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アメリカでは、なぜ社会奉仕活動が高校卒業要件なのか

 私が暮らすアメリカのメリーランド州では、高校卒業要件の一つにサービス・ラーニング(Student Service Learning; SSL)を行うことがある。サービス・ラーニングとは、学生の自発的な社会奉仕活動(サービス)を学習(ラーニング)の一環として行うことである。ミドルスクールとハイスクールの7年間で最低75時間のサービス・ラーニングを行うのである。ミドルスクール1年は日本の小学6年生に相当するが、12歳前後でできることは限られており、しかも学校のお膳立てはほとんどなく、75時間という時間がとても長く感じられる。

 何のためにサービス・ラーニングを必須にしているのだろうか。なぜそれをやらなければ高校を卒業できないのだろうか。

● 社会とつながりを持つきっかけ

 基本的に、このサービス・ラーニングは、学校ではなく、個々の生徒が主体的に行うものなので、学校は活動先を見つけてはくれない。そのため各生徒は、あらゆる方法を使って活動先を見つけ出し、生徒自身が連絡して行うことになる。そのため最初のうちは、親自身が持つネットワーク、例えば地元コミュニティや、宗教から派生したネットワーク、職場や社会活動などをふるに活用して、見つけ出すのが現実である。NPOボランティアもそのほとんどに年齢制限があり、保護者同伴を条件に挙げている。保護者が事実上の戦力であり監督役なのだ。そうすることで、子どもは社会とのつながりを持ち、コミュニケーションの取り方を学び、徐々に独り立ちしていく。


● 社会に自分を売り込む、セルフ・プロモーションの練習の場

 学年が上がるにしたがい、生徒自身が積極的に働きかけ、友だちや学校で習っている先生の口利き、部活動の一環としてのボランティアなど、親のネットワークから離れ、自分の力でサービス・ラーニング先を見つけ出していく。その際、大切になるのがセルフ・プロモーションなのだ。社会に対して自分を売り込み、活動先を見つけて行く。自分には何ができて、自分がボランティアすることでどんな良い点があるのか。それは、大学受験の出願に必要なカレッジ・エッセイにも通じている。アメリカ社会は、どんな時も自分を売り込むことが大切なのだ。

 参考までに、生徒と親向けのサービス・ラーニング手引書には、サービス・ラーニングの目的や、「サービス・ラーニング」と「ボランティアとコミュニティ・サービス」との違い、ベスト・プラクティスなどが書かれている。生徒のリフレクションとして、何を行い、どんなサービスを組織に提供し、そのサービスによって誰が裨益し、活動によって自分自身は何を学び、学校で学んだことと今回のサービス・ラーニングとどのような関係があるのかを記入し、学校に提出するようになっている。それに対する評価のフィードバックが、高校卒業時までに260時間以上のサービス・ラーニングを行うと、Certificate of Meritorious Serviceとして表彰されることだろうか。

 私はアメリカの組織で働いているが、本当に皆、自分を売り込むことが上手である。しかし、そうした姿勢は一夜にしてできるものではなく、サービス・ラーニングで挑戦と失敗を繰り返し、学ぶことで身についた姿勢なのではなかろうか。つまり、サービス・ラーニングを通して生徒は、積極的に自分を売り込む姿勢を学び、学校という閉ざされた世界から一般社会という新しい世界に飛び込み、さまざまな組織や大人と関わりを持ち、自身の視点から物事を見つめて考える機会を得ていると言える。

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