スタートアップで働く人が知っておくと良いと思う「キャズム理論」Part5 ー 競争相手
自分の経験から、スタートアップで働く人、他には新規事業の責任者の方などが知っておくと良いのでは、と強く思える「キャズム理論」について説明しています。Part5のこの記事では、「競争相手」について書きたいと思います。
この記事は以下の書籍を参考にしております。
過去の記事は以下のマガジンからたどっていけますので、興味がある方はご参考ください。
それでは、Part5、「競争相手」の内容について記載していきます。
橋頭堡(メインストリーム市場の最初のターゲット・セグメント)へ攻め入るに当たって、以下について事前に十分理解しておく必要があります。
・競争相手は誰なのか
・その競争相手は、ターゲット・カスタマーにどこまで食い込んでいるか
・競争相手を駆逐してその地位を奪いとるにはどうすればよいのか
(駆逐、と聞くと進撃の巨人を思い出すのは自分だけだろうか、、、)
企業が製品を売り込んでいるときに、売り込み先の顧客が知りたいのは競合製品についてです。企業がこれまで初期市場で、ビジョナリーと強力し新たな製品分野を開拓したばかりなら、メインストリーム市場では、競争相手は存在しないことになります。故に、競合製品がない場合、競争を作り出すことが重要となります。
競争を作りだす
初期市場における競争相手は、顧客の内部に潜んでいます。現状を維持しようとする力、リスクに対するおそれ、「購入の必然性」の欠如、というものが製品の導入を阻害します。故に、ビジョナリーの支援を得ながらこの抵抗勢力を打破する必要があります。ここでは、競争相手の存在は必須ではありません。
対して、メインストリーム市場を左右するのは実利主義者であり、ビジョナリーが居ない領域です。実利主義者にとっての「競争」とは、一つの製品カテゴリーの中で複数の製品とその企業の製品を比較検討することです。複数の製品の比較検討した結果、実利主義者は購入の意思決定を正当化します。実利主義者は複数の製品を比較するまでは購入の決定を下さないのです。
故に競争相手の存在が必須であり、自ら競争を作り出す必要があるのです。競争を作りだすと言うことは、具体的には、実利主義者がよく知っている製品カテゴリーの中に自社の製品を位置づけることから始まります。この製品カテゴリーには他社の類似製品も存在していなければなりません。実利主義者がよく知っている製品がその中に含まれていればさらに申し分ない状態となります。
そして、最終的にはこのカテゴリーの中で自社製品が実利主義者によって選ばれるようにすることが目標となります。
競争力を高めるポジショニング
初期市場では、製品の購入を決定するのはテクノロジー・マニアとビジョナリーであり、価値を見出す対象は「テクノロジー」と「製品」です。メインストリーム市場では、実利主義者と保守派によって購入の決定がされ、価値を見出すのは「市場」と「企業」になります。
キャズムを越えるということは、「製品」を中心とする価値観から「市場」を中心とする価値観に移行することになります。「ジェネラリスト」が支配する領域では、「市場でのリーダーシップ」と「企業の安定性」に価値が見出されます。
「慎重派」のテクノロジー・マニアと実利主義者が製品を使えば、ビジョナリーと保守派は安心して製品を購入します。初期市場、メインストリーム市場が形成され始めた段階では「製品」と「企業」を推しても無駄、ということになります。
「慎重派」の「スペシャリスト」はブレークスルーを起こしそうな新しいテクノロジーをいつも探し求めています。「慎重派」の「ジェネラリスト」は実績のない企業には関心を示さないのですが、その企業が新たな市場を牽引していると知れば、興味を持ちます。
初期市場、メインストリーム市場の流れは、ハイテク・マーケティングにおける自然な流れです。テクノロジーの可能性を製品の信頼性に転換することで初期市場を成長させ、市場でのリーダーシップを企業の信頼性に転換することでメインストリーム市場を成長させます。
しかし、キャズムを越える行為は、自然な流れに逆らう、ビジョナリーによって「支持された」領域から、実利主義者が「慎重になっている」領域に我が身を移すことになります。気心の知れた「スペシャリスト」に別れを告げ、慣れない「ジェネラリスト」を相手にすることになります。
右下に位置している慎重派の実利主義者から支持を得るためには何よりもまず、企業がマーケット・リーダーであることを示す必要があります。これまでの「製品」を前面に出したマーケティングから、「市場」に着目したマーケティングに軸足をシフトしなければならないのです。
【製品重視】
時代の先端をいく製品
・使いやすさ
・洗練されたアーキテクチャ
・製品の価格
・ユニークな機能
【市場重視】
準備されたホールプロダクト
・これまでの実績
・業界水準への準拠
・ホールプロダクトの価格
・ユーザーに固有な価値
・利用目的への適合性
ホールプロダクトに期待していたのは、ベンダーの体質を【製品重視】から【市場重視】に改善することだったのです。キャズムを越えるときには、市場重視の考え方を「主」とし、製品重視の考え方を「従」とします。
競争相手には2種類
競争相手には、「代替手段」、「対抗製品」の2種類があります。
代替手段(顧客の問題解決手段としての競争相手)
提供元はターゲット・カスタマーにこれまで製品を販売してきた企業です。競争相手が解決しようとしている顧客の問題は、こちらが解決しようとしているものと同じものとなります(解決するための手段や製品は必ずしも同じではない)。この競争相手に既に割り当てられている顧客の予算を、これから獲得しなければなりません。新規参入企業は不連続なイノベーションを武器に、現行企業が提供している解決策の不備を突いて、この予算の獲得を目指します。
対抗製品(同種製品としての競争相手)
不連続なイノベーションを武器に、テクノロジー・リーダーを標榜しています。彼らの存在は、こちらが提示している不連続なイノベーションを顧客が認知するための手助けともなっているため、競争に対してこちらの戦略は、相手のテクノロジーを認めながらターゲット・セグメントに的を絞って差別化を図る、というものになります。
事例
▼ボックス
ドロップボックスの使い易さと、シェアポイントが持つ業務用としての品質を併せ持つようにしたのがボックスです。対抗製品として位置づけたのは、個人向けのソリューションとしてのドロップボックス(当時はまだ企業よりも個人に注力)であり、共通点は「このうえなく簡単」というものでした。代替手段としては、企業向けのソリューション、マイクロソフトのシェアポイントとし、彼らが顧客からもらっている予算を狙いました。
▼セグウェイ
大きな問題、「階段」の存在により、活動範囲が大きく制限されたものの、とはいえ、平坦な場所はいくらでもあり、もっと売れても良さそうだったが、2つの競争相手がいなかったため、孤軍奮闘となり、そこまで流行しませんでした。つまり、代替手段としての競争相手がいなく、競争相手から奪い取るべき顧客の予算が存在しませんでした。また、対抗製品として、セグウェイのような、斬新なテクノロジーを前面に押し出した製品が他になかったため、認知も拡大しませんでした。
競争を作り出す要点
明確な代替手段としての企業を見つけることが出来なかったら、または、同じカテゴリーの不連続なイノベーションを標榜する対抗製品としてのベンダーを見つけることが出来なかったら、キャズムを越えるにはまだ早すぎることを意味しています。キャズムを越える時には、ターゲットとするマーケット・セグメントが、すでにそこに存在しなければなりません。製品を購入するための予算を顧客がすでに確保している必要があるのです。
これらを避けるために、代替手段がすでに存在するマーケット・セグメントを選ぶことが重要です。その代替手段は広く認知されているものでなければなりません。このときに対抗製品としてのベンダーを味方にして、旧来の技術ではいま起きている技術革新に追随できないことを顧客に知ってもらうのです。ただし、旧来の技術に罵詈雑言を浴びせるのが目的ではありません。ターゲット・カスタマーが長いあいだ使ってきたこの技術に対して敬意を払うべきです。大切なのは、技術革新の波が押し寄せてきていることをターゲット・カスタマーに知ってもらい、旧来の実績ある技術に代わって、顧客が新技術を使いこなせるように支援することです。
結局、代替手段のベンダーは、顧客を自分のものだと声高に叫び、対抗製品のベンダーは新技術の優位性を訴えるのです。これは競争相手と自分のポジショニング問題です。ので、次はポジショニングについてみていきます。
おまけ
どこから予算をとるか、という考えは非常に重要だと思います。昔、そこをあまり考えずに動いていたことがあり、結局取るべき予算がなかった、ということがありました。新しい製品なら予算が取れるだろう、という感じで思っていましたが、そんなことは全くなく、幻想でした。。。
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