逸木裕「電気じかけのクジラは歌う」 - AIは人間を "創作" から駆逐するか
その日が来るのは20年後か、あるいは……。
設定が良い!
「もし人工知能がどんな曲でも作れるようになったら、それでも人間が作曲する意味はあるか?」
この本はそんな現実に起こり得る世界を舞台とした近未来SF小説。
SFといっても頻繁に登場する独自の用語は、スマホをかざして音楽が聴けるシール状の記憶媒体 "カイバ" くらいのもの。自動運転が一般的に普及し始めているくらいで、ほぼほぼ現代と同じ世界観です。
それだけにリアリティがある。AIが世界を席巻する中、クリエイターに未来はあるのか。小説全体を通して深く考えさせられました。
音楽や心情の細かな描写
登場人物に作曲家が多いのもあって、本の中では頻繁に曲が流れます。
この曲の描写がすごく繊細で、なかなかに引き込まれました。
また心情の描写も多く、その人物の感情が揺れ動く感じが上手く表現されています。
ただちょっと、僕にとってはその描写が細かすぎたかな。
前半はとても良い感じで進むんだけど、中盤以降はその歩みの遅さが気になるところ。
一方で小説を書くような方には参考になるんじゃないでしょうか。音楽って文章で表すには難しい部類に入ると思いますが、こんなに表現方法があるのかと驚かされました。
勉強になる!
僕が最も印象に残ったのが「Jing」の開発会社会長である霜野鯨と相対する場面。
ラスボス的な雰囲気を醸し出す鯨さん、かなりの博識でいらっしゃいます。
まさかSF小説で、こんなわかりやすい解説を読むことになるとは思わなかった。
他にもいろんな雑学が満載なので、こういうの好きな人は楽しめるんじゃないかな。
色々尖った作品
近未来の軽めSF設定が好き!
細かな心情描写が好き!
物語を楽しみながら雑学を知りたい!
こういった人にはおすすめかな。
ただ表紙に釣られて読んでしまうと、中には全然受け入れられない人もいるんじゃないでしょうか。意外と中身は尖ってます。
あと作曲家を目指している人は……読まない方が身のためかもしれません。
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