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Silver story # 45

うっすらだが全体がオレンジのフィルターがかかったような画像の左上に円の4分の1のようなものが写っていたのだった。どう見ても目玉にしか見えず、私に飛びかかってきたあの時の目玉だと直感でわかった。そして、やはり存在したのだと絶対的確信が湧いてきた。

どう説明していいかわからないが感覚的なものとしか言いようがない。あの時の覇気をその一枚から感じたのだ。
もうこれは、1人で収めることができず、お母様とユキさんに診てもらおうと、二人を待っていた。サリナちゃんが私の顔と、カメラを覗きこんでは、にっこりと笑っていたので、たぶん大丈夫と思い込むことにした。

お母様から、すべてを話すと悪いことが起きると言われたから、話さずにこれだけを見てもらおうと思った。
足の痺れが強くなっていくように感じたのは、身体中の血液の流れが勢いを増していったからだろう。
もし拒まれたら、その時はもうこの画像と昨日の体験は、誰にも話さずに墓場までもって行くことにしようと心に決めた。

スパイシーな香りと楽しげな会話と一緒に二人がこちらにやって来た。
私は背筋を伸ばして二人が席に着くのを待っていた。
「沙耶。おはようございます。よく眠れましたか?」
「サヤ、オハヨウゴザイマス。
アシ、ドウシマシタ?マタイタイ?」

「おはようございます。はい。また足が、前みたいに痛み出しました。痺れている感じです。不思議です。昨日は、あんなに歩いていたのに、どうして今日は痛くなったのでしょうか。」

「ドウシテデスカネ。」

「あ、二人に見てもらいたいのです。だめですか?お母様。」

私はあの画面を開いてテーブルの下でいつでも出せるように構えていた。

「沙耶、話さないでください。
…………………出してください。」

私は、静かにカメラをテーブルの上に置いた。

お母様は、静かにカメラを手にして胸の前に持って行き目を閉じて何かを呟き出した。
たぶんこちらの言葉でお祈りのような言葉だろう。昨夜村長さんが言っていたのと同じような響きだったが、柔らかな優しいメロディーのように聞こえた。

お母様が目を開けて、カメラに目を落としてしばらくしてから、ゆっくりと私の方を向いて言った。

「沙耶。これはもう誰にも語ってはいけません。できれば消してください。あなたの未来に影響しますから、あなたの幸せのためにそうしてください。」

真剣な眼差しで私を見てお母様は、諭すように私に話してきたので、私は頷くことしかできず、カメラを受け取ってすぐに例の写真の消去ボタンを押した。
いまだかつて消去ボタンがこんなに重く感じたことはなかったし、これからもずっとこんな思いはしないんじゃないかなと頭の中で呟きながらゆっくりとボタンを押した。

その作業を見届けたお母様は、いつもの優しい笑顔になると、
「さあ。食べましょう。沙耶、大丈夫ですか?やはり今日、町の病院に行きましょう。たくさん食べて早く治るようにしましょう。」と言ってブーブル・アヤムという鶏肉のスープで作るお粥や、カンクン(空芯菜)の炒めものなどを取り分けてくれた。

優しい味のブーブル・アヤムを口にするとさっきまでの沈んだ気持ちがだんだんと消えていくように体の中が暖かくなってしぼんでいた風船がふっくらと膨らんでいくような感覚になってきた。バリの料理だからか、お母様の料理だからかとにかく、あの写真のことは頭からなくなっていっていた。


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