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" 伝えたい " と、力強く言い切る彼女の言葉に・・・ 心を揺り動かされる " その瞬間 " を [第10週・2部]

若き実力派俳優・清原果耶氏の代表作である 連続テレビ小説・『おかえりモネ(2021年)』 。 その作品の筆者の感想と『映像力学』の視点から分析・考察し、「人としての生き方を研究しよう」という趣旨で展開されているのが " 『おかえりモネ』と人生哲学 " という一連のシリーズ記事だ。

前回の記事から、とうとう東京編へ突入した。ということで今回も、第10週・「気象予報は誰のため?」の特集記事で、その第2部ということになる (第1部はこちらから)。

それで今回の記事は、特に第10週の中・後半部となる48~49話を取り上げた記事となっている。またこの記事内容と関連が深い、他の週のエピソードについても取り上げた構成となっている。


今回の記事は筆者の分析・考察、そして感想が中心に展開される。また『DTDA』という筆者が提唱する手法 ( 詳しくはこちら ) を用いて、そこから浮き彫りになった『映像力学』などを含めた制作手法・要素から表現されている世界観を分析・考察することで、この作品の深層に迫っていきたいと思う。



○百音の気象予報士の合格を・・・ " ご都合主義 " と簡単に切り捨てていいのだろうか?


主人公の永浦百音(モネ 演・清原果耶氏)と故郷・亀島の幼馴染である野村明日美(スーちゃん 演・恒松祐里氏) 。明日美も今春に短期大学を卒業して、東京のアパレル関係のショップに就職することとなり、百音よりも一足先に上京していた。

それで明日美の借りていた住居のオーナーは、海外駐在のため彼女に部屋を貸していたのだが、諸事情で急遽帰国することとなった。結局、明日美は来週には部屋を退去しなくてはならなくなってしまったと語る。


*今住んでいるところを退去せざるを得なくなって、途方に暮れる明日美 [第10週・48話より]


シェアハウス・『汐見湯』には、まだ空き室が一部屋残っていることを知っていた百音は、明日美に部屋を貸してくれるようにと、オーナーである井上菜津(演・マイコ氏)に依頼する。結局、百音と明日美は、一緒に『汐見湯』に住むことになった。

夕食を菜津からご馳走になった後、百音の部屋で語り合う二人。


*第10週・48話より


すると・・・ 百音は明日に控える、Weather Experts社の面接試験のことが不安になってきたようだ。


『百音 : ああ・・・ でも、どうしよ。急に不安になってきた。』

『明日美 : ん? 何が? 』

『百音 : いや・・・ ここまで来て、明日の面接、落ちちゃったら・・・ 』

『明日美 : ああ。いや~ モネは試験に落ちるタイプだからね・・・。』

第10週・48話より


明日美が軽く笑いながら『モネは試験に落ちるタイプだからね・・・』と言われた瞬間・・・ 仲の良い幼馴染から、このような言葉が飛び出てきたことに百音は驚きつつ、その表情が凍りつく。


*明日美が軽く笑いながら『モネは試験に落ちるタイプだからね・・・』と言われて、表情が凍りつく百音。その表情からは " えっ、このタイミングで・・・ そんなことを言うの? " といった、百音の心の声が聞こえてきそうだ [第10週・48話より]


[ えっ、このタイミングで・・・ そんなことを言うの? ]


といった百音の心の声が聞こえてきそうな表情が印象的だ。


さて、百音が気象予報士の資格試験に合格する、第9週・41話「雨のち旅立ち」の放送当時のSNSをなど見てみると、「大学受験もすべて失敗した百音が、合格率5%という難関の気象予報士資格試験に合格するなんて・・・ これこそ " ご都合主義 " の極みだ」という意見も少なくなかったようで。

確かに事象の表層を捉えれば、そのようにも感じられるが、筆者はその捉え方は短絡的ではないかと感じている。そこで、このことに関する検証と考察をしてみたい。

まず百音は、高校は仙台の『青葉学園』の音楽コースを受験していたが、それに失敗している。百音曰く、『無理っぽいよ。楽典(筆記試験)、全然分んなかったし [第3週・14話「故郷の海へ」より] 』ということで、やはり彼女は筆記試験を苦手としている様子が窺える。

また大学受験もすべて失敗している。これについては、震災後の心理的ダメージのため目標が定まらず、大学受験に対するモチベーションが高まっていなかったことも要因とも考えられる。とは言っても、明日美の語る通り、百音は試験、特に筆記試験に苦手意識があるのだろう。


それで、百音の知的レベルや基礎学力レベルを観察してみると・・・ 決してレベルが低くないことが分ると思う。例えば、『米麻町森林組合』での仕事ぶりから、物事の本質を捉える鋭さや頭の回転の良さが分る。

また家族は、父・耕治が地方銀行の行員だ。地方で銀行員ともなれば、学歴・学業は優秀だったことが窺える。おそらく仙台の国立大学卒業というところだろう。

母・亜哉子も元小学校の教員だったため、百音にもそれなりの学習や教育を施していたことが想像できる。

妹・未知は水産高校出身なのだが、在学中に各種研究発表で既に注目を集めていた。卒業後は、『県立・気仙沼水産技術センター』に就職するが、父・耕治からは大学進学を勧められている。耕治曰く『みーちゃんなら、これから大学受験に切り替えたって、好きなところ行けんだろう? [第7週・33話「サヤカさんの木」より] 』というように、未知の学力レベルを持ってすれば、東北の国立大学は余裕で合格できる設定なのだろう。

このような永浦家の中で、百音だけが知的レベルや基礎学力レベルが極端に低いとは考え難いのだ。


それでは、気象予報士資格試験の難易度についても考察してみよう。さて皆さんは、資格試験の難易度を大別すると、大きく二つに分類できることをご存じだろうか? その分類は " 相対評価(競争評価) " と " 絶対評価 " の大きく二つに分けることが出来る。

まず、 " 相対評価(競争評価) " とは、試験前から合格する人数などが既に設定されており、いくら自分が良い得点を取ったとしても、他の受験者たちがそれを上回ってしまえば、蹴落とされて不合格となってしまう。したがって、難関の資格試験には " 相対評価 " のものが多い。代表例を挙げると、司法試験が該当する。

その一方で、" 絶対評価 " は、試験前に一定の合格得点ライン (解答率70%など) が明示され、それを超えれば合格するタイプのもので、多くの資格試験に採用されている。代表例を挙げると、医師国家試験(一部は相対評価)が該当する。

では、気象予報士資格試験はどちらかというと、医師国家試験と同様の " 絶対評価 " となっている 。そこで " 絶対評価 " となる、医師国家試験と気象予報士資格試験の直近の合格率を比較してみたい。


○医師国家試験 ・・・ 合格率 91.7% (9,222人/10,061人・2022年)

○気象予報士資格試験 ・・・ 合格率 5.7% (312/5,464人人・2020年)


ということは、合格率のデータだけでいうと・・・ 医師国家試験の方は、不合格者を見つける方が難しいという(苦笑)。そして数字だけで考えれば、合格率5%前後の気象予報士資格試験の方が、医師国家試験よりも難易度が高いということにもなってしまうが・・・ 皆さん、そんなことはないことは直感的にもお分かりだろうと思う。

そう!! 資格試験の合格率とその難易度は、受験者の母集団の特性によっても左右されるからだ。例えば医師国家試験の場合は、『医学部医学科の6年制を終了した者』という学歴規定があるため、医学部入学の競争に勝ち抜いて、6年の学業を修めたといった、" 既にふるいに落とされた状態 " の受験者たちが母集団となるわけだ。

しかし、気象予報士資格試験の方は全く制限がない。要するに年齢や学歴に関係なく、誰でも受験が出来る。ということは、知的レベルや基礎学力レベルを医師国家試験の母集団と比較すると、統計学的に言えば、気象予報士資格試験の母集団の標準偏差(SD)は、大きくなる傾向であることは想像に難くない。

要するに、気象予報士資格試験の母集団は、知的レベルや基礎学力レベルの " ばらつきが大きい集団 " と考えて良いだろう。ちなみに、気象予報士資格試験の史上最年少合格者は11歳11か月(2017年)で、小学校6年生の女の子だったそうだ。


*母集団の2群間における正規分布の特性の差 [明治国際医療大学・医療情報学より]


各資格試験の難易度を推し量るためには、母集団の分布状態(正規分布の状態)を把握しなければなんとも言えないが・・・ 筆者の個人的な感覚で言えば、気象予報士資格試験の " 誰でも受験できる " ということが " 合格率5% " という数字を生み出し、" 難関資格 " というイメージを一人歩きさせてしまった要因に思えてならないのだ(もちろん、あらゆる資格試験の中でも、難易度は高めではあると思うが)。

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