G 7 化石燃料の運命

今年5月にG7サミットが広島で開催される (https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Atomic_Bomb_Dome_and_Motoyaso_River,_Hiroshima,_Northwest_view_20190417_1.jpg)

日本は外圧に弱いとよく言われる。歴史上、日本の社会や経済が大きな変化を遂げた要因は、国民や日本企業の願望より、外国政府や海外投資家、多国籍企業などからの圧力の方が有力だった例が少なくない。気候変動対策や脱炭素化においても、日本の重たい舵を切るには外圧が最も手っ取り早いと言っても論外ではないと思う。

しかしどうやら今年のG7は、外圧どころか日本の方が主要国を左右する立場にあるみたいだ。

5月のG7広島サミットに先立ち、気候・エネルギー・環境に関する官僚会議が札幌で今月15日に開幕する。当会議を目前に、G7の共同声明案の草案が公表された。

草案で目立つ内容は二つ

  1. 天然ガスと液状天然ガス (LNG) への投資を推進

  2. 石炭火力のアンモニア混焼を「CO2排出削減に向け効果的」な技術と定義

一つ目のポイントは分からないでもない。ロシアによるウクライナ侵略が原因で、世界エネルギー市場が圧迫している。ロシアからの天然ガスに頼っていた欧州は特に、侵攻以来その供給が抑制され、アメリカなどからのLNGをはじめ化石燃料に助けを求めてきた。

しかしこういった危機的状況であるにしろ、天然ガスをクリーンな発電燃料、あるいは脱炭素社会への架け橋だと勘違いしてはいけない。天然ガスは石炭火力と比べれば確かに温暖化ガス排出量は低いが、国際エネルギー機関(IEA)は2050年までに世界がカーボンニュートラルを実現するためには、天然ガスを含む化石燃料への新規投資を即時に停止しなければならないと強く指摘している

二つ目のアンモニア混焼に関しては、日本政府の指紋だらけだ。

ブルームバーグの報道によると、「議長を務める日本は、2050年のカーボンニュートラル目標達成に向けて、火力発電での水素・アンモニア混焼や原子力発電など多様な手段を総動員する重要性を強調」している。

発電部門での水素やアンモニア混焼は日本以外の国ではほとんど耳にしない技術だ。日本が唯一単独に突っ走っていっている感じもする。国際舞台で日本がこれを後押しする背後に、政府が今年2月に発表したGX基本方針がある。シンプルにいえば、GXは、CO2排出削減と経済成長はトレードオフの関係ではなく、両立できるという考え方。経産省の環境問題担当 木原晋一審議官は「日本は(G7の)議長国として、グローバルなGXの実現を目指してメッセージや施策を議論し、世界に発信する場にしたい」と述べている。

しかしそのGXにおいては、再エネ導入やCO2削減ポテンシャルの野心に欠けていて、原発新築目標・火力発電の継続は過去と変わらないままでいる。火力発電での水素、アンモニア混焼の発達もきちんと入っていて、CO2排出制御の手段として掲げられている。

だが相次ぐ科学的分析(例えばあれこれ、そしてこれ)によると、アンモニアを利用した発電は通常の火力に比べて発電コストがかなり上昇し、発電効率は通常の火力より3割ほど下がる。しかも現在の水素・アンモニアの製造は化石燃料を使うことから、サプライチェーン全体の排出削減にはつながっていない。

などなど、GX基本方針はいろんな理由で批判浴びている。当ブログでもちょっと前に意見を述べてみた

こういった火力発電を低エミッション技術と掲げているだけあって、日本国内の脱炭素への取り組みは遅れている。ブルームバーグNEFの分析によると、2021年度時点、日本での再エネなどのゼロエミッション電源比率は30%で、G7の中で最も低かった。

しかし国際交渉の場で中立的に貢献し続ける日本。他国は日本の脱炭素手段が遅れていようが、直接苦情は出せないのが現実なのかもしれない。例えば、カナダの環境・気候変動相はアンモニア混焼の石炭火力について「経済的にも好ましくなく、カナダの選択肢ではない」と批判的だが、最終的には「国によってそれぞれ事情がある」と日本のことは多めに見ている。

さて、例の共同声明案だが、今はまだ草稿であり、15日〜16日にかけた交渉次第で成案の内容がどれだけ変わるかに注目したい。


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