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たった150行のRubyコードで作ったブンゴウメールの躍進が止まらない-開発者インタビュー #01

全記事、個人開発者に直接インタビュー!個人開発の裏側を根掘り葉掘り伺うPRANET storiesの記事第一弾です!

今回は「ブンゴウメール」の開発者、ほげにしさんにお話を伺いました。

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ブンゴウメール
1日3分のメールで、ムリせず毎月本が読める。青空文庫の作品を小分けにして、毎朝メールで配信。気づいたら毎月1冊本が読めてしまう、忙しいあなたのための読書サポートサービスです。
対談メンバー
ほげにし(@kame_f_no7):NOT SO BAD LLC. 代表社員。ぼっちスタートアップでニッチなWebサービスを作っています。 (写真奥)

インタビュワー
松原(@dowanna6):PrAha Inc. CEO/エンジニア。依存性の注入が好き。(写真手前)

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コラボ多数。凄すぎるブンゴウメールの軌跡

松原:このサービス、twitterでバズってましたよね。1.2万いいね、7,700リツイート…凄すぎる!


ほげにし:ありがとうございます。こんなに沢山の方に反応いただけて、すごく嬉しいです。

松原:では早速ブンゴウメールについて伺いたいと思います。まず、なぜこのサービスを作ろうと思ったのでしょうか?

ほげにし:僕はもともと読書好きなんですが、なかなか仕事が忙しくて読む時間が取れなかったんです。でもスマホとかメールは毎日時間がなくても見てる。それならば、小説がメールで届いたら自分の読書のリハビリになるかな?と思って作りました。

松原:どれぐらいの期間で作ったんですか?

ほげにし:プロトタイプは3日ぐらいで完成しました。

松原:はやっ!

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ほげにし:ブンゴウメールがやってる事は、青空文庫の作品を細切れに配信するだけなので、Rubyのコード150行しか書いてないんです。

松原:コード150行でこれだけの反響を生み出すものづくりセンスが凄いですね…これだけ注目されると、色んなコラボのお誘いもあったのでは?

ほげにし:そうですね。色んなメディアが取り上げてくれた事で、他のブックテック系の企業からもお声がけいただいたり。去年はフライヤー様、オトバンク様と僕トークイベントをやらせていただきました。

松原:凄い会社と並んでますね!

ほげにし:緊張しました(笑)でもブンゴウメールが無ければ生まれなかった接点なので、こういう出会いがあると嬉しいです。

あと、TechCrunch協賛のピッチバトルで優勝しました。


松原:快進撃が止まらない!

ほげにし:さらに2019年は、累計60万ダウンロード超えの大人気自分探しタップゲーム「ALTER EGO」ともコラボさせてもらいました。ゲーム内のキャラ「エス」のコメント付きで、厳選された書籍を楽しめるのがすごく好評でした。自分より読書に詳しい人の観点も重ねながら本を楽しめるので、同じ本でも、より深く楽しめたと思います。


松原:多分、全国の個人開発者が今「ほげにしさんになりてぇ…」って羨んでますよ。これだけ個人開発で世界を広げている人は滅多に居ない!

ほげにし:他には初のビジネス書コラボとして、7万部突破の人気書籍「ビジネスモデル2.0図鑑」の公式配信もさせていただきました。図解画像付きで1日1つのビジネスモデルが配信される仕組みで、こちらもとても好評でした。


松原:まだあるんかい!

ほげにし:それから、最近だとドグラ・マグラ365日チャレンジを始めました。

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松原:ドグラ・マグラって、読み終わると精神に異常を来す本でしたっけ?

ほげにし:そう言われてます。前から僕自身が読んでみたかったので、せっかくだからみんなで一緒に読んで、本当に異常をきたすのか確認したいなと。

松原:でも精神に異常をきたしたい人って、日本にそこまで沢山いますか?

ほげにし:6000人が事前登録してくれましたよ。

松原:凄い国だな…。

ほげにし:ここには書ききれませんが、他にも出版社の方からもお声がけいただいたりと、今年も引き続きブンゴウメールで楽しく過ごせそうです。

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Rubyコード150行で完成。ブンゴウメールの作り方

松原:1万人も登録者が居るとメール配信のコストが気になるところです。どんな作りになっているんですか?

ほげにし:最初はMailChimpを使っていましたが、配信者が2000人を超えると有料なんです。事前登録の段階で2000人に達してしまったので無料で使えなくなってしまいました…。

松原:なんて羨ましい悲鳴。

ほげにし:最終的にはGoogle Groupにたどり着きました。

松原:え?Google Groupって、掲示板とかコミュニティを作るサービスですよね?

ほげにし:はい。Groupに向けたメール配信機能があって、5万人まで無料なんです。ブンゴウメール登録者を同じGroupに所属させておけば、5万人までは無料で送れます。

松原:既存のツールに対して「そう来たか」と思う使い方を見つけるのが本当に上手ですよね。

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ほげにし:基本的には150行のRubyコードと既存ツールの組み合わせなので、ほとんどメンテナンスも無いんです。

松原:リッチなCI/CDもテストも、ほとんど何も要らないですね。

ほげにし:それでも、初めて配信するときは不安でした。一度配信されてしまったら直せないので。忘れもしません、初めて配信した作品は走れメロスでした。不安で仕方なかったので「変なところで文章が途切れていないか」「表示崩れが無いか」と、事前に全ての配信内容を確認しましたね…。

松原:でも確認内容が「本を読む」事なら、そこまで苦にならなそうです。

ほげにし:苦と言えば、配信前のテストで作品を全部読みきっちゃったので、僕が配信を楽しめなくなった事ぐらいですね。

松原:それは切ない。

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ブンゴウメールのこだわり

松原:ブンゴウメールを作る上で、細かな工夫を随所に施したと伺いました。どんなポイントに気をつけているんですか?

ほげにし:例えば、1日1回の配信だと、前日の内容を忘れてしまう事がありますよ。だから少しだけ前日の内容を冒頭に差し込んでから、今日の分を配信してます。

松原:週刊連載漫画で先週と似たコマが冒頭に挟まれるのと同じ理屈ですね!

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ほげにし:また、意図的に文章毎に改行を差し込んでます。スマホで読むことを前提に作っているので、そのまま青空文庫の内容を流すと文章のかたまりが大きすぎて、読みにくいんですよ。

松原:細かいけれど大事なポイントですね。ほげにしさん自身がブンゴウメールを使っているうちに課題に気づく事が多いんでしょうか?

ほげにし:そうですね。僕自身がブンゴウメールを毎日使っているから、不便だと感じるポイントはすぐ見つかります。ただtwitterでも沢山の方が反響をくれるので、その意見を取り入れることもあります。

例えば青空文庫では、作品によっては簡単な漢字にもルビが振られています。そうするとルビの数が多くなってしまうので、スマホだと読みにくいと指摘されました。

そこで常用漢字のリストを用意して、非常用漢字のみルビを振るようにコードを変えました。原文を改変しない範囲での修正は青空文庫の規約でも許可されているので、その範囲内でいろいろと工夫しています。

松原:そこまでやっても…

ほげにし:Rubyのコードは150行です。

松原:月に一度の作品選びも重要なポイントになると思うのですが、その辺りはほげにしさんのセンスによるところが多いんでしょうか?

ほげにし:そこがネックで。ブンゴウメールって元々僕自身が読書したくて作ったんですよ。だけど僕が既に読んだ本ばかり選んでると、僕自身が楽しめなくて…なので7割ぐらいは、僕も読んだ事ない本を選んでますね。

松原:あくまで自分が楽しむ姿勢は貫くんですね(笑)

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個人開発者が気になるマネタイズの話

松原:もう売上は100億円ぐらい立ってるんですか?

ほげにし:立ってないですね。有料版も作りましたが、現在は一旦クローズしています。

松原:それはまた、どうして?

ほげにし:「自分で好きな作品を選べる」「配信数を増やせる」有料機能を追加したんですが、どちらも問題があって。

まずブンゴウメールは「日常的に本を読むほどではないけど、少し本を読みたい」ライトな読者が対象です。自分が次に読みたい本を分かっている人って、もう少しヘビーな読書好きですよね。そういう人は自分で本を買って読んじゃうから、ブンゴウメールで配信を待たなくても良いんですよ。

同様にライトな読者に対して1日3、4通も送っても、読みきれない(笑)

ブンゴウメールを応援する意味で課金してくれる方たちもいたのですが、有料版として十分な価値が提供できていないと感じたこともあり、一旦廃止して違うやり方を考えることにしました。

松原:ファンが課金してくれているのであれば有料機能を残しておく手もあったと思うのですが、なぜあえて廃止したのですか?

ほげにし:課金とかユーザ操作が加わることで、普通のrailsアプリを開発する事になったんですよ。そうなるとメンテナンスも増えますが、個人開発なのでリソースは本当に限られています。そのため十分な価値を提供できていないプロダクトのメンテナンスに使うのではなく、違うところにリソースを集中させようと考えました。
でもこの有料版の機能のおかげで前述のコラボも実現できたので、いいチャレンジだったとは思っています。

松原:「一度作ったものを消す」ってエンジニアにとって難しい決断だと思うんですよ。それを迷わず選択できるのは凄い。

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ブンゴウメールを経て

松原:様々な企業とコラボ。利用者1万人超え。ピッチ大会でも優勝。もう個人開発者として天国みたいな日々だと思いますが、どの瞬間が一番嬉しかったですか?

ほげにし:実はブンゴウメールを使ってくれたユーザから、ときどき凄く情熱的なお便りをいただく事があります。ブンゴウメールを本当に気に入ってくれた事、それがどんな風に日々を楽しく変化させたか、情熱的に長文を綴ってくれたりするんです。

そんなメールを読んだ時は本当に嬉しいですね。誰かが喜んでくれる物を作れてよかったなと。

松原:満点の回答じゃないですか…。

ほげにし:これだけ熱量のある声、滅多にもらえるものじゃないですからね。ユーザの声が一番嬉しいですよ。

松原:ブンゴウメール以外にも(このマガジンでも後に取り上げる予定)ほげにしさんは本当に種類や業種を問わずヒットサービスを量産しますよね。何が秘訣なんでしょう?

ほげにし:やっぱり僕はシンプルな仕組みで大きな変化を生むのが好きなんだと思います。例えば「Street View Random Walker さまよえる私」(Google ストリートビューを自動で動いて散歩気分を味わえるサイト)とか大好きです。

Google ストリートビューという誰でも知っているサービスに、シンプルな工夫を1つ加えるだけで大きな変化が生まれる。それが一番楽しいです。

だから日頃から「こういうものあったら良いな」と想像しながら、一番シンプルなアイデアを考えるのが秘訣かもしれません。

松原:実際、ブンゴウメールは読書に大きな変化を生み出しましたよね。1万人が同じ瞬間に同じ本を読んでtwitterで感想を伝え合えば、自分とは違う意見が目に入る。同じ本でもフィルターを変えれば違った読み方が出来る。交流を通して一冊の本をより深く味わえるようになる。一人の読書好きとしても、本当に面白い試みだと思います。

ほげにし:少し大げさかもしれませんが、本を読むと世界の見方が変わりますよね。同じ世界でも異なる見方ができれば、それは世界が変わるのと同じくらい大きな変化です。そんな世界が変わる瞬間を見れるのも読書の醍醐味だと思います。

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これからのブンゴウメール

松原:これからのブンゴウメールはどう進化していく予定ですか?

ほげにし:海外にも著作権切れの書籍が多く埋もれているので、まずは海外版を作ります。国内に関しては「読書会で選ばれた本を配信する」など、もう少しユーザの交流を生み出せる仕組みが入れられたら嬉しいな、と考えています。

松原:そういえばブンゴウメールには姉妹サービスがありませんでしたっけ?

ほげにし:はい。「ゾラサーチ」というサービスがあります。青空文庫の本を読了時間で検索して人気順に探せるので、ブンゴウメールで読書に興味を持ってくれた人が「次は何を読もうかな」と、次の読書体験に進む時に支援できるように作りました。


松原:本当に動きが速いですね(笑)

ほげにし:あまり読書に慣れていない人だと、いきなり長編を読んでも挫折しちゃったりするので…。まずは短編を読んでみて、気に入ったら同じ作家の長編にチャレンジする、みたいな使い方ができます。せっかく読書意欲が高まったところで挫けてしまうと勿体無いので。

松原:ユーザ愛に満ちているなぁ。今日はお忙しい中、ありがとうございました!

ほげにし:ありがとうございました!

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