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【#ほろ酔い文学】酒の切れ目が縁の切れ目

大学2年生の7月。

僕は友人たちと合コンに向かっていた。

大学に入学してから2回目の合コンだ。

誘ってくれた友人には申し訳ないけど、正直、合コンは気が向かない。

酒は好きだ。けど、初対面の人たちに気を遣いながら飲むのがどうも苦手だ。

1回目の合コンは4対4だったが、女性4人のうち3人は「体調が悪いのでお酒は飲まない」と言い出した。

当然、盛り上がるはずもなく、連絡先の交換すらすることなく解散となった。

それ以来、合コンとは縁を切ったつもりだったけど…。

2ヶ月前に彼女と別れた僕に、新たな出会いを…と飲み会好きなおせっかいな友人に誘われたのだ。

積極的に参加したいわけじゃないけど、特に断る理由もなかった。

今夜の会場は、参加する女性側の誰かの部屋だそうだ。

そして、現時点で僕が知っているのは、誘ってくれた友人1人。

つまり、6人は初対面。新たな出会いへの期待よりも、気を遣うことのめんどくささのほうが強い…。


そんな僕の気持ちとは関係なく、合コンは定刻に始まる。

僕の乾杯は、いつもビール。

そのまま最後までビールの時もあるし、雰囲気や気分によっては途中から日本酒に変えることもある。

1人ひとりの自己紹介から始まり、それぞれ好きな酒を飲みながら会話が始まる。

店のようにテーブルと椅子ではないので、好きに移動できることもよかった。

冷蔵庫に飲み物を取りに行ったとき、別の女の子と話し始めることもあり、

「合コンってこんなに楽しかったんだ!」

と感じていた。


日付が変わるくらいまでは…。


最初から感じていたんだけど、参加者の飲むペースが早い。

さすがに一気飲みをするヤツはいないけど、力尽きた人から脱落していく『バトルロワイヤル』状態だ。

飲み潰れて、その場で眠る人はまだ良い。

日付が変わる頃、1人の男子が

「外の風に当たってくる」

と言い、外に出たまま帰らなくなった。

すでに30分以上経過している。

どこかで倒れているのか? それとも、この部屋がわからなくなっているのか?

嫌な想像しかできない…。

やはり、起きてる人で探しに行こう。

そう話していたら、彼は帰ってきた。

「お巡りさんに、職務質問されておりました!」

帰ってきた安堵感と、彼の武勇伝のおかげで、再び盛り上がる宴。

でも、さすがに生き残りが減ってきた。


皆が力尽きて眠る中、生き残ったのは僕とTさんだった。


Tさんが、どれだけのお酒を飲んでいたのかはわからない。

けど、お互い「ほろ酔い」を少し超えるくらいの状態だったと思う。

「初対面の人と酒を飲むのは気を遣うから」

そんな僕の負の感情を消すには、丁度よい状態だった。

Tさんはショートカットがよく似合う、美人というよりはかわいい感じ。

年が同じだったこともあり、学校のことや好きなことなどいろんな話をした。

見た目は幼い印象はないけど、『トムとジェリー』が好きと言われ、そのギャップに驚いた。


夜が明ける頃、「最後まで生き残ったね」と笑い、「また会おう」と約束した。


4対4の合コンで、他の参加者は酔いつぶれて、僕とTさんだけが最後まで残った。

お互い酒の力を借りたとは言え、楽しく話ができた。

そして、連絡先を交換して、次に合う約束もした。

こんな展開になれば、交際が始まる以外に考えられないような気がする。

「付き合ったきっかけは?」と聞かれれば、

「合コンで、最後まで飲み潰れることなく、朝まで2人で話してたから」

と笑って話すストーリーまで想像できる。


結果的に、Tさんと交際するには至らなかった。

約束通り2人で何回か会った。

当時、流行っていた映画『マトリックス』も観に行った。

僕の気持ちとしては、Tさんのことをものすごく好きで付き合いたい! とまでは思っていなかった。

「告白してフラレて話ができなくなるよりは、今のままが良い」

と考えてしまう、僕の悪いクセが出たのか?

いや、今回は違うような気がする。

2ヶ月前に別れた彼女のことが忘れられないのか?

う〜ん、それも違うような気がする…。

たぶん、そのときは「彼女」ではなく、

「気楽に会って話せる女友達」を求めていたのだと思う。

Tさんが、僕のことをどう思っていたのかはわからない。

けれど、当時の僕は「今は彼女は欲しくない。気楽に話せる女友達が欲しいんだ」なんて、言える度胸はまったくなかった。

もし万が一、Tさんが僕に好意を抱いており、交際を考えていたとしたら。

何度も会っているのに、まったく進展しない状況にイライラしていたのかもしれない。

僕と会っている時、Tさんは

「私は福岡に大切な仲間がいる。今は離れているけど、また一緒に過ごしたい気持ちもまだある」

と何度か話してくれた。

もし、僕がTさんと付き合いたいと思っていれば、当然「その仲間ってどんな人?」というように聞いていただろう。

けど、それはしなかった。

もし聞いたとしても、僕のTさんへの気持ちが変わるわけではない。

いま思えば、そんな考えがTさんへの態度に出ていたのかもしれないし、

「あなただけじゃないんですけど」

という最後通牒とも受け取れる発言を聞きながらも、関係を進展させようとしない僕に愛想が尽きようとしていたのかもしれない。


Tさんと出会ったのが7月。

その年の秋に

「もう会わない。やっぱり私は福岡の仲間が忘れられない」

と電話で言われ、Tさんとの関係は終わった。


ガッカリでもなく、予想通りでもなく…

Tさんの申し出を淡々と受け入れた僕は、いつも通りの講義とサークル、バイトの生活に戻った。


「恋が始まるには、3つの『ing』が必要と言われているんですよ」と誰かが言っていた。

1つ目は、『フィーリング』(お互いの価値観が近くて、一緒にいて心地よいこと)

2つ目は、『タイミング』(お互いが交際相手がいない、もしくはそれに近い状態であること)

最後の3つ目は、『ハプニング』(お互いの距離が急接近するような予期せぬ出来事)

僕とTさんをこの理論に当てはめて振り返ると、フィーリングとハプニングには恵まれたが、僕のタイミングがずれていたということだろう。


もし、あの時に戻れるとしたら…

きちんとTさんに伝えたい。

「今は彼女を作ろうと思っていないんだ。でもTさんと会って話をするのはすごく楽しい。この先はわからないけど、今はこのまま友人としての関係を続けたい」

Tさんは、どんな反応をするだろう?と考えてみるけど、

残念ながら年月がたちすぎて、もはや想像もできない。


今はただ、Tさんが幸せに暮らしていることを願って、この物語を終わりたいと思います。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


※この物語は、事実を元にしたフィクションです☺️

どこまでが事実で、どこからフィクションかは想像におまかせします😉



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