なぜあの子はかみついたのか


1歳児クラスは常に噛みつきとの戦いである。

1歳から2歳にかけて、子どもたちはどんどん自分の気持ちが広がっていく。

「やってみたい」「いやだ」「楽しい」こうした思いをどんどん大人や友だちに伝えていく。

おしゃべりできる子であれば、言葉で伝えることもできるだろう。

だが、まだまだ言葉が発展途上の子どもたち。
その表現は、にっこりと笑う表情であったり、両手をいっぱい広げる手振りであったり。そして、かみつきであったりする。

私は保育士として、子どもがかみつくのは、こうした思いを伝えるひとつの手段だということを、頭では理解している。

だが、実際にかみついた瞬間をみるとどうだろう。

かみつかれた子が泣いている、「イタイイタイだねぇ」声をかける、まずは冷やさなくては、原因はおもちゃの取り合い? ああ、保護者に説明しなくては、他にかみ跡はないか……

目まぐるしく駆け回る考えと、目の前の噛み付かれた子のケアをしながら、気がつくとかみついた子に対しては、「イライラしてたのだろう」と勝手に思い、置き去りにしてしまう。

かみつくという行為に対して、噛みつかれた子に意識が行ってしまい、噛み付いた子に対しては、おざなりになってしまう場合が多い。

あるいは、加害者と被害者と簡単に考えてしまい、子どもたちの背景を考えずに済ましてしまう。

こんなことがあった。
AちゃんとBくんがおもちゃの取り合いをしていた。そして、AちゃんがBくんのことを噛んだ。
私は、Aちゃんに対しては「Bくん、痛いって泣いてるよ!」と強く話し、Bくんに対しては、「Bくん、痛かったねぇ。おもちゃ欲しかったねぇ」と慰めた。

しかし、後から他の保育士から状況をきいてみると、どうやら最初におもちゃを使っていたのは、かみついたAちゃんのほうで、Bくんが無理やり取ろうとしたというのだ。

自分が使っていたおもちゃを取られそうになり、かみつきという手段で必死に伝えたにも関わらず、一方的に怒られる。「何で私が怒られなきゃいけないの。何で友だちの方だけが慰められているの」

Aちゃんはそんな気持ちを抱いていたのかもしれない。今思い出しても、申し訳なさを感じる。ごめんね、Aちゃん。

「どうしてかみついたのか」

もちろんその理由はひとつではないだろうし、真実はその子の中にしかわからない。

けれども、その理由を考えることが、かみついた子の気持ちを受け止めることにつながるのではないかと思う。

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