ストリートファイターのプロリーグにパンピーがアナリストとして挑んだ時のお話 part1

 先日レッドブルプレイヤーであり、プロゲーミングチームGood8Squadに所属するストリートファイター5のプロプレイヤーであるガチくんが下記の動画をアップした。

"実は〇〇してました!今だから話せるG8Sが2021年にやっていた取り組み【スト5雑談】
https://youtu.be/BwrjE84MaLw

 2021年のストリートファイターリーグに挑んだ際、チームに相手選手のプレーを分析するアナリストを実は雇ってましたと言うお話だ。

 「そこまでやるのかグッパチ、そりゃつえーわ」と、一昨年リーグ戦を圧倒した強さに納得する人や、「一体どれだけの時間と労力を…」というゾッとしているような人のコメントなど、さまざまな受け止め方をこの動画を見た方はされていることだろう。

 この時アナリストとして参加したのが何を隠そう私です。もしかしたらプロ格ゲーマーの配信で「ぱぱすぬわ」と言う名前のイタイ視聴者を見かけたことがある人もいるかもしれません。はい、私のことです。

 この動画だけでこの時の取り組みの話が終わってしまうのは勿体無いなと感じたため、ガチくんご本人に了承をいただいた上で、この時アナリストとして参加した私の経験を少しnoteに残したいと思う。(当時の具体的なデータは流石に出せませんのでご容赦ください)

 そして関係各所の許可取りが終わっていないので今回のpart1ではガチくんとマンツーマンで行ったSFL直前までの取り組みを振り返ったものになります。 (SFL終了まで書いてたら1冊の本が出来上がってしまいそうなので)

1.はじめに

 まずわたしがどういった人間なのかを少し説明を
 現在32歳のサラリーマン、格ゲー歴は12年ほど。無印ストリートファイター4の後期から本格的にスタート、第一回ゴッズガーデンを偶然視聴したことがきっかけで格ゲー熱が沸騰、翌日家庭用スト4を買いに走りました。
 家庭用ウル4までの期間で最高PPは4000ちょっと、Tホークをメインで使用。並行してブレイブルーもプレイ、テイガーを使って最高段位はBBCP2の時の家庭用24段あたり、その他もろもろ同時期に発売された他の格闘ゲームに手を出してきたと言うプレイヤーだ。
 そしてスト5ではブランカメインで1年以上前にスパダイに昇格してからランクマはほぼ止まってしまったので正確な現在地はわからないものの、多分ウルダイからマスターあたりはあるはず(そう思いたい)。
 格闘ゲーム界隈において、上記の経歴をどう捉えるのか?初心者から見ればもしかしたらめちゃくちゃ強いと言ってもらえるのだろうか、ただプロゲーマーのレベルの目線から言えば“中級者”、「まあキャラ対なら対戦してもいいかな」というレベル。山に例えれば、プロゲーマーのトップが山の頂上とするならば、私の位置は6合目か7合目に行けるかどうかといったところでしょう。
 
 「お前の格ゲーの実力とか知らんわ!おもんないんじゃはよ本題に入れ!」と思われるかもしれないですが、実はこの部分が今回アナリストを買って出た動機に結びついてくるんです。

2.取り組むようになったきっかけ

 格ゲーを遊び始めた大学生の頃から「いつか格ゲーのeスポーツ業界で働きたい」と思っていた私だったのですが、ある高い壁に阻まれていました。

 新卒で社会に放り出された2012年、もちろんその頃はまだ業界もまだまだ小さく、プロゲーマーといえばウメハラ選手、ときど選手、マゴ選手のマッドキャッツ3人衆が登場してまもないタイミングでした。その後も「そもそもスタッフの募集をかけているチームや企業が非常に稀」だったり「非常に高い格闘ゲームの技量を持っていること」がある程度大前提にあったり、コミュニティから形になっていった格ゲー界隈では非常に強固な横の結びつきが存在しているため、「知らない人」な上に「非常に高い格闘ゲームの技量を持っている」わけではない私のような人間が業界に入り込む余地はほとんどありませんでした。

 では「知らない人」であり「非常に高い格闘ゲームの技量を持っている」わけでもない私が業界で働くためにはどうしたらいいのだろうと考えた時に、思いついたのが「新しい知識と役割」を持つことだったと言うわけです。

 私は格闘ゲームの他にもプロスポーツであるプロ野球やF1など他のスポーツにも興味があり、以前は応援する横浜ベイスターズを分析するブログを書いていました。
 
 現在メジャーリーグやプロ野球ではあらゆるプレーや選手の能力をデータ化し、独自の指標で評価する「セイバーメトリクス」という取り組みが盛んに行われています。   
 私もその「セイバーメトリクス」のデータを用いてブログで分析を行っていたのですが、ある時ぼんやり「格闘ゲームでもこんなことはできないのだろうか?」と考え始めます。 
 これができれば新しく格ゲーアナリストとしての職業が成立するのではないかという期待は持っていたものの、「じゃあ誰のために?」と言う部分や「プロが本当に求めるデータとはどんなものなのか?」と言う部分がはっきりしないまま月日が流れていきました。

 ある日、いつものように格ゲーマーの配信を見ていると「データアナリストとかいたら、どんな感じになるんじゃろ…」と漏らしたプロゲーマーがいました、皆さんご存知の通りガチくんです。
 ガチくんがプロ野球ファンであることは皆さんもご存知かと思いますが、彼もまたプロスポーツで行われているデータ分析の分野に興味を抱いている1人だったのです。

 かつて格闘ゲームのデータ化に挑んだ人はいました、しかしどのケースもその膨大なデータの量と、曖昧な「読み合い」の数値化などをどのように確立するのかと言う課題がクリアできずにデータアナリストが誕生することなく今日に至ります。(もしかしたらどこかがやっているかもしれませんが)

3.多分この年にしか成立しなかったデータアナリスト

 私はストリートファイター5のうちにデータ収集を始めないと、今後始めることができないだろうと考えていました、理由は下記の3点の通り。

・フレームをコマ送りでき、入力履歴がすべて見られる充実したリプレイ機能がある。
・オンラインで行われた対戦すべてがリプレイとして残る。
・比較的シンプルなシステムと早くないゲームスピートのゲームであるということ

 この3つの条件を満たすストリートファイター5ならば、まだデータの収集と、読み合いのシンプルさから条件を減らしてみることができるのではないかと考えていたのです。

 そして最も重要な要素はなんだったのか今振り返って考えてみると、実は2番目の「オンラインで行われた対戦が全てリプレイとして残る」でした。理由はコロナ禍が関わっています。
 一昨年の2021年は2023年現在とは比較にならないほどコロナに対する世間の意識は高く厳しいものがありました。そうなると選手たちもオフ環境での練習を行うことが難しくなり、結果としてオンラインでの練習が余儀なくされる。つまり全ての対策がオンライン上で行われるため、集計したい材料は必ずリプレイに上がってくるということになります。

 当時プロゲーマーの大勢が「リプレイ上げる試合を選ばせてほしい」とか「リプレイ見れちゃうのがな〜」と言う愚痴をこぼしている姿をものすごく見ましたが、私は内心「いやいやいやいやリプレイ無くすなんてさすがになんだよね」と思いながら彼らの動向をチェックしていたわけです。
 もちろんリプレイをチェックする上で必ず発生する「サブ垢問題」についても、入念な調査を行い洗い出しました。もちろん確証を得られていないアカウントもあるので、本当に正解だったのか答え合わせ出来たらなーとも思いますね。

4.ついにオファー提示

 彼ならばと思い意を決して、不躾ながらもガチくんにいきなりDMを送り協力させて欲しいと願い出ました。
 ”ある条件”だけは絶対に飲んでもらいたいということも併せて。

 先述の通り私はデータアナリストを新しいeスポーツ界の職業として確立させたいということを言いました。その上で絶対に必要なものである”金銭での報酬”をまず約束してもらいました。というのも、この取り組みがいかに過酷なものになるかは始まる前から分かっていたからです。
 そしてその部分についてはガチくんも快く承諾をしてくれました、彼もまた新しいビジネスの形として成立させるべきであると考えてくれている1人だったのです。

 やるとは決まったものの私自身としても今回の取り組みは初めてのことで、どういったデータをどれだけ用意すべきなのかというところは手探りでした。

 まず一度私自身が思う必要なデータをまとめたパイロット版を作成すべきだと思い、かつてデータの収集にチャレンジしたことがあるプレイヤーに質問してみることにしました。その人はみなさんご存知のふ〜ど選手です。かつてふ〜ど選手は自身の呼びかけでCPTにまつわるデータ収集にチャレンジしたことがあるという噂を耳にして、もちろん面と向かって話を聞いたわけではなく、深夜帯の深ーい時間に配信をされている時にコメントで「どういったデータを集めてみたのか」と「なぜ継続することができなかったのか」などいろいろ質問をさせてもらいました。
 幸い時間帯も功を奏したのか、丁寧に当時の話を教えてくれ、自分の頭になかった視点のデータの方向性や考え方を教えてもらえました。
 そして「なぜ継続できなかったのか」について、「データを集積する人が過酷すぎてダウンしてしまった」という話を聞き、顔が引き攣りそうになったのを覚えています。

 当初私の考えていた項目に、ふ〜ど選手からのエッセンスを少し加えたパイロット版のデータシートが完成し、ガチくんへ提出しました。
 その時の内容を簡単に説明すると、「立ち回りで振った技や振られた技の数やヒット確認の成功数」や「起き攻めの択の攻め・守りの両部分の細分化と傾向」を中心とし、「投げ抜けが起きたあとの行動」など、咄嗟の反応でボタンの押しやすい瞬間の選択肢なども算出し、試合時間や残り体力などの状況も記したものでした。

 このデータ見たときのガチくんの楽しそうなリアクションは今でも忘れられないですね。
 
 この時、データアナリストとしての活動が正式に決定しました。2021年の8月の頭頃のことだったと思います。この時の目標は目前に迫るEVOオンラインアジアでの上位入賞、そのために対戦相手となる人のデータ収集でした。
 そしてこの時に決意をしたことは「このデータを見た人がドン引きするようなものを作ろう」というもの、しかしその決意は早速自らに降りかかってくるのでした。

 と、あまりに長くなってしまうのでpart1はここまでです。
 part2では実際にスタートしてみてわかったことや最初の“ボス“の登場などについて書こうと思います。
 面白かったらいいんだけど。

2/6追記
パート2はこちら
https://note.com/ppsnuwa/n/n62646ec0b3f2


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