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ワーカーホリック 心酔する愚者①

 朝の繁華街は抜け殻のようだ。大宮から新宿に向かう電車でだいぶ潰されながら移動した分、人がいない繁華街の大通りは余計に静けさを感じてしまう。待ち合わせは時間は9時50分。私はスマートフォンをカバンから取り出す。画面は9時43分を指していた。目的地までは時間ぴったりに着くぐらいかな。と思いながら、ひたすら大通りを進む。途中目印のコンビニの角に立ち、カバンからスマートフォンで位置情報と目的地を確認する。あと3つ先の信号の角の正面ビルだなと思い、歩こうと思ったところ、コンビニの入り口に、明らかにぐったりとした様子で地べたに座っているハイブランドのスーツをきたお兄さんが目に入った。ところどころ、スーツが白く汚れているところを見ると恐らく彼は潰れたのだろう。近くに吐しゃ物があるはずだ。彼の右手には水の入ったペットボトルが握られていたが、様子を見るに、きっとお兄さんは水を買ったことなんて、覚えていないと思われる。そんな彼の様子を傍目でみながら、私はまた大通りを歩き始めた。

目的地のビルすぐ前の信号につき、ビルがすぐ正面に見えた。9階建てのビルの下のエレベーターの傍にスマートフォンを見てるSが見えた。遠目からでも分かるSの高身長と、爽やかなルックスからすると、お店の従業員に見えなくもないが、朝から元気な従業員なんて、この繁華街にはいないだろう。
そう考えているうちに、歩行者信号が青になり、Sが待つビルの向かう。
「おはよう」と私はSの顔を覗き込むように近づいて声をかけた。
おうっとSは返事を返す。Sがスマートフォンの画面を閉じて私をみる。
「今日は荷物が多いな。そういえは、東北帰りだっけ?」
「うん、一昨日までは日帰りで帰ろうと思っていたけれど、お尻が何時になるか分からないみたいで、東北チームが気を使って事前に仙台駅前のホテルの予約取ってくれたの。それで一泊。本当は今日は休みの予定で、お昼に東京に帰ろうと思っていたけど。寝る前に来ていたメールで開始が10時て書いてあったから、急いで荷物まとめて戻ってきた。」
それはそれは、お疲れ様です。とSは私を可哀そうな目でみる。
「今回の依頼、上は僕一人でも構わないとのことだったが、先方からは僕とお前の指名だとさ。何でか分からないけど」
「何でかとういうか、どうみても私はSの保険でしょう。Sが暴走しない為の」
「悪かったな。暴走するやつで」
Sはこどもっぽく、むすっとした表情をする
「まぁ、今回の案件は2人でよかったと思う。正直面倒な感じがしたし」
Sは再びスマートフォンの画面に目をおとす。
私もスマートフォンを開いて時間を確認した。画面は9時49分を表示していた。
そろそろ向かうかと。Sとエレベーターに向かう。
私はSよりも早くボタンを押そうとしたが、Sが先に押してくれた。
荷物が多いから、あえて押してくれたのだろう。
「ありがとう」と伝え、Sとエレベーターを待つ。
エレベーターが9階から下がっている表示を見て、私はSに話しかけた。
「そういえば、さっき面倒な感じって言ったけれど、間違っていないと思う」
そりゃそうだろう。とSが返事をしながら、ビルを見上げた。私もつられて見上げる。
昨夜、寝る前に上からのメールに梨本さんの名前があったから、公職系の、
我々の中ではいわゆる"簡単な"お仕事だと思っていたけれど、待ち合わせ場所がここの時点でややこしい依頼には間違いなさそうだと感じていた。
なぜなら、待ち合わせは場所はホストクラブを指していたのだから。




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