『滅びの前のシャングリラ』を読んで

凪良ゆうである。
本屋大賞を取った前作がとても面白くて気になっていたところ、職場の同僚に借りて読んだ。

今回もまた面白かった。
前作でもほんのりと感じていた、「通底する幸福の気配」のようなものが、また本作にもあった。

あらすじだけ聞けば、終末観溢れる世界だ。
隕石衝突により、人類滅亡がほぼ確定した後の世界。
絶望寸前の生活を送っていた五人の主人公たちが、人生の終わりを宣告され、それぞれに「幸せ」を見出す話だ。

まだ2作品しか読んでいないが、この作者の軽快さは読んでいて気持ちがいい。
びっくりするようなどんでん返しがあるわけでもなく、ぶっ飛んだキャラクター設定があるわけでもなく、とてもシンプルな作りなのに、気がつくと夢中で読んでしまう。

本作で言えば、ヤクザはいかにもヤクザらしいキャラで、いじめられっ子はいかにもいじめられっ子なキャラで、美少女はいかにも美少女。

でも、だからこそ描写が少なくても簡単に映像として想像できる。定型キャラを、そのまま持ってくることで逆に無駄な描写を削っているのでは、と言いたくなるほどだ。その上物語の展開としても、びっくりするようなことはほとんど起きないのだから、一体何で読まされているのだろう? と不思議になる。

キャラが普遍的でストーリー構造がシンプルで、あと小説を構成する要素はなんだ。描写力か。描写力も、例えばハッとするような比喩だとか、これはシビれるねえと言った言い回しも、そこまでないのだけど、書く/書かないの取捨選択はとてもうまいかもしれない。その結果、軽快だけど軽薄にはならず、シンプルだけど雑ではない。

過不足なくきっちりと描かれていることと、エンターテインメントとしてきっちり割り切っている感じが潔いのかも。前作も今作も、書きようによっては結構重いテーマになると思うのだが、自分にこんなことが書けるんだろうか。もっと調査をしなければリアリティが出ないのではないか。色々なことに配慮が必要なのではないだろうか。みたいな物怖じを全く感じない。フィクションとして、思いきりキャラとして描ききっている感じがいいのかもしれない。

四の五の言わず、とにかく面白く読ませる、という覚悟があっぱれだと思った。

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