マルチスケール解析


マルチスケール解析とは

マルチスケール解析とは、様々なスケールのモデルを組み合わせてシミュレーションを行う方法です。この言葉が生まれた背景には、高速化と大規模化だけではシミュレーションで取り扱える問題には限界があったことがあります。



マルチスケール解析の種類

大きく分けて次の2種があります。

【グローバル・ローカル解析】
構造レベルの全体構造と詳細構造を組み合わせた解析です。

【マクロ・ミクロ解析】
材料レベルでの微視構造と、微視構造を簡略化して均質体として取り扱った解析を組み合わせた解析です。

またマクロとミクロの中間的な解析をメゾスケール解析と呼ぶこともあります。 一般に、異なるスケールの解析同士は互いに影響を及ぼしあうものですが、従来はその解析手法の限界によりこれらを独立に行うことが多くありました。

しかし近年、計算力学の手法の高度化、計算機能力の向上に伴い異なるスケールの解析を連成させて行うことが可能になりました。




マルチスケール解析の例1

マルチスケール解析が使われる分野の一つに材料設計があります。物質の性質をミクロな構造から理解し予測することが目的です。しかし材料の特性をミクロから予測することは簡単ではありません。ミクロ〜マクロ間には様々なレベルの問題があります。


例えば高分子の材料特性は、次に挙げるミクロ〜マクロ間の様々な構造に依存します。
・タクティシティ(立体規則性)
・モノマー配列
・分子量・分子量分布
・モルフォロジー(形態)
・界面


高分子に限らず金属、セラミック、半導体など多くの材料において同様で、問題はミクロなスケールだけでなく界面のスケール、組織構造レベルのスケールなど、多くの階層に存在しています。

したがって材料開発を支援するCAE(工学支援システム)を作るためには、ミクロ<メソ<マクロにわたる様々なスケールの解析、すなわちマルチスケールの解析が不可欠です。



マルチスケール解析の例2

他にも様々な分野で活用されています。例えば、地球環境のシミュレーションにおいては、海面からの水の蒸発、雲の生成、雨などのミクロなスケールの問題、風雨や気温変化などの局地的なスケールの問題、さらに大気循環や気候変動など地球規模のスケールの問題を連成して解く必要があります。

他にもジェットエンジンの設計システムや、半導体デバイスシミュレータ、乱流解析があります。

乱流の数値シミュレーション手法である
RANS (Raynolds averaged numerical simulation)やLES(large eddy simulation) では、乱流というミクロな現象を平均化することによりマクロな解析を可能にしたマルチスケール解法です。





マルチスケール解析の解釈

マルチスケール解析には2つの解釈があります。

狭義の意味では、スケールの異なるシミュレータを通信させながら、同時に動かすシミュレーションを指します。例えば、破壊のモデルにおいて、亀裂周辺の応力分布を有限要素法で計算しながら、亀裂先端部分を分子動力学的に扱い、両者を併用することにより、亀裂の進展をシミュレーションします。

対して広義の意味では、スケールの異なるシミュレータを連携させることだけを意味し、シミュレータを同時に動かすかどうかは問題にしません。例えば上述の破壊の例では、分子動力学計算によりあらかじめ亀裂の進展条件を求めておき、これを用いて連続体レベルのシミュレーションを行います。





マルチスケール解析の課題

多くの階層にまたがるマルチスケール解析には多くの課題があります。

【1.スケールの異なるシミュレータ間で情報共有する方法】
マルチスケール解析用のシミュレータは巨大です。多くのシミュレータが複雑に絡み合っています。その際、どのような内容をやり取りし、やり取りするデータの構造をどうするか、シミュレータが進化してデータ構造の変更が必要になったらどう対応するか、これは大きなプログラム開発における開発体制の問題とも言えます。


【2.データ変換の正しさを保障する方法】
階層を越えてデータのやり取りをするためには、ある階層のシミュレータの出力するデータを解釈して、別の階層のシミュレータに渡す必要があります。

この作業は、単純なデータ変換ではなく、ある種の物理的理論に基づいたものです。データ変換を正しく行うには一つのシミュレータの作成作業に匹敵する物理的な洞察が必要です。マルチスケール解析の本質に関わる問題です。


【3.解析結果の正しさを検証する方法】
個々のシミュレータの検証がされたとしても、またシミュレータ間のデータの変換が検証されたとしても、システム全体の正しさを検証するにはどうするべきか、これは解析システム全般に言える問題です。特にマルチスケールの問題は複雑で、現実で検証するにも一苦労です。





参考文献

土井正男、近未来のミクロCAE:マルチスケールモデリングの課題と未来
Seikei-Kakou、Vol.18、No.9、2006、

鈴木克幸、マルチスケール解析の動向、日本造船学会誌、Vol843、(1999)












この記事が参加している募集

#最近の学び

181,387件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?