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#読書メモ 国家はなぜ衰退するのか

『国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源』(著 ダロン・アセモグル , ジェイムズ・A・ロビンソン , 訳 鬼澤 忍)

セールで買ってなんの気なしに読んでたら、とても面白かった。ジャレド(『銃・病原菌・鉄』)の論点を批判的に発展された内容。つまりそれはハラリ(『サピエンス全史』)のciv的なテック歴史観への批判でもある。(civはシド・マイヤーのシビライゼーションシリーズのこと)

言っていることはめちゃめちゃシンプル。
ジャレドはユーラシア大陸の形と要素(つまり地理的要因)が発展を基礎づけたって言うけど、違くない?社会の発展の原因は政治体制だよ、というもの。

少し用語を整理しよう。政治・経済体制には大きく2種類ある。収奪的(extractive)なものと包括的(inclusive)なものだ。

収奪的な政治体制の例としては王政、独裁、封建制、寡頭制など少数のメンバーが権力を占めているもの。絶対主義ともいう。権力を持つ価値が高く、権力を失うと命の危険すらある。

包括的な政治体制とは共和制や民主主義なんだけど、大事な条件がつく。それは、時には対立するような様々な人たち(業界団体、属性、市民団体……)を幅広く包括していること。どうしても抽象的になってしまうけど、例えるならIT産業と漁師たちと貧困のシングルマザーたちと年金暮らしの前期高齢者たちがバランスを取っている状態だ。
それってかなり難しい。もし、理想のインクルージョンを達成できたとしても次の日には崩れてしまう。透明性や柔軟性、公平な法体系、不断の努力が必要不可欠だ。

論理の骨子は

・発展するフィードバックループと衰退するフィードバックループがある。
・継続した発展には包括的な政治体制、包括的な経済体制(つまり民主的な仕組み)が必要だ。
・衰退には収奪的な政治体制と経済体制。それによる負のループが惨禍を巻き起こす。
・でもそもそもまとまった政治体制がないと発展できない。
・包括的な制度から収奪的な制度に変わることはよくある。(ローマやベネチアの歴史)
・王政、寡頭制を防止するには幅広い権力層が必要。商人、市民、貴族。でなければ王が議会を停止させることを防げない。(歴史の例としてローマ、ベネチア、インカ、スペイン現代の例として中国、アフリカ、南米。)
・それには運の要素もかなりある。
・だから名誉革命のプロセスを見るのがすごい大事。名誉革命でも王による巻き返しがすごいあったけど、なぜそれをしのげたのか。
・包括的制度にしろ、収奪的制度にしろ、実行するだけの力、動員できる人数や組織力(そして暴力や武力)が決定的な場面を分けることがある。
・絶対主義には内戦のインセンティブがある。産業の発達を妨害する動機もある。


特にベネチア論は良かった。パートナー制(出資者と海運者の契約)という革新的な仕組みがあり商人が栄えたけれど、少数のグループによる寡頭制が進み、最後にはパートナー制を禁止して衰退が決定づけられる。

寡頭制や王制でも成長しないわけではない、っていうのがキモだ。成長を持続できない=衰退する。

じゃあ、現在の日本と中国はどうなんだろう? そういう疑問が湧いてくる。著者のアシモグルとロビンソンの答えは中国は収奪的な国家なので繁栄は長く続かないとはっきり言う(一部の人が喜びそうだ)。でもどのくらいかかるかはわからない。この本のテーマは衰退なので、どのくらい成功するのかは導けない。過去には何百年続いた王朝なんてざらにある。

日本の今後については触れられていないけど、現代日本に住む私としてはとても厳しいなと思う。自民党の政治家から出てくる政策や発言が包括的かと問われると逆さになっても首肯できない。むしろ全力で逆方向に行きたがっているように見える。

少し考えてみたけれどこうした状況を変えていくにはフランス革命の時にできた「三部会」のような舞台が必要じゃないだろうか。21世紀の三部会というビジョンが。

ところでこの本のフレームワークはとても使える。『銀河英雄伝説』を読んで民主主義や帝政を語る水準で止まっている人にもおすすめしたい。あと「地政学」とかでなにかわかったようになっている人にも。例えばロシアには民主的な選挙があるけれど、現在のプーチンのロシアを民主的な国といえるだろうか?翻って日本も。こうした問いに答えるフレームワークを提供してくれる。

これは「賢い王の治世」という理想を真っ向から否定する本である。

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