見出し画像

おだんごびんごのツクりかた

この記事はBoardGame Design Advent Calendar 2022 の第9日目の記事として書かれたものです。

0.はじめに


「ゲームをなぜ作るのか」
ゲームマーケット2022秋終了後、製作者打ち上げネット飲み会の際にそんな問いを投げかけたところ、思いのほか反応が良く、皆さんからいろいろな話が聞けました。
最も共感ができたのは「自分にはそれができたから」という哲学的でありつつも、しっぽを追いかけ続ける犬のように躍動感のあるものでした。
私はと言えば、「ゲームマーケットに出展するため」にゲームを作っています。アイデアのお祭りであるゲームマーケットで私のゲームで遊んでくれた誰かが「面白い」と感じてくれて、あわよくばそのようなことが耳にできるならそんなに最高なことはありません。
その最高な瞬間を実現するためには、どうやればいいかと考え、今までコンポーネントを軸にゲームを作ってきました。スパイスの香りのする線香を嗅ぐ「マサラマジック」、アクセサリーでパズルをする「ロンデルラミィ」、マカロンを開けて中に入れる「マカリョーシカ」など、特徴のあるモノの特性をゲームに組み込むことで、ちょっと変わった体験をつくることを目指してゲームを作ってきました。
でも、ゲームマーケット会場ではワードゲームやトリックテイキングや大喜利などが主流です。そのようなゲームのコンポーネントとしてはカードが多数派の中、私はカードを使わないゲームばかり作ってきました。そのようにしてきた理由を「自分にはそれができたから」と言えればよいのですが、実際は「自分にはそれしかできる気がしなかったから」という感覚の方が強いです。
そんな私が2022年秋のゲームマーケットでは「おだんごびんご」というカードゲームを作りました。おだんごが描かれたカードを並べて、串だんごを作るゲームです。
なぜカードゲームを作れないと思っていたのか、なのになぜ作れたのか、それ以外にも今回のゲーム製作を通して得られた発見についてどこかでまとめたいなと思っていた時にI was gameの上杉真人さんが今年も「Board Game Design Advent Calendar 2022」呼びかけられていたので、のってみることにしました。このような機会をいただけたことに感謝いたします。

この文章の読者としてターゲットにしているのは

  • まだボードゲームを作ったことがないが、ゲームを作りたい人
    ゲーム製作者
    ゲームマーケットが好きな人
    おだんごが好きな人


です。

おだんごでも食べながら、ゆったりとお読みいただければ幸いです。

1.      ゲームの道具ってスゴい


ゲームマーケットに出展されているゲームは、アナログゲームやボードゲームと言われる、コンピューターを使わないゲームです。歴史は古くエジプト文明から脈々と続くものだといわれており、遊ぶための道具としてはカード、ボード、ダイス、コマ、チップ、タイルなどが主に使用されます。

なぜそれらの道具が使用されるかと言えば、非常に機能的だからです。ゲームにあると良い機能としては大きく4つあります。

  1. 操作性
    1つ目は、操作性です。特に手での持ちやすさは重要です。ゲームは人が遊ぶもので、人は主に手を使います。そのためよく動かすコンポーネントは人の手に持ちやすい大きさや形状、重さであるほうが遊びやすいです。その点、カードやコマは人の手の大きさから導かれたといえます。

  2. 不確定性
    2つ目は、不確定性です。ゲームはプレイ前に結果がわかっていないものですから、不確定な未来を作りだせるものはそれだけでゲームを作るのに向いています。不確定性を作るものとしてはダイスやシャッフルされたカードがあります。なお、ゲームにおいて一番不確定性をもたらしてくれるのは他のプレイヤーですが、道具というには大きすぎます。箱に入りません。

  3. 認識の制御
    3つ目は認識の制御です。ゲームを行う上でプレイヤーは自分が認識できている情報から判断し選択を行います。すべての情報が公開されているゲームをアブストラクトだとするならば、そうではないゲームでは必ずプレイヤーから認識できない情報を含みます。ゲームにおいてはただ認識できない情報を生み出してくれる仕組みを持っているだけでなく、プレイヤーごとに認識を制御したい場合もあります。カードを例にすると、場にあるおもて向きのカードは全員から見えるし、うら向きの山札のカードは全員から見えません。また、手持ちのカードは自分だけから見えるというような複雑な認識の制御が当たり前のように行われています。もちろんアブストラクトにおいてもすべての情報が認識可能であるということを不安に思わせない仕組みを持っているという点では、認識の制御ができているといえます。

  4. 情報の保持
    4つ目は情報の保持です。人間の記憶力には限界があるため、複雑な盤面や出したカードの内容をすべて覚えておくことはできません。場に出したコマやカードが見えるところに置いておく限りは情報が保持され、どういう状況が判断できるのでわざわざすべての内容を覚えておかなくてもゲームがプレイできます。ある意味外部記憶媒体と呼べるかもしれません。そのために大事なことはその道具が動きにくいことです。双六のコマが球状で転がってしまったら役目を果たさないことからもご理解いただけると思います。

何千年ものゲームの歴史の中で選択されてきて、現在定番で使われているゲームの道具は非常に優れていますし、それだけに定番の道具を使用したゲームについても研究がされつくしています。
特にカードは操作性、不確定性、認識の制御、情報の保持どれをとっても機能的に優れており、カードゲームこそがゲームの王と言っても過言ではありません。

ゲームの王であるカードゲームにはすでに先人がわんさかいて、どこを向いてもレッドオーシャンしかありません。新しいゲームを作ろうにもそんな隙間がどこにあるのかわかりませんし、隙間を発見したとしてもそれが面白さにつながるなんてことはもっとわかりません。

カードゲームの密林に分け入るよりも、別の道具を使って未踏のゲームを探す方が自分としては向いている。そういうことにしてカードゲームの方は見ないようにしていました。

2.      カードってスゴい


ゲームマーケット2022年春に「ゲームマーケットチャレンジ」が発表されました。32枚以内のカードを使って5分でインストができて15分以内に遊べるゲームを作るというゲームマーケットのオフィシャル企画です。ゲームマーケット会場の一角に専用コーナーを作り、そこに置いてもらえるそうです。義務ではないし表彰も行わないゆるい企画という触れ込みでした。
しかしながらカードゲームに背を向けてきた私としては激しく動揺しました。私が推しているゲームマーケットの主催が広くゲームを募ると言っているのに、そのカードゲームを私は作れないだなんて。
腹立たしいのでとりあえず言ってみました「できらあ!」と。

先に書いたとおりカードゲームの先行研究を行っても、隙間が見つかるかどうかわからないため、ひとまずゲームの道具としてのカードに向き合ってみることにしました。今まではゲームになりそうなコンポーネントをみつけて、できることを解体し、面白さを探ってゲームを作ってきたので、今回も同じアプローチをしようというわけです。
なおどうやってコンポーネントを中心としたゲームを作ってきたかについては下記のnoteにまとめています。

コマノセテクノがデキるまで
https://note.com/pra/n/ne4c37cee494d

ゲームの道具として見たときに、やっぱりカードは最強です。機能的な面で優れていることは先に書いた通りです。ではその機能がなぜ発生しているかと言えば、大きさと薄さと印刷が可能であるということです。
大きさはボードよりも小さく、チップやタイルよりは大きい。薄さはコピー紙よりは厚く、タイルやボードよりは薄い。そのうえ、印刷可能なので絵やテキストなんでも記載することができます。そして裏と表の面があります。
自由度が高いのがカードの特長のようです。自由度が高いということは何でもできるということで、それだと何をやったらいいのかカード自身は教えてくれそうにありません。誰かと食事をするときに「なんでもいい」と言われるようなものです。どないせいっちゅうねん。
ひとまず、自由度が高くて手をつけられそうにないので、カードに数字を書かないで進めてみることにしました。トランプの歴史に勝負を挑める気がしなかったからです。次にカードに文字を書かないで進めてみることにしました。特殊効果が発生するようなゲームはやりこんだことがなく引き出しがないからです。やっと少しだけ不自由になれました。
それでも絵を描くことはできるしマークも入れられるし自由度は高いままです。
カードを理解するために他の道具の違いを考えてみました。近しい道具としては、ボードとカードとタイルがありそうです。対比表を作ると下のようになります。

カードには厚みがないため、重ねるのが得意なようです。カードをずらして積んでも相当数積まない限りひっくり返ることはありません。タイルが得意な分野にカードの特性である重ねるという要素があれば新しいことができるかもしれません。タイルと言えば配置ゲームです。カードの特性を生かした重ねる配置ゲームは今まで出ていないかもしれません。カードにできることを考えたら、薄いので、裏側に差し込むことができそうです。ジェリージェリーカフェさんのサイトやボドゲーマさんのサイトで検索してみたけれども、カードを裏側に配置させるゲームはどうやらなさそうです。
こうしてカードの裏側にも重ねて配置できるカードゲームというゲームのコアができました。

3.      小目標ってスゴい


「ゲームマーケットチャレンジ」はカード32枚で、5分でインストできて、15分で遊べるというレギュレーションです。シンプルで軽いゲームが求められていると理解しました。
レギュレーションの32枚ぎりぎりまで使うと、4人プレイだと1人にカードは8枚まで渡せそうです。カードを重ねて配置するので、カードを十字に4分割して、色を塗り分けて、重ねて特定の色を表に出すといったことができそうです。1枚ずつ獲得したカードを配置して、4×4の16のマスをすべて同じ色で埋めるゲームを考えました。配置パズルとしてのゲーム性がありそうです。
テストプレイをしていただいたら、どうもうまくいきません。教えていただいたアドバイスのキーワードは「小目標」でした。テストプレイをしたゲームは、4×4のマスをすべて同じ色にするということが目標になっていたのですが、それができるかできないかはゲーム終了までわかりません。そうではなく、1手ごとにプレイヤーが達成できる何かを与えないと、プレイヤーはずっと不安の中にいることになってしまいます。いままでにもよく耳にしていた「小目標」という言葉でしたが改めてその重要性が腑に落ちました。
ひとまず全部の面を同じ色にするのではなく、一列ごとに同じ色にする方針に変更しましたが、それだけでは達成できない手番が多くなります。そのため、すべて異なった色であってもよいことにしました。3つか4つ並んで、同じものであっても、全て別のものであっても成立するもの。・・・おだんごだ。盤面のうえで並んで達成するゲーム。・・・ビンゴだ。
これは「おだんごびんご」だ。
というわけでフレーバーとゲームタイトルが一気に決まりました。
4個のおだんごが描かれたカードを配置して、3個か4個おだんごを並べて、串をさして串だんごを作るゲームの骨格はほぼ決まりました。
その後も、テストプレイをして出た課題を解決してくれた改善案はすべて「小目標」にまつわるものでした。
例えば、1手番目にどのカードを取ったらいいか指針がないという課題が出た時にも、先に2枚ランダムで配ってから始めるとことで1手番目から指針が建てられるというアイデアが解決してくれました。
どのカードを選んでもあまり変わらないときにボーナスだんごがあったら選ぶ指針ができるというアイデアが解決してくれました。
アイデアを教えてくださった皆様、本当にありがとうございました。
「小目標」が別の形で機能したこともありました。
もともとカードを長方形で設計していたのですが、並べやすさの点から正方形のカードにした方が良いというアドバイスをいただいていました。ただ、想像では長方形だと上下の2方向にしか回転して置けませんが、正方形だと上下左右の4方向に回転して置けてしまいます。カードの配置を考える上では試行回数が倍になり、プレイ時間が長くなることを想定していました。ただ、長方形では縦、横で長さが違うため、串をさすとおだんごの長さが縦と横で変わってしまうのは不格好で許せません。優先順位としては見た目のほうをより解決したかったため、正方形のカードを検討することにしました。初めて正方形のカードでモックを作り遊んでもらったときに驚きました。プレイ時間が短くなっていたのです。正方形のカードだと上下左右の4方向に回転して配置して、自分なりの小目標が見つけやすくなっていたからだと理解しました。最善手でなくてもある程度次善な手であれば1手ごとの納得感は高いようです。それは軽いゲームとしては重要なことでした。
「小目標」の解決力を理解できたのは今回のゲームにおける一番大きな成果でした。
また、それに気づけたのもカードの自由度が高かったおかげだと思います。

4.      最後に


そんなこんなでゲームマーケット2022秋に「おだんごびんご」をリリースすることができました。軽いゲームではありますが、パズルとしてきちんと悩める作りになったところがとても気に入っています。
思い返してみると、今まで自分ではできないと思っていたことも、偏見なくしっかりと見つめなおしてみると、自分なりのやり方で付き合うことができました。それもテストプレイをしてくださったみなさんのおかげです。ここで改めて感謝いたします。
ひとまずカードゲームとは少しだけ仲良くなれたような気もするので、今度はダイスゲームにもトライしてみようかと思います。
とりあえず「できらぁ」と言っておけば未来の自分がなんとかしてくれるでしょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?