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幼馴染 1.栞 #創作大賞2024

登場人物

:真面目・世話焼き・しっかり者
彼氏が出来ても続かない。
【呼び方】司→司/テツ→てっちゃん

:無口・無表情
硬派を絵にかいたような男。
【呼び方】栞→栞/テツ→テツ

テツ:おどおどしていて大人しい
褒め上手(本人は素直にそう思っているから言ってるだけ。)
【呼び方】栞→しーちゃん/司→司

設定

・3人とも幼稚園からの幼馴染
・小中高と同じ学校に通う
・大学は栞と司が同じ大学、テツだけが離れたが同じ都市にある大学に通う
・現在は社会人
・司は地元、栞は都市部、テツは都市部から少し離れた地方で働く
・地元から数えて司→栞→テツの順で遠いが、都市部にすぐ集まれる距離感
・栞は社会人から一人暮らし、テツは大学から一人暮らし、司はずっと実家住み

S1:居酒屋

幼馴染の栞・司・テツが定期的に開いている飲み会。
今日はテツがもう1人連れてきていて4人で1つのテーブル(掘りごたつイメージ)に座っている。

SE:居酒屋のガヤガヤ感

テツ「ぼ、ぼく、あ、あのっ、この人と、つ、付き合ってるんだ・・・。」

栞M「その告白は幼馴染3人が揃った飲み会でのことだった。

その内の1人に連れて行きたい人がいると言われた時から予感はしていた。していたはずだった。」

「・・・・・・ふぇっ?」

栞M「あぁこの言葉に詰まる感覚は覚えがある。

あれは中2の夏、彼、幼馴染のてっちゃんから、思いもよらない告白を聞いたあの日。」

S2:テツの家のリビング(中2の夏)

栞回想1

中学2年生の栞とテツがリビングで夏休みの宿題をしている。

SE:セミの声

テツ「しーちゃん、ぼく・・・つ、司のこと・・・好きなんだ。」

「・・・・・・ふぇっ?」

栞M「それはてっちゃんちのリビングで。終わらない宿題を前に2人で苦戦していた時のことだった。」

栞回想1終わり

S3:居酒屋

SE:居酒屋のガヤガヤ感

テツ「ご、ごめんね、びっくりした・・・よね・・・。」

栞M「あの時も同じこと言ってたな。

中2の夏、彼が好きだと言った『司』とは、今私の横でビール片手に固まっている男だ。

司とてっちゃん、しーちゃんこと私『栞』は幼稚園からの幼馴染。幼い頃からてっちゃんは大人しくてすぐ泣く、ちょっと目を離すといじめっ子の標的になるようなおどおどした性格だった。最初は守ってあげなきゃと必死な気持ちが強かった気がする。

でも私や司が困っている時、落ち込んでいる時必ずそばに居てくれて。弱弱なくせに泣きながら立ち向かっちゃったりするから、私と司が慌ててフォローしたり。でもその一生懸命が嬉しくてドキドキしていつのまにか恋になっていた。

成長とともに司は習い事の剣道に打ち込むようになり、自然とてっちゃんと2人でいることが多くなった。そうなるとより想いが強くなった。

でもあの日、想い人の家のリビングで。
私の初恋は終わった。

てっちゃんの恋愛対象は男だった。」

S4:S2の続き、テツの家のリビング(中2の夏)

栞回想2

テツのカミングアウト後、リビングでテツと栞が机越しに向き合っている。

SE:セミの声

「・・・その話司にはしたの?」

栞M「絞り出した言葉は自分本意な質問だった。告白はしたのか、片思いなのか、両思いなのか。てっちゃんの気持ちを無視してまずは自分が確かめたいことを聞いていた。」

テツ「・・・してないよ。」

栞M「ほっとしてしまった。」

テツ「僕、ずっとどうしたらいいのか分かんなくて・・・あの・・・あれっ。」

栞M「てっちゃんが涙を流していた。幼い頃から泣き虫だったてっちゃんも、中学生になる頃には人前で泣くことはなくなっていた。

久しぶりに見た涙だった。

泣かないように堪えようとしているけど涙は次々に溢れていた。私はそれを見た瞬間、思わず向かいに座るてっちゃんの腕を掴んで言った。」

「てっちゃん。大丈夫、絶対大丈夫だよ。」

栞M「『大丈夫』これはてっちゃんが私や司によくかけてくれている言葉。
私はこの大丈夫に何度となく励まされた。

でも今の私の『大丈夫』は何が大丈夫なのだろう。
てっちゃんが抱えるものは私には想像もつかないことなのが彼の涙で感じ取れた。

それなのに何を無責任に大丈夫なんて。

掴んだ腕を離そうとした時、てっちゃんの両手が離そうとした私の手を掴んだ。びっくりする私にてっちゃんは」

テツ「もうちょっとだけこのまま・・・(消え入るような声で)。」

「・・・うん。」

栞M「どれくらい時間だったか覚えていない。その手はてっちゃんが泣き止み落ち着いた後、静かに離された。」

テツ「ごめんねしーちゃん、ありがとう。しーちゃんに話して良かった。」

栞M「てっちゃんは泣いて目が真っ赤だったけど、幼い頃のような満面の笑みを浮かべた。思えば今回の涙と同じくらい、久しぶりに見た笑顔だった。

もしかしたら誰にも言えずにいた想いがてっちゃんに影を落としていたのかなと思った。」

宿題は全然進まなかった

栞回想2終わり

S5:居酒屋

SE:居酒屋のガヤガヤ感

栞M「そして今てっちゃんの横には、私たち3人の誰よりもひょろっと背の高い、良く言えば社交的、悪く言えば・・・ちゃらそうな雰囲気のスーツの男が座っていた。

幼い頃から剣道をやり続けている硬派を絵に描いたような司とは真逆の男。

この人が彼氏だと言うのか。
騙されたりとかしてないよね。」

「えっと、こちらの方・・・は・・・?」

栞M「依然固まり続けている司と見比べつつ私は尋ねた。

彼氏の方が何か言おうとするより前にてっちゃんがあわてて説明を始めた。」

テツ「あ、あのね!大学のサークルのOBだった人なんだけど、実は2ヶ月くらい前から一緒に住んでて・・・。」

「え!?」

テツ「ご、ごめんね!ずっとしーちゃんには言おう言おうと思ってたんだけど、忙しそうだったし、その、この間会った時はしーちゃん色々大変そうだったというか・・・。」

「あ、あぁー・・・うん。」

栞M「2ヶ月前、私は彼氏と別れたばかりだった。
付き合って半年も経たないうちに浮気現場に遭遇した。
ドラマみたいな光景だった。

さすがに現場に遭遇したことは言わなかったが、同時期に飲み会をした時彼らに愚痴っていた。」

テツ「ごめん、それはでも言い訳で、ほんとは・・・言う勇気がちょっとだいぶなかったって言うか・・・ごめんなさい。」

栞M「てっちゃんはそう言いながら司に一瞬視線を向けた。」

「司、いつまで固まってんの。なんか言いなよ。」

栞M「いまだ固まっている様子の司に焦れて声をかけた。」

「あっ、あぁ。テツ、ちょっ・・・だいぶ驚いた。」

テツ「・・・ごめんね、ずっと言えなくって。」

「栞には話してたのか。」

テツ「う、うん・・・あの、中学の時に・・・。」

「・・・そうか。」

テツ「ご、ごめんね・・・同性の司には、言いづらいっていうか、あのっ、ずるずるここまで来ちゃって。本当にごめん。」

「謝らなくていい。」

テツ「でも・・・。」

栞M「司はどこか悔しそうな、少し苦しそうな顔をして頭を掻きむしったあと彼に言った。」

「苦しかったか。」

テツ「え?」

「気づけなくて悪かった。」

栞M「中2の夏てっちゃんから話を聞いた私とは全然違った。
司はてっちゃんの気持ちに寄り添っている。

中学生の頃の私と、大人の司で比べるのは間違っているのかもしれない。

でも私は結局知っていたのにてっちゃんに何もしなかった。
邪魔こそしなかったが、彼の恋を助けはしなかった。
出来なかった。

てっちゃんが司への想いを本人に言うことはなかった。
なぜ言わなかったのか今も聞くことが出来ない。」

テツ「・・・ありがとう司。僕大丈夫だよ。」

栞M「泣き虫だったてっちゃんは泣いていない。
むしろすっきりしているように見えた。

今横にいるこの人がてっちゃんを強くしているのだろうか。

てっちゃんが昔好きだった人と、今好きな人を見ながら、てっちゃんにとって私は何者なんだろうと考える。

てっちゃんにとって何の役割もない私。
てっちゃんの大切な人に私はこれから先ずっとなれない。

鼓動が早まるのを感じて、胸の中心辺りを手で抑えた。

てっちゃんのことはとっくに諦めてた。
諦めてたはずだったのに

私は今まで付き合った人と1年も続いたことがない。
2ヶ月前に別れた男も浮気現場を目撃したのはびっくりだったが、つらくはなかった。

別れても別れてもあの夏の苦しさに敵うものはない。

私はまだ、てっちゃんのことが。」

テツ「しーちゃんのおかげなんだ。『大丈夫』になれたのは。」

栞M「てっちゃんは私を真っすぐ見て言った。」

テツ「・・・ずっと好きな人・・・がいたんだけど、やっぱり男の人で。おかしい僕ってなっちゃって。でも、しーちゃんに打ち明けた時、しーちゃん、『大丈夫』って言ってくれて・・・。僕ずっと『大丈夫』って言って欲しかったんだ。もう全然大丈夫な状態じゃなかったから。自分で言い聞かせるのが限界で、ずっと苦しかったから。」

栞M「無責任だと思っていたことがてっちゃんにはそう聞こえていたのか。」

テツ「ずっとそばに居てくれた大事なしーちゃんに、僕はずっと何にも出来なかった。そんな僕が付き合ってる人の話なんて、浮かれてるみたいでできないって思ったら、1番に言いたかったのに、言えなくなっちゃって・・・ごめんねしーちゃん。」

「大事・・・?」

栞M「大事だと思ってくれてるの?」

「お前ほんとすげーな・・・。」

テツ「え?何が?」

「いや、何でも。」

テツ「え、なんか僕なんかおかしなこと言った?」

「・・・恥ずくて言えね。」

テツ「そんな恥ずかしいこと言った!?」

「・・・あははっ!」

栞M「おろおろし出すてっちゃんと、
恥ずかしそうな司のやり取りに気づけば笑っていた。
幼い頃からお決まりのやり取り。」

テツ「しーちゃん?」

「ご、ごめん、ははっ、なんかおかしくて・・・なんでだろ・・・ははっ。」

テツ「そ、そうだね・・・なんか僕緊張しちゃって・・・おかしいよね。」

「だな。」

栞M「3人で笑いあう中、てっちゃんがやっと隣にいる彼氏に視線を向けた。」

テツ「あっ、ごめん、忘れてた。あのね、この人は・・・。」

栞M「てっちゃんが彼氏を紹介するのを聞きながら、私は改めて彼氏をじっと見る。良く言えば社交的、悪く言えばちゃらそうな雰囲気。

でもてっちゃんを見ている視線はずっと優しかった。」

S6:繁華街

飲み会の後、栞と司が並んで駅まで向かっている。

SE:街の賑わい

「お前ら俺のこと眼中なさすぎだよな。」

栞M「てっちゃんとその彼氏と別れた帰り道司が言った。」

「何それ。」

「なんとなく。」

「そんなことないよ。」

栞M「てっちゃんは司への想いは言わない様子だった。
だから私からは何も言えない。」

「俺だけ色々知らなかった。」

「まぁ・・・そうだね。」

栞M「眼中にないわけなかった。

私にとって司は恋敵だったんだから。
見たくなかったけど見ないわけなかった。

恋敵と思ってから態度が少し悪くなった私や、
恋心からくる挙動不審なてっちゃんにも全く変わりなく接してくれる司。

自分から積極的に話してくれることはないけど、どんな話でもじっくり聞いてくれようとする。
無愛想だけど誰にでも分け隔てなく優しい。

てっちゃんもきっとこういうところが好きなんだろうと気付くくらいには見てる。」

「苦しかったんだな。」

「・・・うん、苦しそうだった。」

「そうじゃなくて栞が。」

「私は別にずっと聞くくらいしか出来なくて。」

「そうじゃない。」

「・・・え?」

「栞。」

栞M「横にいる司は急に立ち止まり私に目線を合わせた。
合った目は真剣で離すことができない。」

「栞、お前テツのこと・・・。」

「やめて。」

栞M「咄嗟に声を張って司の言葉をさえぎる。」

「・・・ごめん。」

「あ、ごめん私も声大きくなっちゃって。鋭いなー。鈍感だと思ってたのに。」

「お前それ悪口。」

「はは、ごめんごめん。

てっちゃんの彼氏さん紹介する姿とか見てたら、なんか普通に、応援したくなる感情も芽生えたりしてるよ?
てっちゃんなんか珍しくなかった?彼氏さん年上なのにてっちゃんの方がしっかりしてるみたいな感じあったよね。」

「でもテツは結構ツッコミ厳しい。」

「そうなんだけど、私達以外の人では見たことなかったから。」

「あぁ。」

「びっくりした。」

「そうだな。」

「苦しそうなてっちゃんより、あぁいうてっちゃんがいい。」

S7:駅構内

栞と司は乗る電車が違う。
栞が乗る電車の改札前。

SE:駅の音

栞M「駅での別れ際、司がまた急に立ち止まって私を見た。」

「栞週末ひまか。」

「え?」

「うまいラーメン屋見つけた・・・から。」

「う、うん・・・?」

栞M「会話の意図が読めない。」

「うまいもん食べとけば大丈夫になる。」

「・・・ふっ。」

栞M「司なりに慰めてくれているのがわかった。
昔からそうなのに、無表情で言われて一瞬意図が読みきれなかった自分に少し笑う。」

「何。」

「ううん、何でも。ありがとう、司。」

幼馴染それぞれのストーリー

栞・司・テツそれぞれの視点でのストーリーを書いております。
よろしければご覧ください。

よろしくお願いします。

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