カギの人 ミンさんの話

ミンさんのご主人は認知症です。子供たちは独立して、今は二人でくらしています。
最初は物忘れでしたが、さいきん、それにうつが加わりました。
できなかったことを数えてクヨクヨと、俺ももうだめだな、というのです。最初のころは、ミンさんも、また、忘れてる、とか、それ、さっきもおんなじこと言ってたよ、と、責めたてていました。
最初は言い返していたご主人も、だんだん症状が進むにつれて、いいわけもとおらなくなり、今度は自分を責めるようになったのです。 ここにきて、もう、こんなんだったら死んだほうがいいのかもしれない、と言いだしたのです。
ミンさんもさすがに、これは、きつく言ってはいけない、と思いました。
優しくしないといけない。
しかし、ミンさんにも、もう限界が近づいていました。ずーっと二人きりです。そして、まるで捨てられた子犬のような悲しい目でミンさんをおいかけるのです。
このままでは、私がだめになってしまう。ミンさんは、ケアマネさんに相談して、デイサービスにいってもらうことにしました。学校に行きたくない子供のように、ご主人は悲しげです。学校になじまない子供のように、ぐずるご主人をミンさんは送り出します。子供が小さいときもそうしてきました。
ミンさんはがんばっています。そうです。子供たちには子供たちの家庭があり、それぞれに奮闘しています。ここは、ミンさんがどうにか持ちこたえねばなりません。
自分が相手にきつくあたらないためには、自分ひとりでいる時間、安らげる時間がひつようなのです。自分のことを大切にして、余裕がなければ、人はひとではいられない。

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