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少し専門的な流体力学の話2

今回は流体解析に関するお話です。

流体解析とは、空気や水などの流体の流れをシミュレーションによって解析する技術です。

空調機による部屋の気流解析や天気予報の気圧解析、他にも建築、車両設計、石油工学、外科学、気象学など様々な業界で幅広く利用されています。

最近でも咳の飛沫の飛散シミュレーションで使われています。


流体解析とは

コンピュータを用いて計算する流体解析を一般にCFD「Computational Fluid Dynamics」といいます。数値流体力学と呼びます。

流体解析というと、このCFDを指すことがほとんどです。



流体解析の概要

CFDでは空間を離散的に扱うため、解析領域を複数の小さな空間に分割します。この分割された個々の空間をセル(要素)、これらの集合をメッシュ(格子)といいます。

そしてコンピュータによる反復計算からメッシュごとの流れ方程式の近似解を求めます。この方程式を解くことで、隣り合う空間どうしの関係が得られメッシュごとの圧力・流速・密度を求めることができます。



流体解析の目的

次の目的があります。
・試作回数の低減
・複雑な現象の視覚化と理解
・得られた知見の新規製品開発への活用

流体解析で得られる情報は実現象そのものであるため実験を行わなくても質の高いデータが得られます。試作品を作らず様々な条件における検討が行え、時間とコストの大幅な削減が可能です。

また流体力学では複雑な現象をよく扱うため、CFDによる流れ現象の視覚化は、直感的な理解に繋がり、現象の本質を掴む手助けとなります。



流体解析の特徴

別の解析方法と比較することで、流体解析の特徴を明らかにしたいと思います。

ここでは流体と対をなすものとして固体を解析対象とした構造解析を引き合いに比較します。
(構造解析とは、固体(構造物)に荷重が作用した時にどう変形し、どこが壊れるか解析する手法です)


構造解析と流体解析の違いについて、解析対象が異なることは勿論のこと、次のようなものがあります。
 ・現象の記述方法
 ・構成則
 ・物性
 ・現象の複雑さ


その中でも「せん断力を加えた場合の反応」の違いは重要です。固体に応力が加わると、力が釣り合うまでせん断変形し、その後は静止状態になります。一方、流体ではどこまでも変形を続け、せん断応力が無くなってはじめて静止します。

固体の変形量は非常に小さく、変形量で現象を記述する方法が適当ですが、流体の場合は際限なく変形するため、変形量による現象の記述が困難です。

そのため流体の変形を記述する際は変形量ではなく「変形速度すなわち流速」で現象を記述します。


さらに具体的には、流体に発生する応力は次の2つで構成されます。
・静圧
・粘性応力

静圧は静止した流体に働く応力です。重力を無視した場合、静止した固体に応力は発生しませんが、流体の場合は流れが無くても応力が発生します。

一方、粘性応力は流体が運動している時に発生する応力で、流れを抑制する方向に働き、流体の運動エネルギーを減少させます。

運動エネルギーの減少分は最終的に熱エネルギーへと変わります。固体の振動が減衰する現象と類似しています。






流体解析の手順

流体解析の抑えるべきポイントについて簡単に説明します。

手順1-モデル作成

まずは流体周りの構造物を3Dまたは2Dモデルで作成します。


※このとき構造物の形状が複雑な場合、流体の形状も複雑となります。その結果、メッシュ品質の低下やモデル規模の増大(節点、要素数の増大)により計算時間が増加します。

そのため形状作成においては、形状の簡略化が重要です。例えば流れの影響が無視できる微小な突起、段差、隙間は削除すべきです。


※また対称性も重要です。
構造解析では、形状・物性・荷重条件が対称であればモデルを大幅に簡略化できます。一方、流体解析では形状・物性・境界条件すべてが対称な場合でも簡略化できない場合があります。

例) 円柱周りの流れ
レイノルズ数の値によっては円柱の下流側に非対称な流れが発生します。これは流れの非線形性によるもので、対称モデルにしてしまうと現実とは異なる解析結果になるため、簡略化せず全体モデルで行わなければなりません。



手順2-メッシュの設定

前工程で作成した構造物のモデルを細かく分割します。

※このとき物理量の変化が大きい領域でメッシュを細かくします。特に壁面近傍では注意が必要です。

この領域では、流体が流れることにより境界層と呼ばれる物理量の変化が大きい領域が形成されます。

図は境界層の模式図で、壁面(速度=0)から内部領域に向かって速度、温度が大きく変化します。特に物体の抗力や揚力、熱伝達特性などを評価する場合に、メッシュサイズが精度を大きく左右します。

速度境界層(左)と温度境界層(右)




※メッシュ品質も重要です。
大きく歪んだ形状は精度だけでなく計算結果の収束性悪化を招きます。流体解析では他の解析よりもメッシュ品質が大きく影響します。特に注意すべき形状として、微小面、微小辺、過度に鋭角な面があります。





手順3-解析条件の設定

上記の流体領域メッシュに対して解析設定を行います。主に以下の設定があります。
* 定常/非定常
* 物性
* 浮力
* 伝熱
* 乱流
* 移動境界
* 混相流

※選択した物理モデルが不適切であれば誤差が大きくなり実現象と異なる結果となります。


例) 強制対流と自然対流で浮力の有無が異なります。更に自然対流の場合、密度の温度依存性を考慮する必要もあります。




手順4-境界条件の設定

流体解析の境界条件は次のものがあります。
・流入条件
・流出条件
・開放条件
・壁条件
・周期境界


※構造解析の場合は全ての面に対し荷重や拘束を設定する必要はありませんが、流体領域では定義する必要があります。

※流体解析では逆流の考慮が必要です。形状と境界条件の組み合わせによっては、流入面や流出面において逆流が発生します。その結果、計算が不安定になると共に、本来の現象と異なる結果になる可能性が高いです。対策としては逆流を許可する境界条件に変更したり(流出条件⇒開放条件)、流路を延長して逆流領域が流入面や流出面を横切らないようにする、といった方法があります。





手順5-数値計算

既に述べたように構造物の形状が複雑な場合、計算時間が増加します。またメッシュの品質が悪いと計算精度だけでなく計算収束性が悪化をします。

収束しない時の対処法としては
・より適切な物理モデルや境界条件への変更
・より緩い条件から段階的に計算を行う
などがあります。



あとがき

流体解析では、実現象を完全再現しているわけではありません。何らかの限定条件のもと一部分を再現してます。そのため必ず誤差が発生します。

だからといって解析が無意味ではありません。目的によっては、そのままで十分な知見が得られることもあります。

重要なことは「何を対象に解析するか」と「解析にかけられるコスト」をはっきりさせておくことです。知りたい対象が明確であればあるほど、実現象と近づけることが容易になります。



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