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【ブーム分析研究室】高級食パンブームを分析してみた

ここ最近、高級食パン専門店が注目を浴びている。 老舗の「乃が美」「に志かわ」に続いて「白か黒か」「CENTRE THE BAKERY」「MIYABI」「俺のBakery」など、実にたくさんの専門店が登場している。

食パンといえば、ヤマザキパンやフジパンに代表されるように、一斤200円前後で買えるものが一般的である。かつての主婦の方々が朝食用に食パンを買う際は当たり前のようにこれらの低価格の食パンを選んでいたであろう。

しかし、2013年頃から登場した高級食パンは、どれも一斤で500円以上もする商品であり、従来の食パンの倍以上もする価格を有している。

一体なぜ、これらの高級食パンが流行したのだろうか。その謎に迫る。

ブームに至るまで🍞

1. プレミアムビールの流行(2007~)
2. プチ贅沢ブームの到来(2012~)
3. セブンイレブンの「金の食パン」(2013~)
4. 高級食パン専門店の台頭(2013~)
5. 様々な店で高級食パンが登場(2018~)
6. 巣篭もり需要により自宅でのプチ贅沢ブームが再来(2020~)
7. 高級食パンがテーマで専門店がメディアに頻繁に取り上げられる(現在)

概要

2007年頃、日本ではプレミアム市場が注目され始めていた。特に単価の安い最寄り品や日用品において、 手の届く範囲でのちょっぴり背伸びした「プチ贅沢」を打ち出した商品が続々と発売されている。高級で上品な緑茶飲料、高級シャンプー、濃厚な味のプレミアムカルピスなどが記憶に新しい方もいるのではないだろうか。使用時間が極めて短いティッシュでさえも価格が約4倍というプレミアムティッシュが人気となり、一般的なドーナツよりも少し高いな 「クリスピー・クリーム・ドーナツ」は人気を博し、長蛇の列ができた。日常生活において、いつもとは違う高級感を演出し、気軽でちょっぴり背伸びした贅沢を楽しみたいという欲求が消費者の間で高まった。こうした身近なプレミアム消費の典型といえるのがプレミアムビールではないだろうか。[1]

「ヱビス」「ザ・プレミアム・モルツ」「アサヒスーパードライ ドライプレミアム」に代表されるプレミアムビールは、原料や醸造方法にある種のこだわりを持たせた高級志向のビールのことで、2000年代後半以降、30代から40代のサラリーマンを中心に人気を博した。2006年に「最高金賞のビールで最高の週末を」のキャッチコピーで特別な日以外の飲用時期を提案した「ザ・プレミアム・モルツ」はビールをあまり飲まない方でもCMやラベルなどで一度は目にしたことがあるのではないだろうか。[2]

「ザ・プレミアム・モルツ」を筆頭に、2000年代後半にプレミアムビールの流行った。その後それがきっかけで、様々な領域へプチ贅沢志向が展開されるようになった。[3]

2013年頃に、セブンイレブンで「金の食パン」が発売されたことは、まだ記憶に新しいのではないだろうか。製パン大手の普及品に比べておよそ2倍の値段の食パンが猛烈な売れ行きで一時期ブームになった。これも裏ではプチ贅沢ブームが働いていたのではないかと考えられる。[4]

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そして、この時期に高級食パン専門店の老舗「乃が美」を筆頭に、高級食パンを専門的に取り扱う企業が名を連ねるようになった。

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その後、コンビニやスーパー、レストランやバーなどの飲食店を中心に、一般的なものよりも高価な「高級食パン」を取り扱う店が急増し、「高級食パン」は一つの大きな潮流となった。

そして、2020年。新型コロナウイルスの感染拡大によって行動が制限されるなか、2000年代後半に流行した「プチ贅沢ブーム」が再び再来し始めた。コロナ疲れ、コロナストレスなど、様々なストレスを抱えながらも日々頑張っている自分へのご褒美として、日常生活の中の少しだけ贅沢をしようと思った人は少なくないのではないだろうか。食後のデザートであったり、入浴時間を豊かにする入浴剤だったり、贅沢の対象は人それぞれだが、この「プチ贅沢」で登場するのがやはりプチ贅沢ブームの代表格である「高級食パン」だったのだ。[5]

面白い名前の専門店やおしゃれな世界観の専門店など、実に様々な高級食パン専門店が登場し、たくさんの人の話題に上がるようになった。その結果、各メディアが取り上げるようになり、瞬く間に「2020年高級食パンブーム」へとつながったのである。

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省察

●プチ贅沢ブームはプレミアムビールの登場がきっかけである可能性が高い。
●2013年頃に流行した一度流行した高級食パンブームが、巣篭もり需要によって2020年に再来した可能性が高い。
●専門店が人気を博すようになると、他企業(飲食店やスーパーなど)も取り入れるようになる。
●ある商品の人気が出たり話題の上がったりすると、その実態やそれに対する消費者の意識について企業やメディアが調査をするようになる。
●人気の秘密や消費者意識を調査した後は、人気店の食べ比べやおすすめの食べ方、インフルエンサーの消費スタイルなどについてメディアが報道するようになる。

メディア視点でみる

1つの領域(食パン等)で専門店やブランドが続々と立ち上がれば、メディアが報道する確率は高い。
行列ができている、ものすごく売れているなど人気が可視化されていれば、その実態や消費者意識について報道する確率が高い。
メディアは多くの人の話題になっているもの(ブーム)は基本的に取り上げる。Twitterでのハッシュタグトレンド上位やリツイート数などは、PRにおいてやはり軽視できない。

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脚注

[1]遠藤功(2007)『プレミアム戦略』東洋経済新報社
[2]サントリーグループ企業情報 2019.04.26
[2]Yahoo!ニュース「麻布十番で話題の『夜のパン』、コロナ禍の高級レストランが込めた思いとは?」2020.09.06
[3]@DIME「誕生から130年を迎えた「ヱビスビール」の歴史を振り返る」2020.06.06
[4]産経ニュース「食パンの概念を変えた!『セブンゴールド 金の食パン』」2013.10.19
[5]Business Journal「プチ高級品ビジネス、秘かにブーム?食品、外食、日用品…景気回復期待の高まり反映か」2014.02.24

参照

●毎日新聞「高級食パンが人気 専門店相次ぎ出店 新しいファン層形成 札幌/北海道」2020.08.19
●Yahoo!ニュース「【ローソン、ファミマ、セブン】あなたはどれがタイプ? 「食パン」7種食べ比べ」2020.07.26
●現代ビジネス「高級食パン・大行列20店を食べ比べてわかった『本当においしい店』」2019.07.06
●TOKYO MX「高級食パン専門店、人気を生む秘密は?」2019.06.14
●PR Times「『水にこだわる高級食パン』で銀座食パン戦争に参戦。」2018.08.21