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おいしいを知るほどに拡張する感覚を、ことばにできたのなら

昔から食べることは大好きでした。

そして、この数年は特に、おいしいにたくさん触れてきました。

200円のコッペパンサンドから、コロナ禍の経済対策で得た10万円をすべて投げ打って食べた三つ星の料亭。街中の名店から、地域に根付くラーメン屋まで。

人生一の宇治金時
氷上の焼き伊勢海老のお造り
ノスタルジックなパンケーキ
訳のわからないコスパ、埼玉秘境の焼きトン
ドンブラボーのピザ。いますぐにでも食べたい。



食べた、よく食べた。
それでも足りないし、これからも食べ続けたい。

人生で一つでも多くの、美味しいに出会えたらと思っているのです。(がんばって働かねば)

僕は鼻がいい方でも(むしろ悪い)、この皿に入っているものがわかるほどすぐれた舌でもありません。

それでも、口にしたものはできるだけ多くの情報を感じ取れるように、言葉にすることを意識しています。

それは、「すべて集中して食べなさい」と言われたことがあるからです。

僕の仕事は、誰もがみんな毎日通る″食べる″ということを通して、気持ちよさや楽しさをつくること、です。

場合によっては、あえて違和感をつくったりもする。

その誰もが通る感覚を、すこしでも解像度を上げることが、じぶんの人生のなかでとても、とてつもなく、大事なものになった20代後半でした。

その一つにあるのが、sioのスープ。

sioの透明なスープ、味わいも透き通る
全集中して得た敏感な感覚にスペシャリテが刺さる

代々木上原にある、僕たちの旗艦店sioはあえて薄い味わいのスープを出します。
それは、スペシャリテの馬肉のタルタルを際立たせるという一番バッターの役割を担います。

あえて単体では少し物足りなくする、という感覚に当時の僕はとてつもなく感動したのです。

もう四年前になります。
この7月でsioに入って丸4年。

会社ができてからは5年が経ち、sioにはグループ店が増えました。

今では9店舗に。

新しいお店ができればできるほどに僕の美味しいの物差しは拡張されていきました。

でも、原点にある感動は変わらない。

最初の感動との出会いは、長い人生の基盤を作ります。
いや、長いようでまちがいなく短い。

おいしいを超えた感動をつくるために、まずは″知る″ことが重要です。

そして、知るだけではなく、言葉にすることをセットにしなければいけないと考えています。

僕らは料理人。
料理を通して、しあわせを作りたいと考えています。

どれだけインプットしても、アウトプットができなければ、極端にいえば意味がない。
それは自分の中にしか留まらず、価値になり得ないのではないでしょうか。

この数年で得た感覚は数知れません。
そして、知れば知るほどに、奥が深い美味しいの感覚。

この集合知が生む、新しい美味しいを形にできたらどれほど楽しいか、妄想が止まりません。

これまで出会ったたくさんの美味しいと、これから出会うたくさんの美味しいに期待しながら、一つずつことばにしていきたいと思います。

そして。
考えれば考えるほど、1日に2度3度と幸せな気持ちを作り出せる食の可能性を感じて仕方ないです。

この″しんどいけれどそれを圧倒的に上回る尊い″仕事をもっともっと楽しんでいきたいと強く思います。

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