#1 アリとキリギリスと蝶
4月、キリギリスは日の光を浴びた。
眩しくて見上げる事は出来なかったけど、太陽の温もりを全身で感じた。
風が吹いた。いい匂いが流れてきた。
お腹すいた。食べなきゃ。
キリギリスは匂いを辿ってごはんがある場所に行けた。お腹いっぱいになるまで食べた。ちょっと苦しいくらい。
ここは楽園か。
それくらいキリギリスにとっては心地よかった。
5月、アリの行列を見つけた。
なんかめっちゃ運んでる。
「何をそんなに運んでるの?」
「ごはんだよ。家で女王様がお待ちになっているし、冬の分も今から蓄えないと間に合わないんだ。」
「まだ冬は来ないのに?」
「まだまだって言ってたら来た時に困るんだ。だから計画的に蓄えるんだよ。」
「なるほどねー。」
「キリギリス君も冬に備えたほうがいいと思うよ。私たちはもう行くよ。じゃあね。」
冬かぁ。
でも、目の前にごはんがあったら食べたいもんなぁ。
・・・ん?
ごはんを蓄えるためには、家が必要ってこと?って事はあの行列の先には家があるのか?
まぁ、まだ考えるのはいっか。今度会った時に聞こう。
6月、またアリの行列を見つけた。
「あれ?この前のキリギリス君?」
「うん」
「やっぱそうだよね。どう?あれから冬に備えてる?」
「それがさ、備えるためには家がいるなぁって思ったんだよ。それで聞きたいんだけど、アリさんたちの家ってどこなの?」
「この先しばらく行ったところの土の中だよ。土の中は地上よりも安全だし、蓄えやすいんだよ。誰かに奪われる心配も風で飛んでくこともないからね。」
「確かに。頭いい」
「代々受け継いでるからその恩恵だよ。」
「そっかぁ。教えてくれてありがとう!じゃあね。」
それから、土の中にごはんを集め始めた。家とまではいかないけど、キリギリスしか知らない秘密基地みたいな感じ。
7月、キリギリスは少しづつだけど、ごはんを秘密基地に蓄えていた。お昼になると暑くて暑くて木陰で涼みたかったけど、食べ物を探しに出かけた。
そんな時にキリギリスは蝶を見かけた。
蝶は空高く飛ぼうとしてた。でも、途中で体力が尽きて落ちてしまう。それでも、また空を見て飛び立つ。
蝶は決して諦めなかった。
なんでそんな無意味なことをするんだろう。
キリギリスは不思議で仕方なかった。
8月、キリギリスはすっかり大人の体に成長していた。前よりもたくさん食べないとすぐにお腹を空かせるようになったから、満足いくまでごはんを探すには時間がかかってしまう。
ごはんを探しに行くと必ず蝶を見かけた。蝶はいつも空を目指して飛ぼうとしていた。
いい加減諦めないのかな?何を頑張ることがあるんだろ?バカなの?
ついに、キリギリスは蝶に声をかけた。
「あのさー、なんで毎日毎日空を目指して飛ぼうとしてるのー?何回やっても同じ結果じゃん。無理なのわからないのー?」
蝶が空から落ちた。そして、キリギリスに言った。
「あなたはなんで、毎日毎日ごはんを運んでるの?」
「それは、冬に備えるため」
「そう。冬を越すのはそんなに大事なのかしら。」
「え?」
「私のことをバカにしているでしょうけど、私にとっては冬を越すより価値があるの。私は今よりもっと高い場所で羽ばたくことが夢なの。毎日ごはんを運ぶ生活と毎日やりたいことをできる生活どちらがいいかしら。」
「毎日やりたいことしたい。」
「勘違いしないでほしいんだけど、やりたいことをするという事は何か他の選択肢を捨てるということ。だから、私だったら、空を目指す代わりに冬を越す準備ができない。遊ぶのもいいし、今まで集めて来たごはんをお腹いっぱい食べるのもいい。もちろん、冬に備えても。ただ、いつもあなたを見てると、そんな退屈そうな顔して何をそんなに頑張ってるのかしらって思うのよ。」
「退屈そうな顔って。」
「何をどうしたいか、あなた次第よ。」
9月、キリギリスは考えていた。
アリの行列が通った。
「久しぶり!どう?あれからごはんは集まってきてる?」
「あぁ、まぁ、うん。」
「あ、その反応はまだ備えてないんでしょ。悪いけど、冬になって助けてください、ごはんを分けてくださいって言ってもキリギリス君にあげるものは何もないんだからね。」
「あのさ、春からずっとごはんを集めてるけど、楽しい?」
「楽しいとかそういう話じゃないよ。冬を越すために必要だから、飢え死にたくないからだよ。」
アリと別れた後も、キリギリスは悩んだ。考えても考えても自分にとって何が大事かわからない。
10月、キリギリスは座り込んでいた。
おかしい。この頃体力がなくなってきた気がする。前は暑くても食べ物探せたし、お腹いっぱい食べたあともすぐ動けたし、こんなにすぐに息が上がる事はなかった。
そっか、年取ったんだ。体力のないおじいちゃんなんだ。
秘密基地には今まで集めてきたごはんがある。
秋の間は足りるな。よし。
11月、キリギリスは太陽の下でのんびりしていた。
幸せだ。
こんなに時間を贅沢に使えるだなんてなんて幸せなんだろう。秘密基地のすぐ近くだったら動かなくてもすぐそばにご飯はあるし、散歩して手ぶらで帰ってきてもまたご飯を食べれる。
キリギリスが散歩をしているとアリの行列と遭遇した。
「アリさん、こんにちは!」
「キリギリス君こんにちは。どうしたの。今日はすごく機嫌いいね。」
「そうなんだよ、ここのところ毎日楽しくて幸せなんだ。」
「それはよかったね。でも、冬の備えはした?冬はすぐそこなんだから、本当急がないと間に合わないよ。キリギリス君一人分だったら今からすれば間に合わないこともないかもしれないよ。」
「そういうのはいいんだよ。ぼくは今幸せだからそれだけでいいんだ。」
「これだけ口すっぱく言っても聞かないなら、もう知らない。じゃあね。」
「アリさん頑張ってね!アリさんの助言のおかげで今ぼくは幸せなんだ。ありがとう〜!」
キリギリスが言い切る前にアリの行列は去って行った。
12月、キリギリスは笑って眠っていた。
最後まで読んでくださりありがとうございます😊
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