいた、と言うだけだ。 「はっきり言ってくれてありがとう。仕事では今まで色々とお世話に

次のCurveまで

 真夜中、彼女に呼び出された。  呼び出しはいつも急だが、虫の知らせなのか、いつも5分程度で出掛けられるようにオレの準備が整っている時に連絡が来る。薄手のジャケットを羽織り、待ち合わせた場所まで車を走らせた。  既に彼女が待っていた。クラクションを軽く鳴らして合図を送るとすぐに助手席に滑り込むように乗り込んできた。 「久し振り。どうした? こんな時間に」 「いいじゃないの、たまには。ドライブしない?」  彼女は長年の女友達だ。シートに落ち着くやいなや、おもむろにバッグから煙

City of tiny lights

 今夜は彼が尊敬してやまないシンガー、サミー・ラヴィアンのライブの日だ。サミーは素晴らしくソウルフルな歌声を持つ黒人のシンガーでこの小さな街に来るのは本当に久し振りだった。柔らかな楽曲から時に毒のあるものまで様々な表情で歌う魅力的なシンガーだ。 それなのに、彼はさっきから苛ついて煙草を何本も揉み消していた。開演時間は午後7時。しかしもう6時半を回っていたので会場に急がなければ間に合わない。チケットは持っている。だが待ち合わせている彼女が来ない。だからこんなにも苛ついてい

深層のプール

 仕事を終え、帰宅した加奈子は思わず家の鍵を乱暴にテーブルに置いた。  最近、自分を遠ざけるような態度を取る婚約者、浩樹に不信感と軽い怒りを抱いていた。浩樹は優しい人だ。以前なら会えない日には連絡をくれていた。けれど最近は特に「忙しい」と言う言葉が増え、その度に謝ってくるものの加奈子が連絡を入れないと浩樹から返事は来ず、時間だけが過ぎて行った。今日も約束を破った浩樹に謝られたが、忙しいと言っていることもあり、責めるのも躊躇われたため、消化不良のままだった。  気になった加奈

HOME TOWN

 開放された、と感じた。  長時間のフライトから地面に足が着いた時、やっと大きく息を吐いた。カメラマンの大沢修は写真集で見てひと目ぼれをしたこの小さな町に足を踏み入れた。とうとう来たのだ。都会から田舎町にやって来た彼は小さな空港に流れる涼やかな風にしばし目を細めた。  すると、突然近くで男の怒声が聞こえ、驚いてそちらに目をやった。声はかなり目立っていた。周囲の人間は面倒なことに巻き込まれたくないのか無視していた。男が怒鳴りつけている相手は恋人らしい。彼女は露出度の高い服を着て

Private Heaven

 目を覚ますと、一瞬ここがどこか判らなくなった。  国際線の飛行機の中、ナナは周囲を見渡して思い出す。  こうして飛行機に乗っているのにまだ迷いがある。もう空の上だから後悔したって遅いんだけど。ナナはシートを倒してもう少しだけ浅い眠りに入った。目的地まではまだ時間がかかる。  それは突然だった。  土日祝日等とは縁のない仕事をしているナナに五月のゴールデンウィークは頭になかった。いつものように健やかに眠り、朝になり、新聞を取りに郵便受けを見に行くと見た事のない封書がナナ宛

One On One

 夜はバー、朝になるとカフェに入れ替わるこの店で、熱いだけのコーヒーを飲みながら視界が揺れる窓を見る。雨なんて、うんざりだ。  家にも帰らず、うだうだと何時間も店に入り浸る俺はなんてだらしないんだろう。憂鬱な気分を雨のせいにして昨日は仕事を休んだ。その後この店で酒を飲み、多分テーブルに突っ伏して眠り込んでいる間に店のスタッフが清掃も終えたのだろう。  いつの間にか夜が明けたらしく店内はカフェに早変わりしていた。外は曇っているが朝と言うだけで充分眩しくて瞼の奥がズキズキする。

What Can I Do

 そのホテルのラウンジからは、湖が一望できた。  夏に近い爽やかな気候のその日、オレは高校時代の同級生で、海外を拠点に仕事をしている友人が一時、日本に帰って来ると連絡を受け、らしくなくこんな場所で待ち合わせをしていた。何もこんな高級感のある場所じゃなく、その辺のファストフード店でもいいじゃないか、と心の中で毒づきつつも、友人がこのホテルのラウンジを待ち合わせ場所に指定して来たのだから仕方がない。気持ちを切り替えて、慣れない雰囲気の中、コーヒーを注文した。程なくして友人である彼

Long Distance Girl

 雨の朝。窓に映る街の中はかすんでいた。  カーテンを閉じてベッドに転がり、僕はため息をつく。恋人と別れた痛手がまだ残っている、なんて言ったところでかっこつけにもならない。ひとつだけわかること。僕は最初から終わる恋だと判っていた。彼女がどう思っていたのかは知らない。嘘つきな恋愛だった。愛していた。けれど僕は嘘に疲れた。最後に見た彼女の泣き顔が瞳の奥に叩きつけられるように今でも浮かぶ。嘘をついてでも僕たちはつき合って行くべきだったのだろうか。生活と性格の不一致。愛しいまま僕たち

完璧なエゴイスト

 僕はファンシーな物は受け付けない。  待ち合わせている彼女は僕の苦手なその類の物が好きだった。最初は……恋のせいで瞼を閉じてしまったのだ。けれど時が経ち彼女の好きな世界が判った頃、ついて行けないと思った。好みの問題だから彼女のせいじゃない。ただ僕には無理だ。合わせられない。だからそれぞれの道を歩むしかないと思い、今日こうして彼女を待っているという訳だ。それにしてもうるさいカフェだ。  店内を見回してみる。いかにも彼女が好きそうな犬も同伴できるログハウスで、ぬいぐるみが至る所

罪と罰

 つい、癖でポケットに手を突っ込んでしまう。そこに携帯電話はないとわかっているのに。仕事用のものはある。プライベートで使う方だ。家に置いて来てしまったのだろうか。少し焦ったが、もしこのまま見つからなかったら彩子に鳴らしてもらうまでだ。  彩子は僕の妻だ。  派手さはないが柔和で大人しくて、いつも美味しい夕食を作って待っていてくれる。しかし仕事を終えて家に戻ると、部屋の中の雰囲気が違った。いつもならするはずの料理のいい匂いもしない。とにかく彩子がいない。何度も呼んだが返事もない