ITスタートアップが宮古島の小中学生に出張授業!ついでに宮古島で1週間暮らしてきた
(2019年10月当時の記事です)
かつてアインシュタインはこう言いました。
6歳児に説明できなければ、理解したとは言えない
「でも、6歳児に何かを説明する状況に遭遇する事もないしなぁ」
と思っていた矢先、元同僚で現在は株式会社ヌーラボに勤めている安立さんが「リゾートワーク」なる制度を企画していることを小耳に挟みました。
詳細は以下に記載しますが、沖縄や北海道などの小・中学生に授業を行いつつ、そのまま何日かリゾート地に滞在しながら働ける研修制度とのこと。
30分ほどWEBミーティングで概要を伺い
安立さん「では参加の可否と人数を2週間後ぐらいに教えていただければ」
僕「あ、社員全員で参加します」
安立さん「はやっ!」
みたいなノリで参画が決定しました。
そこで株式会社プラハでは
「インターネットの仕組み」
「デジタル通信の仕組み」
「デザインの仕組み」
「サービス企画の仕組み」
「Scratchを使ったプログラミングの仕組み」
の5本立てで授業を用意し、宮古島市立結の橋学園の小・中学生を対象に出張授業を行ってきました。
せっかくなので追加で1週間、宮古島に滞在して「リゾート地でもITスタートアップは働けるのか?」を実験してきました。残念ながら新婚ホヤホヤのエンジニアと出産後間もないエンジニアは不参加。合計5名で沖縄に向かいました。
どんな授業を行ったのか
例えば僕が実施した「インターネットの仕組み」では、体を使ったISUCONっぽいエクササイズを用意しました。
まず生徒から「サーバ役」4名と、それ以外の生徒を「リクエスト役」に分けます。
サーバ役には4分割したトランプを渡し、リクエスト役には別のトランプの束を渡します。
リクエスト役は一列に並び、一人ずつトランプの束から1枚トランプを取り、サーバ役まで歩いていき、「スペードのエースはありますか?」と問い合わせます。
一致するトランプがあればサーバはトランプを返し、なければ「持っていません」と答える。
応答後、リクエスト役は最後尾に並び直し、次の順番を待つ。
これを繰り返し、「全てのトランプのペアを作成するのに何分かかるか」を計測。その後クラスを2チームに分けて、それぞれのチームで「サーバの数を増やさずに、より早く全てのトランプを取得するにはどうすれば良いか」考えてもらいました。
各々が出した案で改めてエクササイズを行い、各チームのタイムを競い合います。
「リクエストを増やそう!」「リクエストとサーバの距離を近くしよう!」
タイム短縮のため生徒たちが出した案が非常に面白くて、いろんな工夫が見られました。生徒たちの創意工夫を実際のインターネットにまつわる技術に絡めて説明することで、少しでもインターネットの仕組みに興味を持ってもらおうと考えました。こんな感じです:
案:複数リクエストを同時に飛ばそう!
説明:これは現実のブラウザ、HTTP/2、サーバにも存在する仕組みで、非同期とか並列処理と言います
案:歩く時間が勿体無いから、サーバ役とリクエスト役を近づけよう!
説明:地理的に近い場所にサーバを置くとレスポンス速度が少し上がるので、クラウド環境であってもサーバを置くときはエリアリージョンを気にします
案:生徒たちが相手チームに声援や野次を送る
説明:今のをノイズと言います。相手チームは声がかき消されて、リクエストがサーバに問い合わせできませんでしたね?ケーブルが劣化したり、同じ周波数帯の電波が干渉して情報が欠損するのも、似たような現象です
案:サーバ役はトランプの束を机に並べて、検索性を高めよう!
説明:一枚ずつ探すのではなく、一気に持ち札を机に並べて検索性を高める。これはコンピュータのメモリを増やして、処理能力を増強したような状態です
こんな説明を交えつつ、2チームに分かれてエクササイズを繰り返しました。1回目のタイムは2分40秒。2回目、3回目と繰り返すうちに、2分30秒程度まで高速化されました。
しかしそれ以降はタイムが上がらず、逆に遅くなって3分を超えてしまう時も。
「ボトルネックになっているのはサーバだから、リクエストの速度をどんなにあげても、全体のスピードは解消されないよ!」
などISUCON的なヒントを出しましたが、残念ながら時間切れ。僕が用意していた解決策を使って、最後に一度だけ実演を行いました。
「大事なのは役割分担」
僕が用意していた解決策は「サーバに渡す束を、トランプの柄で分けておく」こと。
スペード担当のサーバ、クラブ担当のサーバなど分けておく事で、リクエストの成功率を100%にします。
多分これが一番ブレークスルーするだろうと予想していたものの、さすがに40名を集めて検証した事はなかったので、ぶっつけ本番でちゃんと速くなるか、ドキドキしながら結果を待ちます。結果・・・
1分20秒!
教室からも「はえー!」「ここが詰まってたのか」と感嘆の声が上がり、ボトルネックを解消する楽しさも味わってもらえたようで、安心しました。
複雑なシステムも、シンプルな作業に分割できる
ここで僕が伝えたかったのは、一見複雑なシステムも、シンプルな作業に分解して役割分担する事で構築されている、という事。
例えばルーターやスイッチなどの機器は、それ単体ではさほど難しい役割を担いません。DNSサーバも、所詮はリストを検索して情報を返すだけです。
コーディングにおいても、一つ一つの関数は簡単な機能に限定しておいたり、プレゼンテーション層は表示だけに専念させたり、様々な箇所で「役割分担」と「シンプルな作業への分解」が見られます。
一見難しい問題も「シンプルな作業に分解する」「役割分担する」事を意識すれば、少しずつ解決できるかもしれない。
そんなメッセージを伝えて、授業を終わりました。
質問を募ったところ「彼女いますか?」と真っ先に聞かれたので、果たして僕の授業が響いたのか心配だったのですが、「Youtubeはどうやって収益を上げているの?」「何人ぐらいでWEBサービスって作れるの?」など核心をついた質問も続々と上がりました。
「いつかインターネットに関わる仕事をしたいと思った人」という先生の質問には10人くらい手を上げてくれたので、とても嬉しかったです。
「いつか株式会社プラハで働きたいと思った人」には6人くらい手を上げてくれました。これも凄く嬉しかったです。上げなかった4人の顔はキッチリ覚えました。
他にどんな授業を行ったのか
その他には「Scratchを使ったプログラミング体験授業」、「紙を一番高く積み上げたチームが勝つ、デザイン授業」、「身近な問題を解決するサービスを考えてみる授業」などを行いました。「0と1だけで遠くの人にメッセージを伝える授業」も用意していたのですが、担当社員が台風の影響でカナダから帰国できなかったので断念しました。
残りの滞在期間で何をしていたのか
Airbnbで借りた民家で暮らしつつ1週間を過ごしました。
滞在中は基本的に天気が悪かったため、晴れたら海に遊びに行き、曇ったら働く。平日や土日を問わず、そんな生活でした。夜は綺麗な星空を探しにドライブしたり、島唄ライブを聞ける居酒屋に行ったり。
「働く」と「遊ぶ」がグラデーションのように溶け合った、幸せな1週間でした。
こちらが有名な与那覇前浜ビーチ。
弊社デザイナーかなりの天然なので食わせようとしたのですが、さすがに食べませんでした
晴れた日にウェイクボードに挑戦したのですが、僕は椎間板ヘルニアが急激に悪化して動けなくなりました。陸地は重力がかかって辛いので、ゆっくり海に向かってほふく前進する様子をウミガメのようだと社員にバカにされて、社内の人間関係に亀裂が入りました。絶対に許さない。
朝は宮古島をランニングして過ごしました。全く事前知識を入れずに走っていたエリアがマングローブ林だったので、おまけでマングローブも観れて満足です。
東京オフィスとの定例会などはWEBミーティングで実施。何一つ支障がありませんでした。宮古島からデプロイしたコードは今も元気に動いています。
宮古島ICT交流センターが10月中は無料で使えるとのことで、日中はこちらも利用させていただきました。気分転換にバルコニーに出れば海が見える、天国のような労働環境。
7泊8日のため、さながら学生時代の合宿のように自炊したり
洗濯物も自分たちでやります。
感じたこと
宮古島でもITスタートアップは問題なく働ける
ぶっちゃけGitとWEBミーティングの環境さえあればどこでも働けるので、本当に何一つ支障はありませんでした。強いて言えば海が美し過ぎて、晴れてる日にコード書いてると海に行きたくてウズウズするぐらいでしょうか。僕らは何度も誘惑に負けて海に行ってしまいました。
社員5名と宮古島で1週間暮らして働いてみた結果
・全員が朝型になる
・宮古島と東京の2拠点でも全く業務に支障がない
・宮古島の海は格別
・宮古島の子供は半端なく元気
宮古島に関して思ったこと
宮古島は自衛隊の弾薬庫の建設など公共事業が元々多いらしく、伊良部大橋がかかった影響で伊良部島のリゾート建設も重なり、建設需要が激増しています。
家を作る人が住む家を作る、という二重の住宅需要により資材や工賃が高騰。市街地では家賃が3万円から10万円に更新された賃貸物件があったり、一部の土地は数年で値段が400倍まで上昇するなど、バブル真っ只中です。
「地元の人、特に若い世代が暮らせる価格帯の家が無い」など、昔から宮古島に住んでいた方々の生活が圧迫されないか、本当に心配です。美しい海を見て、その傍で過ごしたいのは万人共通の想いですが、その権利が一部の人々に偏らないことを祈るばかりです。
一方、都内と同水準の高い賃金を得ながら、どんな場所でも働けるITエンジニアやデザイナー。こうした職業に宮古島の子供達が興味を持ち、将来選んでくれれば、少しずつ島の状況も変わるかもしれない。そんな想いで、今後も継続的に宮古島の出張授業を続けたいと思いました。
子供に教える事で、大人も沢山の事を教わる
子供に何かを教えるのは本当に難しいんですよね。
子供は素直です。大人のように聞いているフリをしたり、こちらに合わせてくれる事はありません。興味がなければ一切聞かない。興味があれば全力で聞く。両極端な反応がフィルターを通さずダイレクトに返ってくるからこそ、授業の設計や話し方を工夫しなければいけません。
「話を聞いてもらう」創意工夫は人間として生きるうえで必ず求められるため、こうして工夫する機会をいただけた事で多くの発見を得られました。
子供の好奇心
今回の授業では「正解を与えないこと」を意識して、いくつかの謎は謎のまま残し、「気になった人は家に帰って調べてみてね」と言い残してきました。
答えを教えてしまうと、彼らの学びは完結してしまいます。「どうしてだろう?」と日常的に疑問や好奇心を持ち続けていれば、インターネットでどんな情報でも手に入れて自己研鑽を続けられます。
「人に魚を与えると1日で食べてしまう。しかし人に《魚の獲り方》を教えれば生涯食べていく事が出来る」と老子の教えにあるように、知識を与えるのではなく、知識を自分で探しに行く好奇心に火を灯したい一心で今回の授業を設計しました。
そして実際に授業を行って感じたのは、子供の底なしの好奇心に触れるほど、生きる活力をもらえる瞬間は無いという事。一人でも良いので、今回の授業をキッカケに何人かの好奇心を刺激できたら、僕にとってそれ以上に幸せなことはありません。
お知らせ
今回の宮古島訪問は、株式会社ヌーラボ様のリゾートワーク制度に参画させていただくことで実現しました。学校側との連絡の取りまとめを一手に引き受けていただき、ありがとうございます!興味のある企業様はぜひ、来年一緒に参画しませんか!
更にお知らせ
株式会社プラハは「モノづくりが好きな人がモノづくりに集中できる環境を作る」ことを目的に設立した、IT系モノづくりの集団です。宮古島で働きたい人をはじめ、「モノづくりを通じて誰かの役に立ちたい」「モノづくりが好きで仕方ない」人は、ぜひ会社に遊びにきてください!
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