ご唱和ください

遠い先生に小説の原稿を送るのを忘れていた。
卒業式の日ですら、僕をみるなり
「なんか書いたの」とか言っていたので
はやく送りたいと思っているのに
そういうことほど忘れてしまう。

孝太郎さんの歌声を聞きに、先週は香川に戻っていた。
在学中から楽しみにしていたコンサートで、
そのついでに新しく作ったフリーペーパーも研究室に入れておくつもりだった。
でも雨がすごくて家を飛び出したから、たくさん忘れ物をしてしまって、
フリーペーパーもそうした忘れ物のひとつだった。

香川での夜、地元の丸亀でミモカでの曽我大穂のライブの後、ちょっと散歩した。
マルナカまで、ゴルフ場まで、まだ空いているトイザらスもちょっと見た。
トラックと軽自動車ばかりが走る道路を見ていると、
遠くから青い山脈が聞こえた気がした。
歯医者さんみたいなオルゴールの音だった。
暗い丸亀は止まったままだったけど、
かさぶたのしたの傷みたいに、
なにかねばねばして重いエネルギーが
まだ町を活かしていた。

小説を書いていると、人生が長く感じる。
一言で済むこと、あいまいに言えることのすき間にも
ごはんと睡眠があって、家と服があるから。

明石に引っ越して間もなく、転入届を出しに行った時、
ビルの中にあった本屋で黄色い家を買った。
一昨日からやっと読み始めて、今240ページくらい。
過ぎ去った余韻に、生きる複雑さを感じる作品だと思う。
息つく暇のない人の生活は本当に感じなんだと思うし、
だから人生はあっという間だと感じるんだろうけど、
果たしてそれはどうかなとも思う。

突然、自作の話をするけど
涼子さんの感じる置いてきぼり感はそうした生活と
彼女の生き方のギャップによるものなのだと思う。
彼女には息つく暇しかない。
ひとりぼっちでプールの見学をしているようなもので、
退屈な時間でいろんなことを考えている。
久しぶりの友達と顔を合わせると、
彼女は自分だけ取り残されながら
気持ちだけ老けた気分になるのはそのせい。

あれ、なにを考えてたっけ。

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