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『葛藤』2章 ヒート | 短編小説

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注意:2章はほとんど修羅場です。心の弱い方はブラウザバックを推奨します。


1節 荒波の中

身体が波に揺られる。
ぐわん、ぐわんと不規則な波。
荒れた海に沈むかのような感覚。不安定で、息苦しい。
聞こえるのは不気味な不協和音。複雑に、無秩序むちつじょに絡み合う。そのまとまりのない音に不安を煽られる。
波が強くなる。身体が崩壊するのではないかと思うほど強く。緊張で身体がこわばる。壊れないようにあらがうかのように。

(このまま死んでしまうのだろうか…)
血が引いていくよう。海に体温を奪われ、心臓の鼓動が弱くなる。身体が冷たい。
そして…ズキッと痛む。

「…はっ!?」
起きた。どうしたものか、とんだ悪夢だった。
静まらない痛みに気づく。まだ夢の中か?
いや、違う。本当に傷んでいる。腕を見ると包帯がまかれている。しかし、身に覚えがない。一体この傷はいつできた…?
寝起きで少しぼ-っとしているのかもしれない。思い出せるもの…

僕の名前は…

ヒート

トラード王国の王子だ。
そして…

「んん…」

隣にいるのは僕の彼女、リーベル王国のエラ。

「おはよう、エラ」
「ん…おはよ…」

彼女が起きる。にしても、何故こうも記憶が曖昧なのだろうな…こういうとき、常識的に考えてあるとするならば…

「あ!!もしかして泥酔でいすいして(ピー音)でもした!?」

そゆこと?

「急に何言ってんのよ!!!」

あっ、違うよね~。

「そもそも昨日は1日いなかったでしょ」

え?じゃあその間僕は何してたの?
って言いそうになったけど、本人が知らなくて知るわけがないか。

「腕…怪我けがしたの?」

僕の腕を見ている。気づかないことはないだろうが、聞かれても何と答えればいいのか分からない。だんだんと不安さが浮き出る。何か、妙な感覚と共に…

「多分…そうかな…」

あまりにも曖昧な言葉。ここまでの怪我けがをした本人がそのことを知らないはずがないのに。

「何それ」
彼女の表情が少し、不安げで、疑いを持ったような空気感をまとう。
「最近変だよ、色々と」
当然の反応。

「いや…そんなことは…」
ないはずがない。素直に言うことができないそれは…どういう感情からきている?漠然とした気の迷い。なんだか、息苦しい。

「何を隠してるの。ねえ、教えてよ」
真剣な眼差し、そして言葉には棘を感じる。それは鋭く、心に刺さる。貫かれる。痛い。ズキズキと痛むように、血さえ出ているのではないかと思うほどに。この感情はなんだ…とても自分を責めたくなる、僕は何か、悪いことをしただろうか…?

「…」
何も言葉が出てこない。

「いい加減にして!」
怒りがはっきりと現れる。

「いつもいつも、あなたは何もしない、何も言ってくれない!」

何も言い返せない。

「私のことどう思ってるの!」

どうしよう。僕は、彼女を好きで"なくてはならない"のに。それはとても脆い感情であった。こんなものが、本当に恋愛感情と言えるか?

「分からない…」
すごく最低な発言であると自分でも思う。許されるわけがないが、どこか、僕が許されていいはずがないと思っている。冷静さなどない。目は開いているのに何も見ていない。頭が真っ白になる。上手く思考ができない…

「もう知らない!!」
彼女は怒りの頂点に達し、部屋を出ていく。見えこそしないがおそらく、鬼のような顔をしていただろう。頭に血が上り、強い憎しみを持って。

これは…僕が悪いのだろう。何の罪のないエラを巻き込んでしまったから。僕があまりに無力であるから。なのに、正直望んでいた。もういっそ壊れてしまえと思っていた。諦めて欲しかった…こんなことまで思ってしまう僕に、ぼんやりとした罪悪感がはっきりと顔を出す。

僕は何もできないまま倒れこむ。ショックでそのまま、気絶するように…

2節 崩壊

「う…」
苦し気に起きる。あのまま倒れていたようだった。
「はぁ…」
落ち着いたとはいえ、気分はとても暗い。だからといってこのまま寝るわけにもいかないし…ええと、今日やることは…
コンコン、とドアを叩く音。
「ヒート、遅いぞ。部屋まで来てしまったではないか」
「お父様…!すみません…」
そういえば今日は、僕の父…エネム王に呼び出されていた。何やら、伝えたいことがあると…正直会うだけで怖い。流石は王と言わんばかりの威圧感に押しつぶされそうになる。

「ここへ来た理由は、何となくわかっているかもしれないが…」

ただの伝言ならわざわざ話しに来るようなことはしないだろう。

「単刀直入に言う。エラと結婚しなさい」

無理です。

とは言えない。ただ、どうしろと…
「しかし…」
僕は何かを言い出しそうになるが、何を言っても無駄だろう。

「跡継ぎが必要だ。ホームは役に立たない。あいつは、男と結婚したいだとか言い出して逃げたんだ。まったく…」
そういうことだろうとは思っていた。それを聞いて苦しくなる。いや、それはただエラとの関係性が悪いからだけではない。まるで僕が否定されたような、強いショックが生まれる。訳の分からないまま、それはより強く、憎悪、いきどおり、悲観、次々に感情が心から生まれ、混ざり合う。

「それの何が悪いんだよ!!!」
つい、口に出る。なぜ?
僕は今まで、不満を口には出さなかった。怖いから。何が起きるか分からないから…
「お前らが言う伝統はいつもそうだ!なんでも否定して、こうしなさいああしなさいと縛り付ける!」
言葉は止まらない。自然と出てくる。怖くなってくる。
「そんなのが伝統だというのなら、捨ててしまえ!!!こんな国の跡継ぎなんか誰がするか!!!」
これは、僕の本音?
正直嫌だった、こんな…辛い思いをし続けるのは…言われるがままに付き合い、結婚をし、跡継ぎのためだけに子を作る。そんな生き様は…可哀想なほど滑稽こっけいで、耐え難く苦しい。

しかし、強い言葉を言ってしまった。エネム王はというと…どうやら、ただでは済まなそうだ。
「誰がこの国を継ぐんだ!分かってるのか!」
王の立場としては自然な意見だろう。とはいえ、勢いに押されて従順になるなんかしてたまるものか。ありえない。そうなるくらいならいっそ…
壊すような勢いでドアを押し開ける。そのまま部屋を飛び出す。それに続いて、王も追いかけてくる。

執事やメイド達が驚いた様子でこちらを見ている。異様な光景を前にして立ち尽くしているようだ。

「待て!どこへ行く!」

叫ぶ声を無視し、後ろは振り向かず、ただ夢中に走り続ける。行先はないがこの宮殿の道は無意識に覚えている。

まだ走る。呼吸が乱れる。心臓の音がうるさい。

後ろから圧を感じる。近くへ近くへと迫られるような感覚。もっと遠くへ、逃げなければ…より速く、強く地面を蹴る。足が痛む。走るのは得意ではない。もう…限界が近づいている。

1歩1歩が徐々に重くなってくる。足に重りが付けられるかのように。

ここは…まだ庭のようだ。宮殿はかなり広い。だめだ、外に出る前に…足が…

足が前に出ない。ふらふらと、歩くよりも遅くなる。

立ち止まる。
「逃げてどうする!」
これではすぐに追いつかれる。
嫌だ。
今もこの先も苦しみ続けるというのか。
ヒートの様子は気が狂ったようであった。目の焦点は合わず、顔は青ざめている。疲れ果てたその身体に、生気は全く感じられない。
僕は、
僕は…

何のために生きている?

強い絶望感を覚える。その感情に、制止が効かなくなっていく。暴走する。
焦点が正確に合わずとも目の前に見える大きなそれは園芸用の刃物だろう。気づいたときにはそれを手に取っていた。
「近づくな!」

それを自分で僕の首へ突き付ける。刃の触れた部分は異常に冷たさを感じる。そこから気味の悪い感覚が広がり、吐き気が起こる。生物としての危機感だろうか。

すごく…寒い。心臓が静止しているのではないかと思うほどに血の巡る感覚がない。
冷や汗が出る。死ぬのは怖い。でも、生きるのは…もっと怖い。

身体が固まる。時間が止まったように、身体が凍ったように。1秒、1秒とただ時間だけが過ぎていく。刃が触れてから何分経っただろうか?実際にはほんの数秒なのかもしれない。

王が何かを叫んでいる。

しかし、それを理解することが出来ない。

もう脳に音は届いていなかった。

ごめんなさい、父さん。僕は…

刃を高く上げる、そして、勢いをつけて_____

あとがき

これは自殺を助長するものではありません。それを理解し、あくまで作品上の表現として留めて置いてください。

ごめん!!!めちゃくちゃシリアスになってしまった!!!!
僕自身、修羅場っていうものが苦手で見れない作品とかあったりするのだけれど、やはりこういったストーリーには修羅場をつけた方が締まるように思う
『葛藤』のストーリーの進め方に方向性で葛藤しながら、悩んだ結果、よく考えてみると僕はバイセクじゃなかったからヘテロの恋愛描写は書けなかった、けど逆にこれでハッピーエンドに方向を修正出来ると思う
次の3章で完結させるつもりだよ、楽しみにしててね

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