スーパーかあちゃんへの道11
さーてと、土曜日だしまた作り置きして来週に備えるか。娘が寝ている間に買い物メモを作って…なんてことをしていると、娘、発熱していた。
2日ほど前から鼻水を大量に垂れ流しており、こはいかに。と思っていたところついに熱が出てしまった。
土曜日で、かかりつけの小児科が午後休診だったので初めてのところへ出かけて行く。
コロナの対策なのだろう、駐車場についたらまずは電話せよ、との指示で、電話をかけて車で待つ。1歳の娘にとって、後部座席はあまりに狭い遊び場で、しかもそのひと席分は「あなたの安全を守ります」と言わんばかりの堂々たるチャイルドシートが鎮座。後部座席のうち、残りの半分を、母と娘で分け合い着席している有様で、なおのこと狭い。
30年もののレーシングカーのおもちゃ(私の弟が遊んでいたもの)を解体して遊び、チャイルドシートに乗ったり降りたり立ったり跳ねたりして空間を縦横無尽に使い、車に常設しているティッシュとおしりふきを交互に引っ張り出し車内を白いひらひらしたもので充満させるは、38度4分の娘。熱があっても元気なのは安心の印だが、病人らしく大人しくしていてくれ給へよ、という言葉が喉元まででかかる。だましだまし遊んでいるうちに電話が来て、無事に診察を終える。
風邪のひき始めとのこと。シロップのお薬を2種類処方されて、今度は薬局の人がそれを持ってくるから、また車で待機せよと言う。この狭いところでまた。
今度は娘を抱っこしたまま太ももあたりに乗せて、私の着用している、Tシャツの柄で遊ぶ。今日のTシャツには虎がDJをしているイラストがプリントされており、娘はそのゴキゲンな虎くんが結構気に入っているのだった。
目を指差し、「おめめだよ」
鼻を指差し、「おはなだね」
「帽子だよ」「てってだよ」「音符だよ」
なんていい調子で、私は自分の着ている虎くんの、いろんなパーツを指して教えてやる。
そうしていると、娘の視線がいつの間にか窓の外に釘付けになっていて、おかしいなと思いその先を追ってみると、そこにはメガネをかけた痩身のおじさんが途方にくれた様子で立っているのだった。
薬を持って来てくれた薬剤師の人である。ノックでもしてくれればいいものを。
とても謙虚そうな、腰の低いおじさんで、お取り込み中すみません、みたいな感じで薬を渡してくる。
お取り込みも何も、と私は首を傾げたが、その時ふと思い至る。
私は虎くんのパーツを指差して教えていたのだが、はたからみれば、自分の体をつっついて車内でニヤニヤし、挙句その行為に夢中で外の様子に全然気づかない人だったんではないか。
私はつい首をグインと下げて、虎くんの目や耳が、私の体の、どの部分にあるのか確認してしまう。や、アウトすぎる。
急に恥ずかしくなって、うちの子供この虎くんが好きで、と説明したい衝動が抑え難く突きあがってくるが、それこそ意識しすぎっていうか、逆に恥ずかしくない?!と思い、平然とした顔で、スポイトで2.5mlを飲ませて云々カンヌンと言う説明を聴く(ほとんど頭に入っていない)。
ただ薬局に戻るだけなのにまだ腰を低くして去って行くおじさんを見送り、そそくさと帰ってきた。
家の駐車場に着き、えらい思いをした、と荷物を下ろそうとすると問診票を書くときに借りたボールペンがそこにはあった。うっかり返し忘れてしまったらしい。
これからものすごい勢いで忘却の河に流してしまうはずだったこの恥ずかしいひとときに、ボールペンが突き立てられる思いだった。
この恥ずかしいボールペンをどうにかしなければ、しばらくこのことは忘れられそうになさそうだ。でも今はチャイルドシートに羽交い締めにされ、抵抗の声明を繰り返す娘をまず。
その場しのぎで、ボールペンをダッシュボードに放り込んで車を降りた。
きっと忘れた頃に発見され、また私を辱めるんであろう。
スーパーかあちゃんへの道はあまりに遠い。
応援いただいたら、テンション上がります。嬉しくて、ひとしきり小躍りした後に気合い入れて書きます!