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逆噴射小説大賞参加作品(2018〜2020)

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2021年10月の記事一覧

センパイ・スクランブル

センパイ・スクランブル

 とにかく驚いた。だって憧れの凪先輩が下校時、遥か上空から垂れる糸を登って帰宅するのを見てしまったのだから。

 えっ、と私の気の抜けた声が、廃ビル裏の空き地に響いた。先輩は掴みどころのない人物で、例え親友でもどこ住みなのかも知らないらしい。それで気になり、帰宅中の先輩をこっそり尾行してしまった。けれど、まさか空の上にあるなんて。

 頭上で銀のロングヘアが風になびいていた。先輩は疲れたそぶりも見

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贄の雨傘

贄の雨傘

 秋雨が翁を打ち据えていた。
 その老人、修はこの日も骨組みだけの傘をさしては、訳もなく庭と畑を徘徊する。そんな修の背をひ孫の水作が叩いた。

「なんだい輝美」
「だからママは死んだってば」
「どうしてえ」

 輝美とは修の孫娘で、水作にとっての母の名前だ。今はもういない。なのにこうして母の名で呼ばれる、そんな修を水作が敬遠するようになったのは無理もないだろう。それでも水作が修に話を切り出したのは

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ケンタウルス調教助手

ケンタウルス調教助手

 ヘロ子は5年前、F1レーサーになってモナコを制する夢を諦めた。なぜなら彼女は体重が495kgもあったからだ。

「オラオラーッ!相変わらず走りに集中が見られませんね!」

 ヘロ子は今、モナコの市街地ではなく栗東トレーニングセンターの坂道を駆け上がっていた。4本の脚に力を滾らせ、敷かれた木片を蹄鉄で蹴り、そして2本の手をメガホンに見立て並走馬に檄を入れ続けていた。何を隠そう、ヘロ子は尋常の人間で

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