アメリカの新学期-対面授業かリモートか
アメリカでは、新型コロナウイルスの蔓延で、多くの学校が3月中旬から学校閉鎖に追い込まれた。私が暮らすカウンティでは当初、2週間の学校閉鎖と言われていたはずだ。しかし、事態が変わり、代替措置としてオンライン授業が開始、最終的には6月中旬の学年末まで学校が開くことはなかった。そして例年通り2か月におよぶ長い夏休み。日本では、学校閉鎖による授業カリキュラムの遅れを取り戻すべく、土曜や夏休み返上で登校し、授業を行う学校もあるようだが、私が暮らす地域ではそのような動きはなかった。これも暮らす地域によって異なるので何とも言えない。
8月。例年だと、店では“Back to School“セールがあちこちで始まり、新学期に向けて、学用品を買い求める動きがある。しかし、今年は様子が違う。学校が対面式授業を再開するか否かをめぐって、7月下旬以降、激しく議論され、それがどんどん政治的になっている。「新型コロナ感染リスク」と「子どもの教育」と言ったアカデミックな側面だけで考えられなくなってきているのだ。
学童期の子どもを持つ保護者は、学校再開の方法に対してどう考えているのか。高校生の子どもを持つ保護者としても、周囲の親はどう考えているのか、非常に気になるところだった。2020年8月7日付ワシントンポスト紙では、7月24から31日までの間に、ワシントンポスト紙とジョージメイソン大学のthe Schar Schoolとが、幼稚園年長から高校3年(K-12)までの子を持つ保護者1185人を対象に調査した結果を発表した。それを見て、保護者は一様に、経済的リスクと社会的な影響の狭間で複雑な思いでいることがわかり共感した。
アメリカの教育は地方分権が進んでいて、一様にこうだとは言い切れないが、どこの学区も7月中旬くらいから新年度の学校授業のあり方をめぐって、あれこれ模索を続けていた。具体的には、オンラインか対面授業か、それとも両者の混合(hybrid system)かで、この模索は、最終決定を下す直前まで続き、州知事やカウンティの教育委員会が発表後も、議論が終わることはなく、一旦決定した事項も、その後、撤回されたりしている。例えば、私が暮らすカウンティでは、公立学校は学校閉鎖を続け、完全オンライン授業にすると発表。当初は私立学校もそれに従う決定がなされた。しかし、その後も激しい議論が続き、私立学校については、オンライン授業が望ましいがその限りではないと、修正された。
本来、子どもの安全と質の高い教育を中心に考えるべきではないか、と私は考えていたが、学校を開けるか否かをめぐり、激しい議論が繰り広げられる中、私の考えとは別のロジックで議論が進められていることに気付いた。そして、先の新聞の統計結果を見て納得したのが、学校を再開させるか否かの議論と支持は、人種や支持政党、所得、によって異なるということだ。上述のワシントンポスト紙によれば、人種別では、アフリカン・アメリカンやヒスパニックの方が、白人系と比較して、本人や家族の新型コロナ感染を恐れ、対面授業は安全ではないとしている。彼らの方が、感染リスクの高いところで働き、暮らし、また、身近な人が罹患するなど、感染の恐ろしさを目の当たりにしているからだろう。また、共和党トランプ大統領が、新学期から完全に学校を開けるよう主張していることもあり、共和党支持者の7割が対面授業は安全だと考える一方で、民主党は7割が危険だとしている。さらに、所得に関しては、低所得者と中間所得者層の多くが、対面授業は安全ではないと考える一方で、所得が75,000ドル以上の層では意見が割れている。
このように多くの保護者が、対面授業は安全ではないと考えるのだが、同時に7割近くがオンライン授業に対して、教育の遅れや、交友関係、そして精神的落ち込み、の点から不安に思っている。さらに、小学5年生までの子どもを持つ親の半数が自分の仕事に支障をきたすと言っている。
学校再開の有無をめぐる一番の裨益者は生徒であり保護者だが、では、どうやって最終的に決定がなされるのか。7月から続く議論の推移を追っていると、実は学校を取り巻く地域や政治基盤が、深く影響していることがわかった。刻々と変わる新型コロナウイルス蔓延状況だけでなく、連邦政府と州知事とのパワーバランス、教育学区の支持基盤が共和党か民主党か等が大切な要素となり、最終的に対面式かオンライン式かが決まっている。つまり、ワシントンポスト紙も言うように、「地理」(geography)や「感染率」(infection rates)、そして「支持政党」(partisanship)が大きく影響してくるのだ。つまり、コロナ感染率が低いから対面授業を再開するというわけでもない。コロナ感染率が依然高い地域でも、政治的駆け引きから、最終的に学校を開けることもあるのだ。
私が暮らすカウンティは直前まで、オンラインと対面授業のハイブリッド方式を計画し、具体的なタイムラインまで公開され、各生徒に通知まで来た。しかし、最終決定段階でその計画は覆され、完全オンライン授業が1月下旬まで続くこととなった。このように混沌とした中、すでに一部の学校や大学は、生徒を校内に受け入れ、授業を開始している。先のことはどうなるかわからないが、それぞれの地域でそれぞれの決断を下し、動き出しているのがアメリカの現状である。
参考文献:
The Washington Post, “Poll: Many parents prefer mix of online, on-site school” (August 7, 2020)
The Washington Post, “Start of school year is marked by chaos”, (August 10, 2020)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?