6/9グラビアアイドル

「私、(乳が)大きくなったら、グラビアアイドルになるの」
そう娘が宣言した日から、妻との話し合いにより、食卓のラインナップは大きく変わった。世にも珍しく、バランスの偏った食事を心がけた。
バストアップの要、豆腐はもうどんな色だったかも思い出せない。イソフラボン、動物性タンパク質、ミネラル、ビタミンB6、ボロン。避けて避けてカップ麺やファストフードで済ませる日も増えた。小学生だった娘は「私マクドナルド大好き」と喜んだ。その笑顔を見るのが辛かった。ゾウの花子に毒入りの餌をあげた飼育員もこんな気持ちだったのかな。花子は食べなかったけど。

 別にグラビアアイドルになって欲しくなかったわけじゃない。本当に。娘の夢はなんだって応援したい。嘘じゃない。マジで。

 中学生になり、娘のお小遣いはソイプロテイン代に消えた。
そんな娘に妻は「もう少し若者らしいものを食べなさい」と娘のプロテインを庭に蒔いた。
「なにするの」
娘は泣きながら必死にプロテインをかき集めた。ああ、甲子園の土まだどっかにあったかな。

「僕大きくなったら、野球選手になる」
別に身長が低いとなれないわけじゃなかったけど、クラスでも前から2番目だった俺は牛乳飲んで、カミカミビーンズいっぱいお代わりして、鉄棒にぶら下がって天日干しされて、壁当てやって。でも身長は伸びなくて、単純に運動神経が悪くて、でも努力して、なんとか甲子園の土は手に入れた。もういいやって。身長が高い方がチャンスは多い。あらゆる面において。

 妻は女優を志していたが、パイオツばりデカかったからグラビアの仕事もやらされて、この世の闇を全部見たらしい。今だけ我慢すれば、今だけと、夢のためにと、今から抜け出せる日は結局来なかった。
 減胸手術をして、実家に帰って、寿司を食うだけの毎日を過ごして1年、また東京に帰ってきた。
「マグロは値が張るからあかんのやない。乳デカなるからあかんのや。サーモンもあかん、白身も赤身も貝もなんも食えへんかった」

 努力すれば必ず報われるわけじゃない。でもビッくらポン!だって皿入れなきゃ当たらない。4枚じゃダメなんだ。好きなもの食べた皿だって苦手なもの食べた皿だっておんなじ1枚。嫌いなものなんか食べなくていいから、好きな皿たくさん入れて、どうせなら、もう1皿食べようよ。そしたら5枚になる。
「嫌いなもの食べたお皿の方が当たった時の喜びは大きいだろ」なんてそんな価値観の奴がいたらここに連れてこい。俺が蹴るから。
そうよ。少しずつ近づいている。カプセルが少しずつ減っていくのが目に見える。当たる、きっと次は。パチンコの確率とは違う、祭りのくじ引きとは違う、くら寿司は大丈夫。
ビッくらポン!の才能がある奴っていうのは大食いの奴か運がいい奴なんだよ。徳を積んで胃袋広げようぜ。
長い1日を過ごそう。
君がそばにいなくても生活は続くけど、寿司が不味くなる。半額の寿司食べるぐらいなら全額のコロッケを食べよう。
早食いはロックだから。
よっしゃー。

よっしゃークーポン

櫻井音乃1st写真集「Fanfare」

テーマ提供者:萬奇々登坂洋平

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