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「年収600万で法人化」した人に聞いてみた!法人成りのメリット・デメリット・ベストなタイミングとは?

こんにちは。
スイカを食べるときは、しろい部分もがっついて食べてしまう、すだです。

私はライティングや企業広報のお仕事をしながら、イベントの企画・司会などもしていまして、先日下記テーマのオンラインイベントを開催しました。

フリーランスで何年かお仕事していると、ときどき「法人化」が頭をかすめることはないでしょうか。

ネットで調べたことはある。メリット・デメリットも、なんとなく分かる。でも、いまいち自分ごとに考えられない。

それは「法人成り」した人が周囲にいない、あるいは、いるけれど話を聞きにくい。そんな理由があるからなのではないか、と感じました。

そこで2021年に法人成りされた方をゲストに招き、意外と聞けない「法人化のあれやこれや」を可能な限り伺ってみました。この記事はそのイベント内容をまとめたものです。

「法人成り」とはどういうものなのか?

少し深く考える、そんなきっかけになれば幸いです。

ゲストの「夏野かおるさん」とは?

京都大学大学院 博士課程指導認定退学。大学院在学中よりフリーランスとして活動。

開業後は主に東証グロース上場企業の主席ライターを務めながらディレクション・マネジメント系業務も受託、売上規模拡大に伴い2021年夏に法人化。現在は博士号取得に向けた研究活動を本業としつつ、“なんでも屋さん”としてクライアント様の手となり足となり働く。

「法人化」のメリットとは?

――夏野さん、今回イベント登壇を引き受けてくださり、本当にありがとうございます!早速で恐縮ですが、法人化されたご自身の経験をいろいろと聞かせてください!

何でも聞いてください。

――では、最初の質問です。まずはいいことから……「法人化のメリット」について教えてください。

そうですね。私個人の話はあとでお話しするとして、一般的に「お金」と「信用」のメリットがあると思います。

――お金と信用……

まず「お金」の話でいうと、さまざまな場面で節税できること。例えば自宅を経費として計上したり、人間ドックを経費で受けられたり。小規模企業共済という退職金を自分でつくる制度を利用できたり。実質的には貯金ですが税金がかからないので、払うはずの税金を節約できます。

――「節税」……!

あとは、法人化すると個人よりも「信用が得やすい」というメリットがあります。例えば企業が個人に仕事を発注する場合、その人の働きぶりがどれだけ良くても発注金額が多くなると「この支払い、多くない?大丈夫?」となることがあるんです。

――え?

ものすごく極端にいうと、「ウラで賄賂でももらってるんじゃない?」のように疑われてしまうというか。あくまで個人的な体験ですが、大体35万円ぐらいから怪しまれ始めて、50万円を超えると「この人(への支払い)、大丈夫?」となる気がします。つまり、既存顧客の場合は発注金額が一定額をこえると疑惑の目を向けられてしまうこともあるんです。

――そんなことが……(35万を超えたことがない)

新規のお客様の場合も、フリーランスは基本的に信用がない状態から始まります。どんなにスキルがあっても、会社の肩書きと共に活動してる人に比べると信用は少ない。「飛ばないよね?」「秘密を洩らさないよね?」など不安がある中でお客様は発注してくれているわけです。

ただ法人化すると登記簿に本名と住所が記載されるので信用が得やすい。そういった意味で新規、あるいは大規模なお問い合わせが受けやすくなるかもしれません。

――「法人化すれば大きな仕事受けられるよ」といわれたことがあるんですが、やっぱりそうなんですね……!

そうですね。念のため正しくいうと必要だけれど、十分ではない感じ。あくまでもプラスアルファですね。実績もないのに会社だけつくっても問い合わせが来ないので、あくまでも個人としてある程度実績がある上で「法人化しました!」にするといいですね。

――実績が大事……そうでした。法人化することで、お客様側が感じる安心材料がひとつ上乗せされる、みたいなイメージですかね?

そうですね!


「法人化」のデメリットとは?

――では次に、法人化のデメリットについても教えてください!

主に、「金」と「手間」と「気持ち」ですね。

――金と、手間と、気持ち!

お金に関しては先ほど「いろいろ節税できます」と話しました。その一方で法人化により出ていくお金もあります。まず設立時にまとまったお金が要りますよね。

――はい、なんとなく知っています。

それから税理士さんに顧問に付いていただく必要もあります。義務化されてはいませんが、実態として顧問に付いてもらうのが現実的なので顧問費用が毎月必要です。決算期にも別途お支払いしています。

――税理士さんへの支払い……。ちなみに、おいくらくらいですか?

顧問費用だけで毎月2.5万円ほど。それ以外に税務関係のよく分からない書類がきたら目を通して対応してもらうのに別途、決算期にも別途、月額5万円ほど払っている月もあるかもしれないですね。

――ひいい!

あとは登記簿に載せるために登記が可能な事務所を借りる必要があります。普通の賃貸アパートは登記NGになっている可能性が高いので、新しく事務所OKの物件を借りるか、バーチャルオフィスを借りるか。何らかの形で対応しなければいけません。

――夏野さんはどうしていますか?

私はバーチャルオフィスを月額3000円くらいで借りています。そこは郵便物の転送に1回200円ほどかかるため、月額4000円ほどの支払いです。顧問料にオフィス代……個人事業主だったときには発生しなかったお金ですね。

あとは税務署から急に「2週間後までにこの金額払ってね」みたいな通知が来るんです。先日もトータル50万円ほどの支払いが必要なことが分かって。急に大きな金額が消えるのは「ああ……」となりますね。

――うう……

泣きたくなりますが、次にいきますね。次のデメリットは「手間」です。個人事業主のときと比べ、手間が爆増します。

法人化すると「謎の紙と謎の数字」が大量に舞い込むため、内容の判別を税理士さんにしてもらい、税理士さんからのレポート内容を確認して自分で決裁する。その手間が爆増します。

――うわあ……

私は特にこの作業が苦手で。書類作業が増えると悪夢にうなされちゃう……みたいな人はしんどいかもしれないですね。

――ふむふむ……

あとは「気持ち」ですね。法人化してから取引先の方に「これからは慎重に行動してね」といわれたことがあります。主にお金の管理や情報管理、セキュリティの面ですね。

「絶対に悪いことしないでね」といわれるので、そうしたプレッシャーもかかってきますし、ビジネスが大きくなれば「誰かに任せる」ことも増えてくるので人間関係の悩みも出てきます。

――メリットばかりじゃないんですね……

そうですね。何をどうとらえるか、個人差はあると思いますが(笑)

「法人化のベストなタイミング」とは?

――ではここからは「法人化のタイミング」についてお聞きしたいです。いろんな観点があるかと思うんですが、夏野さんのお考えを教えてください。

一般的によくいわれるのは、売上・利益の観点。大体900~1000万を超えれば「法人化したほうがいい」みたいな話がありますよね。

――はい、私もそんなイメージです!

ただ法人化したことで精神的にプレッシャーがかかって体調を崩してしまい、働けなくなって売上減少……ということにならないとも限らないですよね。

――あ、それはありそう……

電卓をはじいて「これでいける」と考えたとおりに必ずしもならない。税理士さんからはそんなアドバイスがありました。

――税理士さん、そんなアドバイスもしてくれるんですね!

ビジネスの業態や利益率でも変わるので、税理士さんにまずは相談するといいと思います。

私の場合、法人化したときの前年度の年収は約600万。このままのペースで伸びると仮定すると、「個人/法人でトントンくらいかな」と税理士さんにいわれました。トントンならば、法人化すれば発注量が増える可能性がある=メリットがあると判断できたので「じゃあ、法人化しよう」と決めました。

――おおお!600万で……!

私のように約600万くらいでトントンになる見通しが出てくる人もいるので、数字だけで判断しないほうがいいのかな、と。そういう意味でも気の合う税理士さんに相談することが大事ですね。

――法人化のタイミング、ほかの観点はありそうですか?

あとは社会保険の加入の面ですね。はっきりいってフリーランスは保障が手厚くない。でも法人化すれば退職金を自分でつくることができるし、社会保険にも入れます。セーフティーネットを二重三重にするイメージです。

ただ社会保険は自分でかけたお金が老後に返ってくる、という仕組みなので直近では数万円が毎月出ていきます。フリーランスのころに払っていた額と比べると信じられない額が吹き飛んできますので、金額を見てテンションが下がることはあるかもしれません。

――フリーランスのころより、毎月の「出ていくお金」はだいぶ大きくなるんですね。

そうですね。早死にするリスクがある以上、老後に払ったお金が返ってくるとは限らない(損だ)、という考えを持つ方もいるのでメリットになるか・デメリットになるかは人によって異なると思います。

夏野さんが「法人化」した理由

――夏野さんが法人化を考えた、直接的なきっかけって何だったんですか?

ひとことでいうと「信用」です。先ほども話しましたが私への発注金額が大きくなってきたんです。それでもなお、担当の方から「会社になってくれれば、もっと大口で頼めるんだけど……」といわれたのが大きなきっかけです。

――なるほど!

ただ中小企業診断士の人からは「クライアントからの要望で法人化したものの、実際の発注はゼロで廃業した人もいるから」といわれました。

――ひえええ!

なので、私は1年ぐらい様子を見ていましたね。

――時間をおいたんですね。

はい。その間に「ゆくゆくは任せてもらえるなら、この権限もいただけませんか?」「この契約変更は可能ですか?」と交渉したり「御社に貢献するために、こういう体制を整えたいんですけど」と相談したり。

そうした交渉や相談に応じてもらい、実際に仕事のやり方を変えてもらったので「信頼しても良さそうだ」と分かり、法人化に踏み切りました。

――石橋をたたいて渡るような……

そうですね。慎重でした。

――そのくらい、慎重さを持ってのぞむべきことなのかもしれません……

互いにメリットがあって成立する話なので「こんな会社にしたいです。会社にすればこんなことができます」「今、何%ぐらいの見込みがたっているので〇月ぐらいには〇ができます」など、自分から進捗報告や情報共有していくことも大事かもしれないですね。

夏野さんが法人化して良かったこと・大変だったこと

――ここからは夏野さん自身が法人化して良かったこと、大変だったことを教えてください。

良かったことは、単純に売上が上がったこと。約600万から1200万円。法人化して単純に2倍の売上になりました。今年は取引先も増えたので、もうちょっと上がるかなと思います。

――うわあ……うらやましい……

あとは親から「いつになったら落ち着くの?就職もしてないけど大丈夫?」と心配されていましたが「会社つくりました」となったら「頑張ってるやん!」みたいになって。近しい人から信頼を得られました。

――それは良かったです……!大変だったことは……?

私の場合「謎の紙」の処理がしんどいことと、あとは人間関係ですね。揉めるとかではなくて「人の採用」や「お願いの仕方」で迷ったり悩んだり。さらに誰にも相談できないことが辛いです。個人で活動していたときは、守秘義務に反しない限りで気楽に相談もできましたが、法人化するとペラペラ話せないので。

――どうしてですか?

お客様の深いところまで入れていただくので、何が機密につながるかを慎重に考えているうちに、何も話せなくなるんですね。少し孤独です(笑)

――孤独……

仕方のないことですけどね。

大事なのは「決める力」

――最後にお聞きしたいのですが、法人化において大事なことって何だと思いますか?

そうですね……。例えば新規のお仕事が「正直ちょっと安いけど、やりがいはありそう」となったとき「受けるか、受けないか」決めますよね。自分を安売りしないぞ!というポリシーも正解ですし、これを足がかりにチャンスをつかみたい!と自己投資をするのも正解。

つまり明確な答えがない。自分で「決める」しかないんですよね。

――はい……

法人化ではそんな「決める」作業が毎日のようにあります。私の場合は「これもあれもやりたいけど、忙しいからどうしよう」もあれば「個人的には大好きなライターさんだけど、スキル的にこの案件を任せるのは難しい」となったときに参画をお願いするかお見送りするか、決めるのも自分です。

決めることの連続なんですね。

――決めて、決めて、決める毎日……

そうですね。悩むことも多くなりますが、そのときに人のせいにしないこと。自分で決める力が、法人成りをするなら必要かなと思います。

――唐突なのですが、夏野さんはなぜ自身の年収まで公表して「法人化の経験」をここまで話してくれるんでしょうか?

私の本業はあくまでも、研究したり、論文を書いたりすることなんですね。そこに自分らしさや、やりがいを見出していきたくて。

研究の世界は、お金や時間軸が現実世界と全然違います。私はどちらかというと、研究の世界に親近感を覚えているので、ビジネスは自分の人格に直結した出来事に捉えてなくて。なので自分の経験を公表することにも抵抗がない。

――夏野さんの記事を読んだり、こうやって話を聞かせてもらっていると「自分を良く見せようとしてない」と感じます。

どうなんですかね。う~ん、良く見せようとはしていないかも。例えば私、財布を持ってなくて。

――え?

お金、ビニール袋に入れてるんです。お金を粗末にしている気持ちは全然ないんですよ。ただお金って別に隠すものじゃないので、オープンでいいかなと。常日頃からそんな感じです。

――なんとワイルドな…… 

(笑)私、奨学金の関係で860万円ぐらいの借金があるところからスタートしてるんです。だから何も持ってない。むしろマイナススタート。そんな事情も関係してるかもしれないですね。

まとめ

今回のイベントで感じたこと、それは

「夏野さんは粋」

ということ。

そして法人化については

「お金と手間と気持ち」に対して、自分はどう感じるのか?

を考えたほうが良さそうだ、と感じました。

夏野さんはご自身の「法人成り」について、たくさん記事を書いています。ご興味ある方は、ぜひ読んでみてくださいね。


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