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化学屋から見たリチウムイオン電池の充放電(負極)

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リチウムナフタレニド  

出典:dx.doi.org/10.1021/jp3118055 | J. Phys. Chem. C 2013, 117, 1257−1267

【簡単な自己紹介】
バックグランド:有機合成化学.
現在:リチウムイオン電池関連の仕事をしております.


 前回に引き続き,リチウムイオン電池の「化学反応」について,化学の「言語」で書いてみます.
 現在市販されているリチウムイオン電池のほとんどにリチウム金属は入っていません.その代わり,負極に入っているのはグラファイトという炭素材料です.この材料の発見の功績で,吉野博士がノーベル賞に輝きました.(https://note.com/geltech/n/n2bea28ba5567).グラファイトは鉛筆の芯にも配合されていて,普段は電気をためていません.では,リチウムイオン電池の中ではどのようなことが起きているでしょう.まず,グラファイトを化学の「言語」で表現しますと,ベンゼン環(亀の甲)が二次元的にいっぱいつながった(縮合環)シートがあって,そのシートがいっぱい積層したものです.充電時に負極の電位が十分低ければ,縮合環が電子をもらって負の電荷を帯びることになります.しかし負の電荷のままでは安定に存在できませんので,正の電荷をもつリチウムイオンがシートとシートの間に入って,(負の電荷の近傍に入って,)全体の電荷の中性を保ちます.これが充電です.有機合成や高分子合成で使われるリチウムナフタレニドというものがあります.充電状態の負極はこれと類似したものと考えればわかりやすいです.

 別の分野の方から見れば,全然違うものに見えますが,有機合成化学のバックグランドをもつ人なら,充電した負極とリチウムナフタレニドは類似品(?)です.
 吉野博士がノーベル賞ご受賞のインタビューの中で,カーボン材料にたどり着く前に,共役性芳香族系の材料を試したことがありますとおっしゃっていました.それは炭素材料とリチウムナフタレニドの中間に位置するものと考えられます.負極材料としての炭素材料の発見は,化学に造詣が深い吉野博士ならではの発見といえます.

 今日はこの辺で失礼いたします.
 引き続きよろしくお願いいたします.
 

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