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「ミラー・ミラー」に映し出される孤独と本音の裏表

アンジュルムの新曲『ミラー・ミラー』は、シンプルなカッコいいディスコソング。ハロプロ王道の赤羽橋ファンクのド真ん中な曲だと思う。耳心地も良いし、MVの映像もスタイリッシュ。とてもアンジュルムに合うオシャレな曲。そう思うのだが、児玉雨子の歌詞だけが少し異質だ。

アンジュルムのイメージといえば「強い女の子」というキーワードがまず浮かぶ。改名一発目の『大器晩成』から幾度も「逆境に負けない。私は私だ」という勝気な女子の気持ちを歌った曲が多かった。

そんななかで『ミラー・ミラー』は、軽快なディスコソングに乗って「ああ…誰か!誰か見抜いて」と全開で心の叫びから入る。

僕はこの『ミラー・ミラー』の登場人物や状況が全くイメージ出来ないままだった。何度もMVを観て、歌詞を見て考えたけど、どうにもピンと来なくて引っかからなくて途方に暮れた。

この子はどういう子なんだろう?

ミラーボールのあるダンスフロアに来ているが、日常から逃げて「私の本当の顔はこっちよ」と発散しているのか?

いったい自信があるのかないのか、判断しかねていた。

グーっと考え込んで、考え込んで、はたと気付いた。

これ、人気アイドルの子の気持ちなんじゃないだろうか。

Who's the fairest of them all?
Who's the loneliest on the floor?

取っ掛かりは何度も挟まれる英語の歌詞だ。「誰が公平なの?」「誰が孤独なの?」という問いかけ。いつも比べられたり、表面的にチヤホヤされている人の鬱屈した「本当の私を見てほしい」という気持ちなんじゃないか。

そんな日常が退屈で、ひとり深夜のディスコへ行く。でも、だったら「すっぴんのまま勝負しなよ」と言われる。これは鏡に映る自分自身からの問いかけだろう。ただ、そこはトップアイドルとしてのプライドもある。「簡単には見せてあげないよ」と鼻で笑ってフロアへ繰り出す。

キラリ 光 のかけら
瞳 瞳 飛び交った
Who's the fairest of them all?
気にしないでいたい

ミラーボールの光に映し出される。トップアイドルだから、やはりオーラが違うのだろう。たちまち注目を集めていく。だけど、それって「公平な気持ちで見ているの?」「私がアイドルだから好奇の眼で見てるんじゃないの?」そんな感情にも支配されてくる。

この世で美しいのは?

ミラーボールに映る自分に問いかける。

この世で臆病なのは?

ミラーボールに映る自分に問いかける。

だけどクルクルキラキラと回るミラーボールは、そんな問いかけを乱反射させてはぐらかす。

「本気に本音を曝け出しているのに。美しいのも、臆病なのも全部が私よ。上っ面の感情じゃなくて、色んな角度で私を見てよ」

ミラーボールに照らされてフロアのセンターを独占して注目を集めている様子が目に浮かぶようだ。とても近寄りがたい。軽い気持ちで声でもかければ罵声を浴びせられるだろう。

あれだ。古い例えで申し訳ないが、これ完全に『きまぐれオレンジロード』のヒロイン“鮎川まどか”だわ。『鏡の中のアクトレス』だわ。

すごく二律背反な気持ちを歌ってはいるが、軸は「自信家な女の子」という印象が歌詞のそこかしこから滲み出ている。そうじゃなきゃ「この世でいちばん注目されたい。でも、ほっといて欲しい」なんて言葉は出てこない。

面白いなぁと思う。児玉雨子の歌詞は毎回、一癖も二癖もあるのだが今回もまた斜めから切れ込んできている。極めつけがここだろう。

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唱えて独り 鏡よ鏡
マスカラ落ちてる…

桃奈ソロの「マスカラ落ちてる…」だが、これ普通は「鏡よ鏡」言えば白雪姫の「この世でいちばん美しいのは誰?」が来るけど、「美しいのも、臆病なのも」すでに自問自答しているし「注目もされたいし、ほっといても欲しい」と思う気持ちも全てが「私」だと確信している。確信しているんだけど、そんな「私」を本当の意味で理解している人がいない。

私は独りだ。

そんな孤独にいつの間にか涙が滲んでマスカラが落ちていた。

化粧直しで鏡を見て、自分でも気づかないうちに涙が流れていたことを自嘲気味に笑いながら「マスカラ落ちてる…」なんて言っている情景が思い浮かんでしまう。切ない。これは切ない。

「マスカラ落ちてる…」

これメチャクチャいい台詞だと思わないか。強気で自信家で、だけど孤独で臆病な女の子の独りぼっち感が凝縮されている。だって誰かいたら「マスカラ落ちてるよ」って言ってもらえるじゃん。誰にも言ってもらえないんだよ。あんなに注目集めてるのに、グッと近づいて本気で向き合ってくれる人がいないんだよ。

いやぁ切ない。とても妄想が捗る。

『ミラー・ミラー』の歌詞は、最初どうにも取っ掛かりが見つからなくて困惑していて、「あれ? 児玉雨子も普通の歌詞を書くのかな?」と思っていたのだが、しっかり雨子節が詰まった曲者なナンバーだった。

こんな解釈いかがでしょうか?


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