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チロの範囲

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南の島で暮らす少女・チロと 人間の言葉を話すイヌ・大作。 ひとりと一匹は仲良く暮らしていた。 ところがある日・・・ (全21話)
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21. 少年は祖母とともに島を訪れる。〈完結〉

さざ波。 無人島に小さなボートが近づいてきていた。 乗っているのは隣の島で漁師をしている…

にらた
7年前
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20. 少女は、目覚める。

波の音が、朝の気配を受けてゆっくりと立ち上がる。 まだ薄明るくなったばかりだ。 チロは浜…

にらた
7年前
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19. イヌは主人とその娘、そして少女に囲まれて幸せに暮らす。

「大作!」 海辺に寝そべる白い犬に声がかかる。眠そうに振り返った。 「なんじゃ?」 「は…

にらた
7年前

18. 主人は、眼鏡の男とペンギンと今後について話し合う。

室内は静まり返っていた。 「・・・」 「・・・」 「・・・」 ペンギンと、眼鏡の男と、そ…

にらた
7年前
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17. イヌは言葉の源泉になり、少女のもとを去る。

大作はチロを背負ったまま、橋の上を駆け続けた。 向かうところは決まっていた。このまま行け…

にらた
7年前
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16. イヌは少女の異変に気づく。

大作は雲の上を走っていた。 常に流れ続けているので、その場に立ち止まっていることはできな…

にらた
7年前
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15. 赤ん坊を口にくわえたイヌは、言葉の喜びを知る。

一瞬、何が起こったのか分からなかった。 横たわった少女の目は見開いたまま、動かなかった。その頬を舐めた。冷たい、血の味がした。 花火の匂いがしている。 大作は花火が恐かった。少女に火の点いた花火で追い掛け回されたり、やたらと大きな音を立てる打ち上げ花火にいつも体を縮こませたりしていた。しかし、いま漂っている花火の匂いはそれとはまた違った、別の恐怖を感じさせた。全身がごわつくような、奇妙な感覚に襲われた。いったいなんだろう、これは。 「イヌはどうしますか?」 しゃがれ

14. 少女は見知らぬ青年から重要なことを知らされる。

気付くと少女は地面にうつ伏せになって倒れていた。服がひどく汚れている。 すぐ側には赤ん坊…

にらた
7年前
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13. イヌは主人から重要なことを知らされる。

大作は無気力に横たわっている。全身が闇に侵食されようとしていた。目は開いているものの、何…

にらた
7年前

12. 少女はひとり、コロッセウムから雲の上へと迷い込む。

森の中を赤ん坊の声だけを頼りに進んでいく。少女は自分に何かしらの使命が課されたように感じ…

にらた
7年前
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11. ペンギンとメガネは、少女を雲の上に連れていく。

チロは深い暗闇の底に仰向けになっていた。薄目を開く。 「おはよう、チロさん」 声のする方…

にらた
7年前
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10. イヌは目覚め、少女の不在に気づく。

目覚めた。 大作はその白い毛を汗に濡らしていた。嫌な夢を見た。時々、大作は夢にうなされる…

にらた
7年前

9. 三人の人物が死に、イヌが残る。

もうすぐ春が芽吹くという頃に、祖父は亡くなった。最後の北風が連れ去ったのかと思うほど、静…

にらた
7年前
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8. 少女は夜、青年と出会い、赤ん坊は眠り続ける。

祖父から十三回結婚した男の話をしてもらった夜。月明かりの下に立っていた青年と出会った夜。あれから毎晩、少女は山小屋の裏で彼と会うようになっていた。 いや、もう少女ではなかった。 大作とじゃれあうことは日に日に少なくなり、毎日のようにつけていた歯形も顔から消えた。代わりにその肌は、光に照らされたようにぼんやりと白く灯った。黒髪は肩まで伸びて乱れることがなく、地に垂れたまま、風にだけ従うというような優雅さを持っていた。大きく見開かれた目が微笑に歪むと、しなった枝葉のような、小